第52話 魔王降臨
魔眼が馴染む。
まるで初めから俺の肉体に組み込まれていたかのようだ。
翠の奔流が、脳髄の奥まで満ちていく。
――理解した。
この力の使い方を。
「開け――冥界の門」
呟いた瞬間、足元に魔法陣が展開する。
黒い瘴気が溢れ、そこから無数の腕が這い出した。
まず一本。
続いてもう一本。
赤黒い脈動を刻みながら、地の底からソレは姿を現す。
「グ、ギ……ッ……」
頭部がせり上がり、両腕で地面を掴んで産声を上げる。
次々と続く影――現れたのは、無数のゴブリンたちだった。
「グギ……ギギ、ギギギ……!」
涎を垂らしながら立ち上がり、その濁った眼が、一斉にネクロマンサーを捉える。
「――行け」
指先を向けた瞬間、ゴブリンの群れが咆哮と共に突撃した。
「グッギイイイイイッ!!」
対するネクロマンサーは、錫杖を打ち鳴らす。
重力魔法の衝撃波が地を揺らし、前衛のゴブリンが押し潰されていく。
圧死した個体は瘴気に溶け、霧散した。
だが、俺が召喚し続ける限り、こいつらは何度でも蘇る。
「■■、■■■■――!」
埒が明かぬと悟ったのか。
ネクロマンサーは攻め手を変えた。
錫杖の振動が大地を歪め、土塊が粘土のようにこね上がる。
そこから生まれたのは、歪な悪鬼の群れ。
「――ギギギ……ギギギギッ」
墓地へ向かう途中で遭遇した、やたらと皮膚の硬い個体――あれと同じだ。
「なるほど……てめぇの造った土人形だったってわけか」
得心がいくと同時に、胸の奥がざわついた。
「どっちの駒が強いか、勝負しようってか? 面白ぇ……!」
俺の背後には、まだ手札がある。
巨木のトレント。そしてその頂から戦場を見下ろす、ウェアウルフ。
「迎え撃て」
遠吠えと共にウェアウルフが駆け出し、地面からはさらにウルフを召喚。
十体の獣が縦横無尽に墓地を駆け、ネクロマンサーもろとも、土人形を包囲した。
「ウェアウルフは足だけは優秀だからな。のろまなお前らじゃ追いつけねぇよ!」
俺の魔眼は、モンスターを使役する。
これまでに俺が殺してきた命――その魂を冥界から引きずり戻し、鎖で縛り、傀儡とする。
「■■、■■……!」
見えてるか、死神野郎。
俺の背後に揺らめく、魂の群れが。
お前は今、俺が殺してきたモンスター全てを、同時に相手してるんだよ。
恐怖し、そして後悔しろ。
俺たちを墓地に閉じ込めたことを――
その頭にのっけてる悪趣味な王冠、今すぐ吹き飛ばしてやる。
「足元がお留守だな」
「――■、■■――!!」
地中を這わせていたトレントの根が、錫杖に絡みつく。
振り払おうとする度に、根はさらに絡みつき、自由を奪う。
土人形ともども動きを封じられ、憎々しげに地面を睨む。
その隙を突き、ウェアウルフが飛びかかる。
「ガルルルルルアアアアア!!」
人形はスピードで攪乱、多対一に持ち込み処理させる。
だが、ネクロマンサーには小細工は通じない。
「■、■■、■■――!!」
錫杖を捨て、骨の拳で迎撃してくる。
魔術師のくせに肉弾戦も可能と来た。流石はレッドゲートの主だ。
ウェアウルフの牙も爪も、奴の身体を貫くには至らない。
「……雑魚じゃ歯が立たねぇか。なら、ボス級をぶつけるしかねぇな」
視線の先――片膝をつき、震えるゴブリンキング。
キングは俺を睨みつけていた。
首から伸びる『翠の鎖』を握りしめ、雄叫びを上げる。
「ブガアアアアアアッ!!」
「不服か? 俺に使役されるのが。……まあ、そうだよなぁ。てめぇを殺した人間に、好き勝手使われてんだからよ!」
俺は鎖を引き絞る。
「ブグッ……ガアアアアア!!」
「勘違いすんなよ。俺と貴様らが、対等だとでも思ってんのか?」
喉を圧迫され、キングが苦悶の声を漏らす。
「自覚しろ。貴様らは俺の所有物――奴隷だ。たとえ地獄に堕ちても逃がさねぇ。魂が擦り切れるまで永遠に使い潰してやるよ! ハハハハハハ…アッハッハッハッハァ……!!」
これは協力じゃない。
一方的な搾取――隷属だ。
俺はずっと思っていた。
モンスターを殺す事こそ、俺の存在理由――だが。
殺したら、それで満足か?
本当にそれで終わりなのか、と。
死の痛みなんて、一瞬だろ?
――朱里は死してなお、辱められた。
尊厳を奪われた。
奴らに、■■された。
だったら、てめぇらだけが死んで終わりなんて……生温いだろうが。
「さあ、俺に跪け! 屈服しろ! 俺は貴様らを利用する! 今からこの俺が――貴様たちの王だ! 同族殺しに加担させてやるから覚悟しなぁ、ゴミ共ォ! ハッハッハッハッハ! アーッハッハッハッハァ!!!!」
ネクロマンサーはマントを変形させ、棘の繭で身を守る。
飛び掛かるウェアウルフは次々と串刺しにされ、十体の群れは壊滅した。
「さあ出番だぞ、キング」
ゴブリンキングが巨体を揺らし、捨て身の突撃を放つ。
「ブグアアアアアアァッ!!!!」
「■■■、■■――!!」
衝撃でネクロマンサーの頭から王冠が転がり落ちた。
王座奪還だ。
よかったなぁ、悪鬼の王。
「……お前もこっちに来い。俺の手足になれ、ネクロマンサー」
必ず殺す。
殺してその魂を手に入れる。
死霊術……良いじゃねぇか。
お前も俺の復讐に――穢れた華を添えてくれよ。




