表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/56

第49話 死神舞踏

 腐臭を撒き散らしながら、グールの群れがじりじりと包囲を狭めてくる。

 足取りは鈍い。だが、確実にこちらへ迫っていた。


 ねじ曲がった四肢。糸を引く濁った唾液。

 その異形の姿は、嫌悪と本能的な恐怖を否応なく掻き立てる。


 前衛部隊はすぐさま戦闘態勢に入った。


「このっ!! 燃え尽きやがれえええええ――!!!!」


 咆哮と共に炎龍が迸り、灼熱の奔流がグールの群れを薙ぎ払う。


 黒焦げの腕が落ち、足を失った個体が転倒する――

 だが、それも一瞬。


「ggggggggg……!!」


 欠損部位が、まるで巻き戻しのように再生していく。

 肉が芽吹くように腕が伸び、倒れた個体には新たな脚が生えた。


「こ、こいつら……不死身かよっ!!」


 いや、その理解は半分正しく、半分は誤りだ。


 グールはネクロマンサーの操り人形。

 奴の魔力が続く限り、何度でも立ち上がる。


「闇魔術による強制再生だ。肉体の修復速度が異常すぎる」


「じゃあ、倒しても意味ねぇって事かよ!」


「……リソースの無駄だ。力は温存した方が良い」


 幸い、グールの動きは鈍い。

 放置しても致命的な脅威にはならない。


 問題は――中央にいる()()


「■、■……■■■、■■――」


 錫杖を打ち鳴らしながら近づいて来る、あの死神。

 踏みしめるたび、大地は漆黒に染まり、足元からは赤い瘴気が滲み出る。


 脳がチリチリと、警鐘を鳴らす。



 ――あれは、ダメだ。


 対峙した瞬間に理解した。


 生命としての格が違う。

 真っ向勝負など論外。



「逃げるが勝ち、か……」


 後方には青白い壁が立ち塞がり、ドーム状に俺たちを閉じ込めていた。


 木羽が頭を掻きながら、顔を歪める。


「クソっ……! 何度やっても思念が飛ばねぇ……! どうなってやがんだ!!」


「……奴の錫杖から広がったサークルに足を踏み入れた瞬間、妙な感覚があった」


「それ、俺も感じたぞ! 全身の毛穴が逆立つみてぇな気持ち悪さだったな!」


「恐らく結界の類いだ。俺たちは奴の作り出したフィールドに閉じ込められたな……」


「……マジかよ」


 木羽が愕然とする一方、灰原が静かに言葉を継ぐ。


「僕も御剣さんの推測に同意します。過去に戦った結界持ちのモンスターと、状況が酷似していますね」


 毒島がグールに鞭を浴びせながら、後方に目配せする。


「あの青い壁……あれが結界って事で良いんだよね?」


 俺は頷き、じりじりと迫るネクロマンサーを注視する。


「索敵や通信系のスキルは全て弾かれると考えた方が良いな。物理突破できるかどうかは、試してみないと何とも言えないが……」


 木羽は苦々しげに拳を握ると、そのまま両拳を打ち付ける。

 黄金の飛沫が散り、輝くナックルが墓地を照らす。


「こうなったら仕方ねぇ! 奴をぶっ潰す以外に道はねぇなっ!!」


 土を蹴る音――


「待て木羽っ!!」

「アホっ! 突っ走んなっての!!」


 俺と毒島の静止を振り切り、木羽は単身突撃する。


 ネクロマンサーは錫杖を左右に振る。

 鈴の音と共に、背後のマントが歪に絡み合い――


 巨大な深紅の拳を生成した。


「うるあああああっつ――!!!!」


 ギイイィィィン――!!!!


 木羽の拳と、深紅の拳がぶつかり合う。

 波動が大地に伝い、ひび割れる。


「チィ……なんつー力だよっ……!」


 食いしばる木羽。

 みるみるうちに顔面が赤く染まり、血管が浮く。


(ゴーレムを一撃で葬る木羽のパワーと互角だと……!?)


