第五話:『テヴェレ川の白骨幽霊船と、乾かない絵の具の足跡』前編
二話目の投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
新作始めます。探偵物です。よろしくお願いします
では、参ります!!
第五話:『テヴェレ川の白骨幽霊船と、乾かない絵の具の足跡』
前編:生霊の囁く川面、強欲貴族の墜落と不気味な訪問者
夏の終わりのねっとりとした夜風が、ローマの街を流れるテヴェレ川の水面を黒く波立たせていた。
ダ・ヴィンチ探偵事務所の古ぼけたオーク材の机の上には、数枚の薄汚れた羊皮紙と、中身の完全に干からびた油絵の具のチューブが散らばっている。
俺はヨレヨレの白いシャツの袖を乱暴にまくり上げ、錆びた虫眼鏡を片手に、今月の家賃の請求書を凝視しながら深い溜息をついていた。
「ダヴィンチさん! またそんな風に魂の抜けたような顔をして。一階のマルコ店長が、先月の市場の事件の報酬だけじゃ、まだこれまでの滞納分が全然足りないって、下ですごい剣幕で怒っていますよ!」
事務所の木扉を勢いよく開けて入ってきたのは、我が事務所の優秀な見習い騎士であり、白銀の美しい髪と猫耳を持つ少女、フランチェスカちゃんだ。彼女の頭頂部にある銀色の耳は、事務所の壊滅的な財政状況を察知してか、心なしか元気がなく耳がペタンと下を向いている。彼女の胸元からは、愛猫キララちゃんが「にゃあ」と情けない声を上げて顔を出し、お嬢さんの軽装鎧の隙間で身を縮めていた。
「ひゃははは! お嬢さん、そう焦っちゃいけないよ。絵描きってのはね、キャンバスが真っ白な時ほど、脳内では最高に鮮やかな色彩のレイアウトが完成しているものさね。ほら、見てごらん。お前さんのその白銀の髪の周りに、夏の夜の月光が反射して、美しい『純白の光のデッサン』がネオンのように輝いて見えるだろう?」
俺は自分の両目をカッと大きく見開いた。
固有スキル【画家】――それが、おじさんの脳細胞の奥底で、再び魔力のネオン顔料としてカラフルに覚醒する。おじさんの視界が、一瞬にして現実の夜闇のモノクロームを脱ぎ捨て、極彩色の魔力の画像へと変貌した。
しかし、その瞬間に激しい偏頭痛が俺の脳を容赦なく直撃する。
「――う、うぐぐぐっ! 頭が、おじさんの貧弱な脳細胞が、色彩の過剰な情報量に耐えかねてズキズキと割れそうだぜぇぇぇッ!!」
俺は油絵の具のシミだらけのシャツの上から額を押さえ、大理石の床に転がって悶絶した。解禁されたばかりのスキル【画家】は、周囲の魔力の残香を色の線として強制的に視覚化するが、ろくに鍛えていないおじさんの生身の脳へ一界に数万色のノイズが流れ込んでくるため、制御を誤れば一瞬で脳の神経回路が焼き切れてしまう不完全な異能だった。
「ダヴィンチさん!? またスキルを暴走させてるんですか!? 本当に頼りない探偵なんですから! ほら、私の手を掴んでください!」
フランチェスカちゃんが慌てて俺のヨレヨレのシャツの袖を引っ張り上げようとした。しかし、見習い騎士である彼女自身も、急な俺の卒倒に慌ててその綺麗な足元を机の脚に思い切りぶつけ、「あいたたた……!」と涙目を浮かべてその場にしゃがみ込んでしまった。一人の未完成な少女の姿がそこにあった。
だが、そんな俺たちのドタバタ劇を切り裂くように、探偵事務所の木扉が、壊れんばかりの勢いでバンッ!と乱暴に押し開けられた。
「おい! 貧乏探偵ダ・ヴィンチ!? 早く私を、この世の恐怖から救い出せッ!!」
部屋に踏み込んできたのは、下町の住民を法外な高利貸しで苦しめ、ローマの利権を強欲に貪り尽くしていることで悪名高い大貴族、ウバルド伯爵だった。
彼は普段、仕立ての良い絹の外套に身を包み、傲慢な態度で下民を見下している男だが、今夜の彼の姿は完全に異様だった。衣服はあちこちが泥と川水で汚れきっており、指に嵌めた無数の宝石は恐怖の脂汗で曇り、何よりもその顔が、まるで死人のように真っ白に燃え尽きていた。
「これはこれは、高貴なウバルドの旦那じゃないかい。おじさんのようなヨレヨレの画家に、一体何の用だい? 家賃の取り立てなら、マルコ店長に下に並んでもらっている最中さね」
俺が皮肉を交えて立ち上がると、ウバルド伯爵は俺のヨレヨレのシャツの胸ぐらをつかみ、その肥った体をガタガタと激しく震わせながら大声をあげた!
