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第28話 影の攻略者

 白コートの男――執行部隊の一員が退出し、重い扉が閉まる。

 広い空間に、時計の音だけが静かに反響した。


 左右の壁には、古今東西の武器が整然と並ぶ。

 部屋の奥、ガラス張りの窓からは東京の夜景が広がっていた。


 茂宮しげみやはカチコチとぎこちない動きのまま、机の前まで進み、一礼する。


「そうかしこまるなよ、茂宮少佐。お互い、公安一課で切磋琢磨した仲じゃないか。長い付き合いだろ?」


「よして下さい、いつの話をしてるんですか! 貴方はもはや殿上人てんじょうびとだ! ご自身の立場をもっと自覚して下さいな」


「相変わらずつれないな。飲み会も、私ばかりをのけ者にしているだろう?」


「貴方が来たら、他の奴らが飯食えなくなるでしょうが!」


 桐生きりゅうの乾いた笑いが漏れた。


「本題に入ろう。ここ3ヶ月、東京都内のブルーゲートが異様な速度で攻略されているのは知っているな?」


「ええ……確かに。9月のイエローゲートの一件以来、目に見えて攻略スピードが上がってますね。ギルドの奴ら、これまではゲートが発見されてから数か月は待つのがザラだったのに…… 帝国ギルドの打撃を受けて、ようやく重い腰を上げたって所でしょうかね?」


 茂宮は眉を潜めながら頷く。

 脳裏には、ここ数ヶ月で攻略されたゲートの一覧表が浮かんでいた。


 桐生は唇を吊り上げる。


「……その件なんだがな。実は世間でおおやけにされている事実は、全て真っ赤な嘘なんだよ」


「……はい?」


 茂宮の顔が間抜けに固まる。


「公には、『ゲートは全てギルドが攻略した』って事になっているが、実際は違う。ほとんどのゲートは、この男によって攻略されたんだ――」


 桐生は机の上の写真を取り、茂宮の目の前に突き付けた。


 茂宮は、息を呑む。



「み……御剣っ……!!」



 喉が鳴り、思わず手が震えた。

 視界の端がじわりと暗くなる。


 その反応を見て、桐生は目を細めた。


「なっ……何で御剣が……? どういう事ですか、桐生さん!!」


「どうもこうも無い。ここ数か月、公安が掴んでいたゲートの幾つかが、いつの間にか消失していた。ギルドに確認をしても、関与していないという」


 桐生は淡々と続ける。


「街中の監視カメラをさらったさ。そして、この男に辿り着いた――」


 写真の御剣を指差し、茂宮と視線を合わせた。


「少佐。君からは以前、報告を受けていたな? 9月の渋谷ブルーゲート。たった一人でダンジョン入り、ボスを討伐し、報酬も受け取らずに去った男がいたと」


 繋がる符号。

 茂宮の目が大きく見開かれる。


「私はこの写真を見た瞬間に思ったよ。これが、君の出会った『狂人』なのだと。そして今の反応で、確信に変わった」


「待ってくれ……待ってくれ待ってくれ……ちょっと待ってくださいよ! じゃあなんだ!? ここ最近のブルーゲート攻略は、御剣が全部一人でやってたって事なんですか!?」


「全部ではない。だがギルドより動きが早いのは確かだな」


 茂宮は絶句した。


「公安は……その事を世間に隠してるって事ですよね! 事実、俺だって何も知らなかった!!」


「真実を知る者はごくわずかだ。混乱するからな。そもそも記録にどう残す? 『はぐれ探索者の御剣一真が攻略した』とでも書くのかね。これは異例の事態なのだよ、少佐」


「いや……でもよぉ……! おかしいだろっ……!」


 茂宮の素が出る。

 桐生はそれを咎めず、静かに告げた。


「改めて、君をここへ呼んだ訳を話そう。茂宮少佐。御剣一真を探し出し、私の元へと連れて来てくれ」


「いや、まだいろいろ言いたいことが山ほどありますけどっ!」


「これは私直々の極秘命令だ。全てにおいて優先される。憂いは無い」


「……まあ命令っていうなら聞きますがね…… でも、足は必要です。俺が信用できる人間にだけ、この事を話しても良いですか?」


「好きにしたまえ」


「了解しました」


 退出する間際、茂宮は背中越しに問う。


「……桐生さん。貴方、御剣をどうするつもりなんですか?」



「無能力者なのだろう、彼は? 親近感が湧くじゃないか……」



 そう語る桐生の口元が、少年の様に僅かに綻んだ。

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