 そのがら空きの胴体を、ネクロマンサーの眼孔が捉える。


「■■■、■■、■■――!!!!」


 骨の拳を握りしめ、そのまま叩きつけた。


「グオッ――!!」


 肉に食い込むネクロマンサーの拳。

 一拍おいて、木羽の体は吹き飛び、そのまま遥か後方の墓標へと叩きつけられた。


「……木羽! このっ――調子乗ってんじゃないわよっ!!」


 毒島の鞭が空を舞う。

 二度三度、軌道を変幻自在に変えながら。


 狙いは、奴の持つ錫杖――

 その持ち手部分に、鞭が正確に巻き付いた。


「それがなけりゃ、アンタなんも出来ないでしょうが!」


 毒島はそのまま引き絞る。


 だが、力負けするのか。

 中々その手から錫杖を奪う事は叶わない。


 苦戦する毒島の姿を見て、前衛に控えていたギルド隊員二人が、顔を見合わせ頷く。


「嬢ちゃん、そのまま押さえてな!」

「――助太刀するぞ!!」


 剣と槍が閃く――が。


「■、■■……■■■……!」


 ネクロマンサーは左手を上へ向けると。

 そのままフッと、地を指差す。


 同時に、赤い衝撃波が二人を押し潰した。


「ぐぅ……重っ……!」

「う、動けんっ……!」


 地に這いつくばる二人。



 ――重力魔法。


「野郎っ、扱えるのは闇魔術だけじゃねぇのか……!」


 錫杖の先端が、青白く輝く。


「■、■■……■■、■■……!」


 ネクロマンサーは続けざまに唱える。

 錫杖から放たれた魂魄(こんぱく)髑髏(どくろ)を模し、瞬く間に鞭を伝う――


「ちょ、ヤバっつ――!!」


 魂魄が毒島の胸元で爆ぜる。


「毒島っ!!」


 紫のツインテールを揺らしながら倒れ、ピクリとも動かなくなった。


 執行部隊の二人を、児戯の様にあしらう。

 紛れもない……奴は怪物だ。


 ネクロマンサーはそのまま地を這う二人の元へと近づき――


「ぐぬっ……これしきの、事でっ……グ、ガッ――!!」

「ギャアアアアアアア!!」


 錫杖の先端で、頭蓋を砕いた。



 そしてこちらを見据える。

 次なる標的の姿を。


「■、■■……■■、■■、■■……」



 俺たちの命を――



「こ……殺されるっ……!!」

「いやっ……いやああああああっ!!」


 パニックに陥る集団。

 そんな中、灰原は班目へと近寄り、何やら耳打ちをしていた。


「……状況なら……が…… 確実に……用意しますので……して下さい」

「――!!」


 班目の目が見開かれる。

 驚愕する班目を放置し、灰原は隊員達をちらりと見やりながら、軽く息を付く。


 そして俺に向かい合い、静かに告げた。


「……御剣さん。後は任せました」


 この状況で、妙に落ち着き払った声音だ。

 だが、その言葉の意味する所は、俺にはすぐに理解できなった。


「任せたって……何を言ってるんですか」


「僕が奴の注意を惹きつけます。その隙にグールの群れを突破。皆さんを連れて、出来る限り遠くへ逃げて下さい。いかに結界の中とは言え、何もしないよりかはマシでしょう」


 クリスナイフを構える灰原。

 冷静な挙動に、俺は胸の内が掻き混ぜられる思いがした。


「――無謀だっ!! 仮に戦うにしても、全員で仕掛けるべきだ!」


「既に隊の殆どの方が、戦意を喪失しています。このまま戦えば被害が増えるだけ……ここは逃げの一手が正解です。藤堂さんが来るまでの間、時間稼ぎを」


 灰原の言う事は、恐らくこの場における最善だ。

 ネクロマンサーと渡り合える可能性があるのは、執行部隊の統括者である灰原を置いて他にいない。


 俺も同じような事を考えていた。


 そして最善だと分かってしまうからこそ。



 ――自身の無力さに、腹が立つ。



「木羽さんを回収して、結界の(ふもと)まで行って下さい。無事に墓地を抜けられればそれで良し。……もしも突破が叶わないようでしたら、その後の采配は任せます」


 俺は地面で転がる毒島を背負い、灰原に背を向ける。


「……済まん」


 去り際の俺に、灰原は薄い笑いを向けた。


「謝らないでください。これもリーダーの務めですよ。縁があったら、またお会いしましょう」

読んで頂きありがとうございます。

面白いと思って頂けたら、ブックマークや評価で応援頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