「笑い事ではないッ! 呪いだ! 幽霊船の呪いが私を殺しに来たのだ! 昨夜、テヴェレ川の霧の向こうから、国境を越えて戻ってきたはずの我が商会の大型貿易船『サント・ヴィート号』が流れ着いた……。だが、船内に入った私の部下たちが見たのは、荷物ではなく、乗組員全員が文字通り『肉体を失い、白骨死体と化した』地獄絵図だったんだ! しかも、船長室の床には、なぜか今も生々しく濡れたままの【不気味な漆黒の絵の具】が、私に向かって伸びてくるだよぉぉぉッ!!」
伯爵の言葉を聞いた瞬間、俺はマントの隙間から、自分の両目を細めてスキル【画家】の視線を彼の衣服へと向けた。
彼の絹の外套の裾には、通常の人間には絶対に見えない、どす黒い怨念のような【赤紫色の生霊の残香】が、飛び散ったインクのように不気味に浮かび上がっていた。
「なるほどねぇ、旦那。お前さんが下民から絞り上げた強欲の色彩が、ついに川の底から本物の『魔物』を呼び寄せちまったわけだ。今回の依頼人は最悪に傲慢な悪党だが、川に浮かんだ白骨のキャンバスは、おじさんたちのパレットで綺麗に塗り替えてやらなきゃいけないさね!行くよ、お嬢さん!」
「は、はい! 悪党の依頼は癪に障りますが、下町の川を呪いから守るために、私、全力で行きます!」
フランチェスカちゃんは、白銀の剣を引き抜き、その刃が月光を受けて鋭くきらめいた。こうして、俺たちは恐怖に錯乱する伯爵を先頭に、漆黒の霧が立ち込めるテヴェレ川の特設ドックへと急行した。
テヴェレ川の北側に位置する、ウバルド商会が所有する隔離された特設ドックには、異様なまでの静寂と、鼻を突くような川水の生臭さが立ち込めていた。
水面に浮かぶ大型貿易船『サント・ヴィート号』は、マストの帆がボロボロに引き裂かれ、船体全体がまるで何百年も海底に沈んでいたかのような、不気味な灰色の苔に覆われている。夏の終わりであるにもかかわらず、その船の周囲だけは、吐く息が白く凍り付くほどの異様な冷気魔法の残香が、ねっとりと渦巻いていた。
「ダヴィンチさん、足元が凍って滑りやすくなっています。気を付けてください!」
前方を歩くフランチェスカちゃんが、白銀の猫耳を周囲の不気味な水の擦れ合う音に向けて過敏にピクピクと動かしていた。彼女の胸元では、愛猫キララちゃんが「にゃあ」と低く警戒の鳴き声を上げ、お嬢さんの軽装鎧の隙間で身を縮めている。
「ひゃはは、大丈夫さね、お嬢さん。おじさんのこの安物の靴は、下町の泥水で散々鍛え上げられているからねぇ。それよりも、耳を澄ますんだ。スキル【画家】による魔力探知が、この霧のせいで情報のノイズが多すぎて上手く焦点が合わないんだよ。ほら、右側の通路が【鮮やかな赤色】に見えるから進む
うぎゃあ、おじさんの生身の額を思い切りぶつけちまったよぉぉぉッ!!」ただの『錆びた鉄格子の反射』じゃないかい!
