天空都市のコーデックス:7章 マチュピチュ殺人事件編
二話目の投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
新作始めます。探偵物です。よろしくお願いします。
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では、参ります!!
## 【後編】失われた未来の結縄
### 第7章:氷の剣の幻影
#### 1. 紅蓮の逆光、あるいは最後の数理
「ゴゴゴゴゴ、バリバリバリ――!」
大地の底から響く断末魔のような地鳴りは、もはや空間そのものを周期的に歪ませる物理的な「波濤」となって、我々の足元を容赦なく揺らし続けていた。太陽の神殿の白い花崗岩の壁には、私の指の太さほどもある巨大な亀裂が「メキメキ」と音を立てて走り、そこから数千年の沈黙を破った大地の赤土が、まるで生き物の血のように「サラサラ」と零れ落ちていた。
台形の窓から差し込む光は、すでに血紅色を通り越し、不気味な「紫黒の光」へと変色している。太陽祭の最初の光が、広場の中央にあるインティワタナ(太陽をつなぎとめる石)の突起を真上から叩くその運命の瞬間まで、残された時間はあと数分もない。
私は、崩れ落ちた緑色花崗岩の門扉の残骸に背を預け、猛烈な速度でノート(パピルス)に最後の幾何学計算を展開していた。
「……流体の圧力勾配が限界値に達した。山頂の氷河の融解水は、現在、神殿の地下数百メートルにあるマグマの熱脈と接触し、完全に『臨界状態の超高圧蒸気』へと相転移している。ホームズ、この建物が液状化によって崖下へ滑落するまで、数学的な猶予はあと五分、いや、それ以下だ!」
「十分すぎる時間さ、マエストロ」
シャーロック・ホームズは、嵐のような突風が部屋の内部を吹き荒れる中、トレンチコートの裾を激しくなびかせながら、微動だにせず祭壇の前に立っていた。彼のくわえたパイプのハーブは、極限まで高まった大気中の酸素濃度を吸って「ボウ」と白熱した光を放ち、彼の鷹のような輪郭を妖しく浮かび上がらせている。
「十人の容疑者、十の悪意、そして内側から完璧に閉ざされた台形の門。これほど美しい『不可能性の迷宮』は、19世紀のロンドンでもお目にかかったことがない。だがね、ダ・ヴィンチ。自然の法則がこの古代の山の上でも平等に作用するのと同様に、人間の『論理の幾何学』もまた、時代と空間を超えて不変だ。すべての不可能を消去していった時、最後に残ったものが、どれほど信じがたいことであっても、それが真実だ」
ホームズは仕込み杖の先端を、ゆっくりと、しかし絶対的な確信を持って、祭壇の上の最高神官トゥパックの死体、そしてそれを取り囲む容疑者たちの中心へと向けた。
「では、謎解きを始めようじゃないか。世界が水に沈む前の、最高の幕引きだ」
#### 2. 氷の剣の幻影、ダ・ヴィンチの第一推理
「待ってくれ、ホームズ」私は一歩前に出た。「その前に、私に一つの『力学的仮説』を述べさせてほしい。この密室を観察した時、私の脳内にある一つの『流体力学的な暗殺術』が浮かび上がったのだ」
十人の容疑者たち――防衛官カパック、石工の親方ウルコ、仕え女の長キリャたちが、一斉に私に視線を向けた。彼らの目は、迫り来る大洪水の恐怖と、目の前の老学者が語る不気味な言葉への好奇心で血走っていた。
「私はこの部屋の温度変化、そして被害者の胸の傷口を精密に解剖学的に分析した」私は虫眼鏡を死体の胸元にかざした。「凶器である純銀のピンは、確かに胸骨を貫通している。しかし、傷口の周囲の皮膚組織は、奇妙なほど『凍傷』に似た細胞の壊死を起こしているのだ。さらに、この部屋の天井にある二つの小さな台形の窓、幅はわずか二十センチメートルだが、昨夜の午前三時、そこからは山頂の氷河から吹き下ろす『極冷の噴流』が、この部屋の内部へと一直線に吹き込んでいたはずだ」
「何が言いたいんだ、老いぼれ!」カパックが喉を鳴らす。
「犯人は、部屋の外にいたのだよ」私は断言した。「犯人はあらかじめ、純銀のピンの代わりに、山頂の極冷の融解水を特殊な幾何学の型に流し込み、極限まで硬化させた『氷の剣』、あるいは『氷の矢』を作り出した。そして、外の通気口、あるいは窓の隙間から、何らかの力学的射出装置――例えば、猿の亜人たちの使う強力な投石器や、特殊な風圧管――を用いて、祭壇の上のトゥパックの心臓へとその氷の刃を音速で叩き込んだのだ!」
容疑者たちの間に「おお……!」という驚愕のどよめきが走った。石工のウルコが「氷の刃だと!? そんなものが骨を貫くのか!」と叫ぶ。
「理論上は可能だ」私はノートの数式を彼らに見せた。「氷に数パーセントの植物繊維(キープの切れ端など)を混入させることで、その引張強度は通常の氷の数十倍、ブロンズに匹敵する硬度へと跳ね上がる。そして、その氷の刃はトゥパックの心臓を貫いた後、この部屋の内部の異常な『地熱の上昇』によって、わずか数十分のうちに完全に融解し、水となって水路へと流れ去った。後に入った者が目撃したのは、ただの死体と、後からそこへ置かれた『儀式用の純銀のピン』という偽の凶器だけだ。これならば、犯人が密室の中にいなくても、内側からかんぬきを掛けた後にトゥパックを殺害することが可能だ!」
