天空都市のコーデックス:マチュピチュ殺人事件 9章
二話目の投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
新作始めます。探偵物です。よろしくお願いします
天空都市のコーデックス:マチュピチュ殺人事件この物語もこれでおしまいです
ありがとうございました。
では、参ります!!
### 第9章:時空のコーデックス(最終章)
#### 1. 崩壊のクレッシェンド、あるいは質量反転の数理
「バリバリバリバリ、ドシャァァァァン!!」
もはや、地球がその身をきしませる断末魔の咆哮は、耳で聴く音ではなく、五臓六腑を直接「ガタガタ」と激しく震撼させる物理的な破壊エネルギーそのものへと変わっていた。
紀元前一万二千年のその瞬間、天空都市マチュピチュの命脈は完全に尽きようとしていた。山頂の永久氷壁から一気に流れ出した兆トン級の融解水は、都市の地下に張り巡らされた給排水路を完全に破壊し、石組みの土台を内側から泥水で満たしていた。私が最も恐れていた「地盤の完全なる液状化」は最終局面を迎え、美しい白い花崗岩で築かれた神殿も、棚田も、まるで水に浮かべた泥の細工のように、斜面を滑り落ちてウルバンバ峡谷の底なき闇へと次々と飲み込まれていく。
「先生! ダ・ヴィンチ先生! 早くここから逃げねえと、山ごと奈落の底だぜ!」
石工の親方ウルコが、石割用の巨大なハンマーを放り出し、太い腕で頭を抱えながら叫んだ。彼の禿頭には、天井から崩れ落ちた花崗岩の破片で何条もの血の筋が走り、その目は野生の本能的な恐怖で完全に血走っていた。
「待て、ウルコ! !慌てて外へ飛び出せば、液状化した斜面とともに自重で崖下へ加速するだけだ!」
私は、激しく波打つ床板にしがみつきながら、手にしたパピルス(ノート)に猛烈な速度で炭筆を走らせていた。私の天才的な脳細胞は、周囲の空間が歪んでいく「位相幾何学的な崩壊」の数式を、網膜に焼き付く光景から直接導き出していた。
「ホームズ! 見てくれ、この空間の『曲率』の異常な変化を!」
私が叫んだ先では、ホームズが、激しい突風でトレンチコートをバタバタと狂ったように羽ばたかせながら、祭壇の中央に立っていた。彼の目の前には、あの真犯人である仕え女の長キリャに突き刺され、心臓を貫かれた最高神官トゥパックの無残な遺体があった。
異様なのは、トゥパックの右手から零れ落ちていた、あの「漆黒のキープ(結縄)」だった。
途中でキリャの刃物によって切り裂かれたはずのその黒い紐の束が、今、神殿の直下から噴き出す超高圧の地熱蒸気と、大気中の異常な電気エネルギーを吸い込んで、「キィィィィン――」と、脳髄を直接刺すような高周波の音を立てていたのだ。黒い紐の一本一本が、重力を無視して「ゆらゆら」と天に向かって立ち上がり、その結び目の隙間から、禍々しいほどの「青白い光」が、幾何学的な放射状に放たれていた。
「……計算が合うな、ダ・ヴィンチ」
ホームズは、顔に飛び散った白い石粉を拭いもせず、パイプの最後の煙を激しく吐き出した。その鷹のような目は、死を前にしてもなお、極限の論理的な興奮で輝いていた。
「トゥパックが組み立てていたこの黒いキープは、単なる暗号ではない。このマチュピチュという『巨石の巨大なコンデンサ』に蓄積されたすべての熱力学的・天文学的エネルギーを一点に収束させ、時空の壁に強制的な『割れ目』を入れるための、物理的な鍵そのものだったんだ。キリャさんがトゥパックを殺したことでコードの編纂は途中で止まったが、この大洪水の急激なエネルギーの上昇によって、システムが『暴走』の形で勝手に起動を始めてしまったようだ!」
「オオオオォォッ!!!!」
防衛官カパックが、キリャの身体をその逞しい灰色の腕で抱きかかえながら、神殿の奥から叫んだ。彼の背後では、若き神官パチャや朝廷の使者ハナンたちが、互いの衣服を掴み合って狂乱の叫びをあげていた。誰もが、数時間前まで抱いていた「黄金への強欲」や「身内の猜疑心」など忘れ、ただ生への原始的な叫びをあげるだけの、憐れな家畜へと退行していた。
「カパック防衛官!」ホームズが声を張り上げた。
「あんたの部下たちを率いて、今すぐ都市の最東端にある『太陽の門』へ走れ! あそこの岩盤だけは、ダ・ヴィンチの数理計算上、液状化の断層から完全に孤立している! 大洪水の泥流も、あそこまでは届かない! 生きたければ、一歩も振り返らずに走るんだ!」
「探偵……お前たちはどうするんだ!?」カパックがトカゲの尾を激しく震わせる。
「僕たちには、僕たちの『あるべき帳簿の清算』が残されているのさ。行きなさい、キリャさんを連れて!」
キリャは、カパックの胸に抱かれながら、最後にホームズと私に向かって、静かに、しかし深く一礼した。彼女の美しい瞳には、自らの罪を受け入れ、それでもなお亜人たちとともに未来を生きようとする、気高い決意の光が宿っていた。