俺はスキルの色の意味を完全に読み違え、霧の中の鉄格子に正面から額を強打し、ひゃはは、と情けない声を上げてその場にしゃがみ込んだ。解禁されたスキル【画家】は、このように脳細胞にかかる負担と環境のノイズによって、時として致命的な【色彩の誤認】を引き起こす不完全な異能だった。
「もう! ダヴィンチさんの大バカ者! 何を遊んでるんですか、しっかりしてください!」
フランチェスカちゃんが涙目になりながら、俺のヨレヨレのシャツの袖を引っ張って引き起こした。だが、彼女自身も、船体から漂ってくる未知の魔物のプレッシャーに圧倒され、剣を構えるその華奢な手元が微かに震えていた。完璧な英雄には程遠い、一人の怯える少女の姿がそこにあった。
俺たちはウバルド伯爵を背後に従え、ギチギチと不気味な音を立てる木製のタラップを渡り、幽霊船の甲板へと足を踏み入れた。
甲板に上がった瞬間、俺たちの目に飛び込んできたのは、まさにウバルドが語った通りの地獄絵図だった。船の舵を握ったままの姿勢で、あるいは甲板のロープに絡みついたまま、十数人の乗組員たちが全員、肉体や衣服を綺麗に消失させ、真っ白に乾燥した【白骨死体】となって転がっていたのだ。彼らの骨には、刃物で傷つけられた痕跡も、激しく争った形跡も一切ない。まるで、一瞬にして生命力だけを外部から根こそぎ吸い尽くされたかのような、異様な死に様だった。
「ひ、ひえええっ!???? 本当に全員が骨だけになっています! どんな魔法を使えば、こんな密室の船内で一瞬にして人間が骨に変わるんですか!?」
フランチェスカちゃんはその圧倒的な恐怖の前に、一歩も前に進めず、白銀の猫耳をヘナヘナと力なく垂れ下げて立ちすくんでしまった。
「落ち着け、お嬢さん。構図をよく見るんだ。この白骨たちの配置には、明確な『パレットの意図(意思)』が隠されているのさね」
俺は床に這いつくばり、錆びた虫眼鏡を甲板の木目に近づけた。
固有スキル【画家】の目を限界まで凝らすと、白骨死体たちの足元から、船長室の重いオーク材の扉に向けて、通常の人間には絶対に見えない【漆黒の粘液質の魔力線】が、一本の太い筆跡のように真っ直ぐに伸びているのが見えた。そしてそれは、ウバルドが言っていた「今も乾かない不気味な黒い絵の具の足跡」だった。
「おい、貧乏探偵! 突っ立っていないで、早くその奥にある呪いの正体を突き止めんか! 私はこの船の地下倉庫にある、時価数百万ゴールドの『純金の延べ棒』を回収しなければならないのだ! 下民の命などどうでもいい、早く私の財産を安全な場所へ運び出させろッ!!」
背後から、ウバルド伯爵が自らの恐怖を隠すように、傲慢な声を張り上げて俺たちの背中を突き飛ばした。
「おっと、ウバルドの旦那。そんなに強欲の色彩を撒き散らすと、キャンバスの主(魔物)が目を覚ましちまうぜ?」
俺が不敵に笑った瞬間、船長室の重い扉が、内側から激しい衝撃を受けてドガァァァンッ!!!!と内側の真鍮製ラッチごと吹き飛んだ!
吹き荒れる黒い霧の向こうから姿を現したのは、体長4メートルを超える、全身がドロドロとした漆黒の液体絵の具のような肉体を持つ、巨大な軟体型の魔獣――【怨嗟の魔液獣】だった!
その魔獣の半透明の液体の胴体の内部には、これまでに喰らってきた人間の無数の白骨が、まるで標本のように不気味に浮かび上がっており、中心には真っ赤な魔力の眼球がギラギラと発光していた。魔獣は、ウバルド伯爵が纏っている「強欲の生霊の残香(赤紫色のカラーパス)」を感知するなり、おぞましい歓喜の咆哮を上げて、その無数の液体の触手を一斉に伸ばしてきたのだ!