私は自らの流体力学的推理に確信を持ち、ホームズを見た。しかし、天才探偵は、パイプの煙を「ふう」と細く吐き出し、悲しげに首を振った。
「実に見事な、ルネサンス的で芸術的な推理だ、ダ・ヴィンチ。流体力学と材料工学の観点から見れば、その『氷の剣』のトリックは完璧に成立する。……だがね、マエストロ。それはあくまで『机上の数理』だ。僕の目は、その美しい仮説を粉々に砕く、決定的な『三つの物理的矛盾』を捉えているよ」
#### 3. 熱力学的反証、ロンドンの探偵の眼光
ホームズは一歩祭壇に近づき、トゥパックの着ている純白のヴィクーニャのチュニックの胸元を、細い指先で乱暴にめくり上げた。
「第一の矛盾は、被害者の『出血量』だ」ホームズは床に広がる大量の青黒い血の海を指し示した。「ダ・ヴィンチ、あんたの言う通り氷の刃が心臓を貫き、その後室温で融解したとするなら、床の血は大量の『融解水』によって希釈され、比重が大幅に低下していなければならない。しかし、僕が先ほどこの血の粘度を調べたところ、一切の水分の混入の痕跡はなかった。これは、純粋な、100パーセントの生血だ。つまり、現場で氷が溶けた形跡はどこにもない」
私はハッと息を呑んだ。色彩の幾何学に気を取られ、流体の比重の清算を見落としていたのだ。
「第二の矛盾は、この部屋の『熱力学的環境』だ」ホームズは天井の窓を見上げた。「昨夜、山頂から極冷の風が吹いていたのは確かだが、同時にこの部屋の直下では、マイタが言った通り『超高圧の地熱蒸気』が水路を逆流していた。室温は一晩中、摂氏三十度以上の高温多湿状態に保たれていたんだよ。そのような環境下で、植物繊維を混ぜたとはいえ、氷の刃を射出装置で正確に数メートル飛ばすなど不可能だ。部屋に入った瞬間に、表面が急激に昇華し、弾道が完全に狂ってしまうからね」
「そして、第三の、最も決定的な矛盾は……」
ホームズは、死体の胸に深く突き刺さっている、あのコンドルの細工が施された「純銀のピン」を、仕込み杖の先端でカチリと叩いた。
「このピンが心臓を貫通した際の『肉体の破壊痕』そのものだ。あんたなら一瞥して分かるはずだ、ダ・ヴィンチ。これは、超高速で飛来した『矢』によって穿たれた傷ではない。人間の、あるいは亜人の手によって、強固な質量を背後から乗せ、肉を切り裂きながら『執拗にじわじわと押し込まれた』、極めて泥臭い手動の刺創なのだよ。凶器は最初から、この純銀のピンそのものだった。……つまり、犯人は遠隔トリックなど使っていない。犯人は確実に、トゥパックが内側からかんぬきを掛けたその瞬間の、まさに『この部屋の内部』に、被害者と二人きりで存在していたんだ!」
「そんなバカな!」カパックが尾を激しく叩きつけた。「なら何故、かんぬきが掛かっていた! 俺たちが扉を壊した時、部屋の中には死体しかいなかったんだぞ! 犯人はどうやって外へ出たんだ!」
「犯人は、外へ出てなどいないさ」
ホームズはパイプを上着のポケットに収めると、十人の容疑者たちの中で、ただ一人、尋問の最初から最後まで、その場から一歩も動かずに虚ろな目で祭壇を見つめ続けていた「ある人物」の前に、静かに歩み止まった。
「犯人は、僕たちがこの部屋の門をぶち壊して中になだれ込んだその瞬間まで……ずっと、この部屋の死体の陰に潜んでいた。いや、もっと正確に言おうか。あんたは、僕たちが中に入るのを外で待っていたのではない。僕たちをこの部屋へ『誘導』し、最初に中に入った混乱に紛れて、さも『今、外から入ってきた容疑者の一人』であるかのように、自分の立ち位置を偽装したんだ」
ホームズの鋭い目が、深紅のショールを羽織った仕え女の長、キリャの顔を真っ直ぐに射抜いた。
「――キリャさん。最高神官トゥパックを殺害し、この完全なる密室を作り出したのは……あんたのその、満月を象った銀のピンを失った、細い手だ」
神殿の内部に、外の嵐を上回るほどの、冷徹な静寂が突き刺さった。キリャの胸元にあるはずの、あの巨大な銀のピン(トゥプ)――今見れば、彼女の衣服の胸元に残されていたのは、ピンが引き抜かれたことによって出来た、小さな、しかし決定的な「布地の破れ穴」だけだった。祭壇の上の死体を貫いているあの凶器こそが、彼女の身につけていた衣服の留め具そのものだったのだ。
【第7章:氷の剣の幻影・了】
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
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これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
この作品を読んでくださる方がいていただけて、とても、うれしくありがとうございます。頑張って新しいアイデアを入れ込んでいきますので、よろしくお願いします。新作始めます。探偵物です。よろしくお願いします。
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