「ありがとうございました、異国の賢者様たち。あなた方の論理の光を、私たちは決して忘れません」
ウルコ、カパック、マイタ、そして十人の容疑者たちは、崩壊する神殿の壁の隙間から、白霧が立ち込める東の斜面へと、四足歩行の亜人たちを先頭に狂ったように駆け抜けていった。その背後で、「ドシャァァン!」と、今まさに私たちが立っていた密室の西側の壁が、完全にウルバンバの深淵へと剥がれ落ちていった。
#### 2. 時空のコーデックス、二人の天才の清算
神殿の内部に残されたのは、私と、シャーロック・ホームズ、そして祭壇の上で青白い光を放ち続ける「漆黒のキープ」だけだった。
床板はすでに三十度以上の傾斜をつけ、私たちは滑らかな花崗岩の表面を、爪が割れるほどの力で指先を引っ掛けながら、かろうじてその場に踏みとどまっていた。台形の窓の外を見れば、ワイナピチュの巨大な山塊が、まるで神の巨大な手で引き裂かれたかのように、中央から「メリッメリメリメリ」と二つに割れていくのが見えた。
「ダ・ヴィンチ!」
ホームズが激しい風の中で叫んだ。
「この黒いキープの、中央の結び目を見てくれ! 三重に重なったあの結び目の数理は、あんたがミラノで描いていた、あの『多面体の星型構造』と完全に一致しているはずだ!」
私は虫眼鏡を投げ捨て、肉眼でその青白い光の結び目を凝視した。
「……! そうか、これだ!」
私の脳内で、すべてのパズルが最後のピースを見つけた。
「このキープは、三次元の空間を四次元の位相へと『折り畳む』ための応力ベクトルを表しているんだ! トゥパックはこれを解きほぐすことで脱出しようとしたが、コードが切り裂かれたことで、現在は空間の引き込み流が『逆流』している! ホームズ、このキープが放つエネルギーの焦点に、我々が持ち込んできた『異物の質量』を接触させれば、時空の流対流が正常なサイクルへとリセットされる! つまり……君は19世紀のロンドンへ、私は15世紀のイタリアへ、それぞれの本来の座標へと弾き戻されるんだ!」
「なるほど、実にもっともな物理法則だ」ホームズはニヤリと不敵に微笑むと、上着のポケットから、あのロンドンから持ち込んだという、使い古された「黒い木製のパイプ」を取り出した。
「だが、ただ接触させるだけでは、座標の計算が狂うかもしれない。ダ・ヴィンチ、あんたの持っているそのパピルスの手稿――そこに書き込まれた、このマチュピチュの『すべての土木数理のデータ』を、このキープの焦点に同時に叩き込むんだ。あんたのルネサンスの知恵と、この古代インカの数理が融合した時、時空の正確な反転ベクトルが完成する!」
「私の……この三ヶ月間のすべての記録をかね?」
私は、手にしたパピルスを見つめた。ここには、私がこの紀元前一万二千年の天空都市で目撃した、文字を持たぬ亜人たちの生態、巨石を動かすための未知の力学、そして大洪水の完璧な周期性シミュレーションのすべてが、私の独自の鏡文字でびっしりと書き込まれていた。これを失うことは、科学者としての私の肉体の一部をもぎ取られるに等しい。
「惜しいかい、マエストロ?」ホームズが私の顔を覗き込んだ。
「歴史のパラドックスという観点から見れば、そのノートが15世紀のミラノへ持ち帰られることは、未来の幾何学をあまりにも歪めすぎる。あんたの知恵は、あんたの時代の人間を豊かにするためにだけ使われるべきだ。この失われた一万二千年前の記憶は、この崩壊する山とともに、ここで完全に清算されるべき帳簿なのだよ」
私は、一瞬だけ目を閉じ、そして、豪快に笑った。
「ハハハ! 全くその通りだ、ホームズ! 私は万物の『理』を追う者だが、未来の時間を盗む泥棒ではない! 私の頭脳の中にこの数理がある限り、何度でも新しいコーデックス(手稿)は描き直せる!」
私は、泥まみれになったパピルスの手稿を高く掲げ、床の上を滑りながら、ホームズの手を強く握りしめた。19世紀の冷徹な探偵と、15世紀の万能の天才。時代も、思想も、生きる世界も全く異なる二人の男の魂が、この滅びゆくインカの頂の上で、完全に一つの「論理の絆」で結ばれた瞬間だった。
「楽しかったよ、ホームズ。君の冷徹なロジックは、私の絵の具に最も美しい陰影を与えてくれた」
「僕のほうこそさ、レオナルド・ダ・ヴィンチ。あんたの万能の視点のおかげで、僕の退屈な脳細胞は、ロンドンのいかなるアヘン窟よりも極上の覚醒を味わうことができた。……さあ、帳簿を閉めようじゃないか!」
「オオオオォォォォ――――ッ!!」
私たちの頭上で、神殿の最後の巨石の天井が完全に崩落した。それと同時に、私は手にした手稿を、そしてホームズはその黒いパイプを、激しく青白い光を放つ「漆黒のキープ」の、その幾何学的な焦点へと同時に突き刺した!