「――ぶひゃあああああッ!!!」
「ぎゃあああああッ!? 助けてくれ、私を食べないでくれぇぇぇッ!!」
ウバルド伯爵は、先ほどまでの傲慢な態度が嘘のように、その場で派手に腰を抜かして大理石のような甲板の上を無残に転がり、高級な絹の外套を自らの小便と川水で真っ黒に汚しながら、涙と鼻水を流して無様に絶叫した。
「お嬢さん、魔物の突進が来るぞ! 右の台座の影へ飛び込みなさい!」
俺が叫ぶのと同時に、魔液獣がその巨大な液体の触手を、鞭のように激しい速度でウバルド伯爵に向けて振り下ろした。
「キャッ!?」
フランチェスカちゃんは伯爵を突き飛ばしながら身を躱したが、魔獣が放った絶対零度の冷気衝撃波に吹き飛ばされ、甲板の氷屑のなかに無残に転がり、白銀の鎧の紐をブツブツと引きちぎられてしまった。手から離れた剣が、カランカランと遠くの壁際へと虚しく転がっていく。
「ぐぬぬ、お嬢さん! 今すぐおじさんがスキルの色を塗り替えてやる! 待ってろよ!」
俺は脳細胞を襲う偏頭痛を無視し、スキル【画家】の出力を最大まで解放した。
「【パレット・シフト・赤の熱素】!!」
俺は自分のヨレヨレのシャツの袖に染み付いた可燃性の鉱物成分に魔力を通し、お嬢さんの転がった剣の刃に向けて、空中から『燃え盛る赤の魔力線』を一本の筆跡として力任せに走らせた。
本来なら、これで剣の表面に爆発的な熱のエンチャント(属性付与)が施されるはずだった。しかし、解禁されたばかりの俺のスキルは、あまりの寒さと偏頭痛のせいで、またしても致命的な【色彩の混同】を起こしてしまったのだ!
「――あ、あれ!? おかしいねぇッ!! 赤の熱素を塗ったつもりが、魔物の冷気とパレットのインクが混ざり合って、ただの【滑りやすい黄色の油膜】になっちまったぜぇぇぇッ!!」
俺が放った魔力の光は、剣を熱するどころか、床一面に滑りやすい黄色の油の層を広げるだけの結果に終わった。
「ダ、ダヴィンチさんの大バカ者ーーーッ!! 何を遊んでるんですか、これじゃあ床がツルツルで立ち上がれません!」
泥まみれのフランチェスカちゃんが、床の油に足を取られて何度も不器用にズッコケながら、涙目で俺に向かって絶叫した。魔液獣は、そんなお嬢さんの隙を見逃さず、その巨大な触手を武器のように突き出し、彼女の華奢な肉体を粉砕せんと、二度目の突進の軸を合わせた。
だがその瞬間、魔獣の巨大な液体の足元が、俺がスキルミスで床に広げてしまった【黄色の油膜】の上に、完全に乗り上げた。
「――ぶ、ぶひゃっ!?」
どんなに強固な怨念を纏っていても、摩擦係数をゼロにされた油の滑り気には逆らえない。魔獣の液体の身体は、構図を完全に失ったデッサンのように前後左右へと派手に広がり、その巨体を激しく回転させながら、俺たちの立っている位置の真後ろ――すなわち、腰を抜かして泣き叫んでいた【ウバルド伯爵の肥満体】に向けて、自らの質量と加速のすべてを乗せて大激突したのだ!
「――ズガァァァァァンッ!!!!」
「ぶ、ぶほおおおおおッ!?!?(ウバルド伯爵の、この世のものとは思えない潰れたカエルのような悲鳴)」
魔液獣の強烈な激突を受けたウバルド伯爵は、その巨体をピンボールの球のように甲板の上で何度も激しくバウンドさせられ、自慢の高級な外套をズタズタに引き裂かれながら、船尾に積まれていた【最悪に臭い腐った魚の餌の樽】のなかに、頭から真っ逆さまに突っ込んでいった!
