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第34話 宴の席

 目的地に到着した。


「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」


 げっそりとした顔の茂宮しげみやが応対する。


「……六で」


「六名様ですね! 奥のお席へどうぞ!」


 年末のかき入れ時なのか、店全体が熱気を帯びている。

 はつらつとした従業員に案内され、俺たちは一番奥のテーブルへと通された。

 大所帯は長居すると踏まれているのだろう。まさにプロの気配りだ。


「じゃ、きららここにする~ よろしくね、一真っち♥」


 毒島どくじまが当然のように隣をキープし、ピースとウィンクを飛ばす。

 その様子を見て、木羽きばが「……妖怪猫被り」とぼそりと漏らした。


「じゃ、ま、好きに頼んでくれや」


 茂宮の一言で、QRコードにスマホが殺到する。

 注文を受け、次々と料理が運ばれてきた。


「やっぱ肉だろ、肉!! 肉うめぇええ!!」


 ミックスグリルにかぶりつく、木羽はご満悦だ。

 ツンツン頭にも生気が戻っている。


「ん~、ティラミスおいし~」


「いきなりティラミスっておかしいだろ、お前……」


 ココアパウダーの染み込んだ生地を頬張る毒島に、木羽はげんなりした顔を向ける。


 確かに、ティラミスはないな。

 サ○ゼのデザートなら『ジェラート&シナモンフォッカチオ』一択だ。


 ――俺も後で頼むとしよう。


 チョリソー、チキン、サラダにパスタ。

 見慣れたメニューがずらりと並び、テーブルはあっという間に埋まった。


「ひょおっ! うまそ~! 茂宮さん、ゴチになります!」


 吉田が軽く手を合わせ、チョリソーを口に運ぶ。


「……おめぇら、本当に遠慮しねぇのな」


 エスカルゴをフォークで刺しながら、茂宮がぼやく。

 似合ってないぞ、エスカルゴ。


 一通りの料理が出そろうと、話は本題へと移った。


「んで、御剣よ。()()()を受け取ったって事は、桐生さんとの交換条件は承諾したって事で良いんだよな?」


 俺の腰に巻かれたウエストポーチを指差す茂宮。

 周囲に気を配りながら、そう問いかけた。


「ああ。ものが何であれ、力をくれたのは事実だ。それに――あの地下にあった例のブツは、俺も気になってる」


 存在を秘匿されたゲート。

 俺にはまだ、知らないことが多すぎる。


 モンスターを殺し続けても、世界は変わらない。

 終わらぬ狩り。堂々巡りのいたちごっこ。


 どうせ殺すなら、俺の知らぬ世界で――もっと先の可能性を見てみたい。


 桐生の誘いに乗った理由は、それが大きかった。


 視線をウエストポーチへ向ける。

 桐生から渡された、エメラルドの禁忌――


「早速入れちゃう、ソレ?」


 ティラミスをぺろりと平らげた毒島が、俺の腰に目を向ける。

 その瞳の奥に、一瞬だけ鋭い光が走った。


「いや、まだだ。リターンはあるかもしれないが、リスクがデカすぎる」


「うんうん! きららもそれが良いと思うなぁ♥ 入れるのはいつだってできるし、用心に越したことはないよねぇ!」


 そう言いながら、毒島は流れるようにQRをスキャンし、追加注文を入れた。

 無駄のない動き、あまりの手際の良さに舌を巻く。


「うし! じゃあ御剣、お前これから俺らの部隊に入んな! 地下に行くためのICカードは、俺か毒島が持ってる。いつでも声を掛けてくれ」


 自信ありげに胸を叩く木羽の言葉が、じくりと胸を苛む。


 部隊――



『このっ、狂人がっ……!! 人でなしっ!!!! 許さない……! 私は貴様を、絶対に許さないからなっ……!!』



 新宿イエローゲートの顛末が、脳裏に蘇る。

 胸の奥が、ひどく冷えた。


「……俺はパーティーは組まない。ソロ専門だ。人数が増えると、判断が鈍る」


「ん? ああ違う違う! 部隊って言っても、別にギルドみたくでけぇパーティーを作る訳じゃねぇよ! 俺ら執行部隊は、ツーマンセルで行動してんだ。俺と毒島、そこに御剣を加えた、計三人。これならどうだ?」


 三人か。

 俺の監視も含んでいるだろうから、そこらが落としどころって事か。


「……分かった。よろしく頼む」


 ミックスグリルを完食し、チキンへと手を伸ばす木羽。

 ふと、その指が止まった。


「そういや、まだ正式に自己紹介してなかったな――」


 指先の油をぺろりと舐め、木羽は俺に向き直る。


「公安執行部隊所属、木羽きば 遼河りょうがだ。よろしく頼むぜ、御剣!」


「はいは~い! 次きららね! 同じく公安執行部隊所属、『純情きらりん★』きららです! 気軽にきららって呼んでください♥」


「自己紹介になってねぇぞ、毒島。ちゃんと本名名乗れやっ――!!」


 テーブルの下で、がたりと大きな音。

 木羽の表情が悶絶に歪む。


 蹴られたな。


「毒島なんて知りません♥ きららはきららです! よろしくです!」


 指でハートを作る毒島に、茂宮が冷めた目線を向ける。


「きららなんて呼んでる奴、ほとんどいねぇだろうが……」


 同じくその隣で、小さく千切ったバゲットを口に入れる葵の呟きを、俺は聞き逃さなかった。


「アホくさ……」


 ……本当に騒がしい連中だ。

 だが、不思議と嫌悪感は抱かなかった。


 ――――


 食事を終え、店外へ。


「じゃあ御剣! 準備が出来たら、本庁まで来てくれ! 俺らは基本そこで待機してっから、声をかけてくれたらいつでも行けるぞ!」


「じゃあね、一真っち~ ばいば~い」


 騒がしい連中の背中を見送り、俺は帰路に着く。


 時は経ち、すっかり夕暮れだ。

 朝方降り積もっていた雪は、まだ至る所に残っている。


 ボロアパートが見えて来た。


「……ん?」


 そこに待っていたのは、人影。


「誰だ?」


 夕日が逆光となり、顔は直ぐには視認できなかった。

 だが、その声は忘れもしない。


「帰ったか、御剣……」


 帝国ギルドの副団長――

 エリス・神代かみしろが、その場に立っている。


 心臓が、どくりと脈を打った。

読んで頂きありがとうございます。

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