#### 3. 時空の暗転、あるいは目覚めの調べ
「ドカーン!!!!」
視界が、一瞬にして「純白」へと反転した。
それは、爆発の光ではない。すべての光、すべての音、すべての質量が、無限の細さへと引き絞られ、一つの数学的な「特異点」へと収束していく際の、絶対的な無の光だった。マチュピチュの地鳴りも、ウルバンバ川の悲鳴も、カパックやキリャたちの顔も、すべてが万華鏡の破片のように私の周囲を「ぐるぐる」と高速で回転し、やがて一本の細い光の糸となって、虚空へと消え去っていった。
私の意識は、無限の奈落へと心地よく滑落していった。
…………。
……。
「……先生。ダ・ヴィンチ先生、お目覚めください。もう昼時でございますよ」
耳元で、聞き慣れた、しかしひどく現実的な、若い男の声が響いた。
私は、ハッと息を呑んで目を覚ました。
私の目に飛び込んできたのは、血紅色の不気味な太陽でも、崩壊する花崗岩の石壁でもなかった。そこにあったのは、柔らかい冬の木漏れ日、そして、ミラノの私の工房の、見慣れた漆喰の壁だった。窓の外からは、馬車の車輪が石畳を叩く心地よい音と、ロンバルディア平野の冷たくて清廉な、硫黄の臭いなど微塵もしない風が、穏やかに吹き込んでいた。
「……フランチェスコ(メルツィ)かね?」
私は、机の上に突っ伏していた身体をゆっくりと起こした。全身の関節が、まるで長い旅から帰ってきたばかりのように、ひどく重く、きしんでいた。
「はい、先生。また机の上で眠っておられたのですね。最近、お疲れのようです」
若き愛弟子のメルツィが、心配そうな顔で私の顔を覗き込み、温かいスープの入った器を机の上に置いた。
私は、自分の右手を見つめた。そこには、あのマチュピチュで泥まみれになったはずの、私の頑丈な指先があった。しかし、先ほどまで握りしめていたはずの、あのパピルスの手稿は、どこにもなかった。机の上に広がっていたのは、私が描き進めていた、あのミラノの教会のための『最後の晩餐』の、不連続な遠近法の素描だけだった。
「……夢、だったのかね?」
私は自嘲気味に呟き、衣服のポケットに手を突っ込んだ。
その瞬間、私の指先が、ポケットの最奥に、一つの「異物」が残されているのを捉えた。
それを取り出してみると、私の掌の上に転がり出たのは、パピルスでもなく、黄金でもなかった。それは、一本の、不自然に黒く変色した「植物繊維の紐」だった。その紐の先端には、私の知るいかなるイタリアの職人も結んだことのない、極めて精巧で狂気的な、インカの『キープ(結縄)』の結び目が、たった一つだけ、静かに残されていたのだ。
私は、窓の外の青い空を仰ぎ見た。
15世紀のミラノの空は、どこまでも高く、平和だった。しかし、私の脳裏には、あの紀元前一万二千年の山頂で、トレンチコートの襟を立て、パイプの煙を燻らせながら、私に不敵な微笑みを向けていた、あのロンドンの探偵の鋭い眼光が、今も鮮明に焼き付いていた。
「ホームズ……。君のいた未来のロンドンは、きっと私の想像を超えるほど、素晴らしい数理の歯車で動いているのだろうね」
私は、ポケットの中の黒い紐の結び目をそっと愛おしそうになぞると、再び新しい羽ペンを握りしめた。私のノート(コーデックス)の新しいページには、遠い未来の友に捧げるための、不可能な幾何学の翼のスケッチが、猛烈な勢いで描き始められていた。
世界が何度水に沈もうとも、人間の、そして亜人たちの紡いだ「論理の結び目」は、決して解きほぐされることはないのだから。
【第9章:時空のコーデックス(最終章)・了】
【天空都市のコーデックス:マチュピチュ殺人事件・完結】
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
ローマ編は続きます
パラレルワールドで魔法と多種族の住む下町ローマで起こる事件を魔法とスキルで解決していく物語です。時代背景は読者の描く時代に当てはめてくださいね。
よろしくお願いします。
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この作品を読んでくださる方がいていただけて、とても、うれしくありがとうございます。頑張って新しいアイデアを入れ込んでいきますので、よろしくお願いします。
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