樽がバリバリと音を立てて粉砕され、ウバルド伯爵の全身には、ドロドロに腐った魚のハラワタと、強烈な悪臭を放つ下水の泥水が、これでもかと大量に浴びせかけられた。彼は頭に魚の骨を乗せたまま、顔中を腐敗液でドロドロに染め上げ、さっきまでの傲慢さが完全に消え失せた間抜けな姿で、「ふ、ふぎゃあ……! 汚い、臭い、助けてくれぇ……!」と、鼻水を垂らしながら涙目で気絶してしまった。下町を苦しめてきた強欲貴族が、自らの財産の目の前で、文字通り【最悪のゴミ屑】へと成り下がった、完璧な「ざまぁみろ」の瞬間だった。
「は、ははは……助かった、んですか……?」
油と泥にまみれたフランチェスカちゃんが、壁際の剣を必死に拾い上げながら、腰を抜かした状態でポカンと、腐った魚の山の中で気絶している伯爵を見つめていた。彼女の白銀の猫耳は、あまりの衝撃にヘナヘナと力なく垂れ下がっている。
「ひゃははは! 怪我の功名、これぞおじさんの『計算通りのミス(塗り残しの美学)』ってやつさね!」俺は頭を押さえ、偏頭痛の冷や汗を拭いながら立ち上がった。「だけどお嬢さん、おじさんの【画家】の目が、この魔物の肉体のレイアウトから、とんでもない『真実の輪郭』を捉えたぜ。……この魔物、どうしてこんな密室の船長室の中に、昨日から【閉じ込められていた】と思うんだい?」
「え……? 閉じ込められていた、ですか? 自分で人間を襲うために侵入したんじゃないんですか?」お嬢さんが泥を拭いながら首を傾げる。
「いいや、よく見なさい。このサント・ヴィート号には、外からの侵入経路(窓や隠し通路)は一切ない。だけど、床の隅にある【幅わずか五十センチの、船底へと続く排水管の隙間】……あそこだけが、魔物の冷気でガチガチに凍り付いて割れている。……真犯人はね、この巨大な魔獣をそのまま中に連れてきたんじゃない。昨日、この船が国境の検問所に停泊している際、まだ【手のひらサイズの小さな子供の液状魔獣(フルイドの幼体)】の段階で、排水管の隙間からこの船長室の中へと、ウバルド伯爵が密輸しようとしていた『最高級の魔力生肉』の匂いを使って誘い込んだのさね!」
「あッ! 子供の魔物なら、あの狭い排水管からでも入れる!」フランチェスカちゃんがハッと目を見開いた。
「そうさ。解体庫の事件と同じ構造さね。そして、この部屋には、ウバルドが密輸した大量の生肉が、無防備に保管されていた。……子供の魔獣は、その肉を一晩で『すべて貪り食った』んだよ。高位の魔物はね、大量の魔力と肉を摂取することで、わずか数時間の間に、一気に【大人の巨獣へと急速成長】する生態を持っているのさ! つまり、人間が骨になったんじゃない、乗組員たちは肉を奪われた後、この魔獣の『胃袋の中(肉体密室)』へと収まり、その結果、体がおおきくなりすぎて排水管から出られなくなり、この部屋の中に完全なる【肉体の密室】として閉じ込められていたのが、この事件の本当のデッサンさね! 犯人は、ウバルド商会の利権を大暴落させるために、この成長の罠を仕掛けたのさ!」
「ぶ、ぶひょおおおおおッ!!!」
俺の推理が終わるのと同時に、ウバルド伯爵を押し潰していた怨嗟の魔液獣が、その真っ赤な目を再び見開き、怒り狂って立ち上がった。船全体の冷気が一気に反転し、甲板の氷の鍾乳石が、俺たちの頭上に向けて一斉に弾丸のように降り注ごうとする!
しかしその瞬間、魔獣が倒れた衝撃で、船長室の床の木板がガラガラと激しく崩落し、そこから船底のさらに奥深く、テヴェレ川の川底へと続く**【未知の巨大な氷の迷宮(隠し通路)】**が姿を現したんだ! その奥からは、まだ何頭もの魔獣の遠吠えが響いてきやがる。
「お、お嬢さん、事件の本番はここからさね! この船底の奥に、この魔物を送り込んだ真犯人の本当のパレットが眠っているぜ!」
俺は偏頭痛を気合でねじ伏せ、右手の指先を突き出した。
「【パレット・マスター・正真証明の赤の熱素】!!」
今度は完璧だった。俺の指先から放たれた純烈な赤の魔力光が、フランチェスカちゃんの剣の刃へと一瞬で吸い込まれ、白銀の刃が、周囲の氷をまたたく間に蒸発させるほどの【超高温の紅蓮の炎】を纏って激しく爆発した。
「――これなら、いけます! 下町の川の平和は、私が守りますッ!!」
泥まみれの見習い騎士の少女は、今度は一歩も引かなかった。彼女は紅蓮の炎の剣を両手できつく握り締め、突進してくる巨大な魔獣の牙に向けて、その身体をバネのようにしならせて正面から地を蹴った。
切り裂く紅蓮の軌跡と、砕け散る青い氷の鎧。
だが、崩壊する船底の奥から、さらなる冷気の渦が俺たちを飲み込もうと這い上がってくるのだった。
(第五話・前編 了)
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
パラレルワールドで魔法と多種族の住む下町ローマで起こる事件を魔法とスキルで解決していく物語です。時代背景は読者の描く時代に当てはめてくださいね。
よろしくお願いします。




