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第23話 怨嗟の叫び

「先遣隊は、全滅していました……」


 団員からの報告を、上の空で聞いている神代。

 神代は一言、「そうか……」と呟き、ダンジョン片隅の石段の上にしゃがみ込む。


 震える声で、団員の一人が叫んだ。


「先遣隊も……それから……椿も、死んで…… クソっ!! なんで……なんでこんな事になったんだよっ!! たかが……イエローゲートの、攻略ぐらいで……」


 第四層へと続く石段。

 付近に、ギルドの全員が集まっている。


 誰一人、その先へは進めない。

 皆、まだ心の整理が出来ていないのだ。


「すみませんでした隊長っ!! 俺がっ……俺がもっと椿の事を気に掛けていたら、こんな事にはっ!!」


 椿のレイピアを防いでいた、護衛の一人が土下座をする。

 額に血が滲まんばかりに、石床の上に頭を擦り付けていた。


「…………」


 神代はうなだれて、黙ったままだ。

 まるで魂の抜けた人形。ただ椿の名を聞くと、その表情が僅かに歪んだ。



 護衛のもう一人は応急手当を済ませたが、出血が激しい。

 今はまだ意識を保っているが、これ以上長引けば、命にかかわるだろう。


 ダンジョンの攻略を急がねばならぬのは明白だった。



 それでも皆、動き出せない。


 先遣隊の死が。

 椿の死が。


 くさびの様に、ギルドの進行を留めてしまっていた。



 その状況で一人、声を荒げたのが――――


「いやぁ、しかしひでぇもんだなあ。こんなに沢山死んじまってよぉ!」


 場違いな程、頓狂な声音。

 何度も聞いた、不快なこの声の主。


 羽黒だ。


「まあ先遣隊はしゃあねぇわな。連絡が途絶えた時点で、無理かもしれないってのは、正直みんな思ってた事だろ?」


 団員を見渡し、語り掛ける羽黒。


 発破のつもりか?

 いや、違うな。


 コイツがばら撒こうとしている物は、もっと純然たる悪意――――


「……でも、椿は違うよなあ? 寄生モンスターだか何だか知らねぇが、止めを刺したのはそこのハイエナ野郎だ」


 羽黒は部隊の後方に佇む俺目掛け、人差し指を向けた。

 全員の視線が一斉に、俺へと向く。


「椿は貴重なヒーラーだったんだ。それをこうもあっさりと殺されて…… 誰だったっけなぁ? こんなハイエナを、ダンジョンに連れて来る事を許可したのは?」


 神代の方をちらりと見やる羽黒。


「おかげで最悪な結果になっちまったよ…… なあみんな? そうは思わねぇか?」


 羽黒より投げ掛けられる疑問符。


 それが着火剤となり、


「…………何も……殺す事は、無かったんじゃ……?」


 誰かの心の呟きが漏れた。


「寄生モンスターの仕業だったって言う話も、ほんとのところは分からないじゃないかっ……! もしかしたら、一時的に錯乱してただけかもしれない……! 助けられる道だって、あったかもしれないのにっ!!」


 呟きは徐々に、非難に転ずる。

 まるで薪をくべられた火種。


「そうよ…… あの子、いっつも自分を犠牲にして、みんなを助けてくれて…… 本当に、良い子だったのに……!」


「俺、まだ椿に恩返し出来てねぇよ……! クソっ、クソ野郎っ!!」



 燃え盛る。もう誰にも止められない。

 燃え盛る。理性を焼き、憎悪が場を支配する。



 その様子を見てただ一人、羽黒はわらっていた。



 ああ、良く知ってるよ。この顔は。


 獲物を捉え、犯し、もてあそぶ。

 小鬼ゴブリン醜貌しゅうぼうだ――――




 皆の混乱、後悔が渦巻く中。

 顔を覆い隠し泣きじゃくる女が、ぽつりと漏らす。



「……椿を返してよ……」



 その一言で、場が凍り付いた。

 涙も、嗚咽も、呻きも、その一瞬で全てが止まり。

 誰もが息を呑む。


 女はぐしゃぐしゃになった顔を上げ、俺を睨み付けた。


「ねぇ!! 返してっ!! 私たちの椿を返してよっ!! 返してったら、この人殺しっ!!!!」



 怨嗟の叫びは全て、雑音の様に耳をすり抜ける。

 俺の心は冷え切ったまま、何も感じない。



 小鬼が俺の肩に手を載せ、呟く。


「ハイエナぁ…… おめぇついに本性を見せやがったな? 死体漁りだけじゃ満足できなくなったのか? お?」


 自身の首に親指を立てながら、横一文字に根本を切る。


「ここを出たら、直ぐに公安に通報してやる。お前の人生、オワリだ。覚悟しとけや、人殺し」



 そしてそのまま、うなだれる神代の耳元に口を近づけて、そっとささやいた。


「……椿が死んだのはてめぇの判断ミスもあんだぞ? 副団長様よぉ」


 その言葉に、ピクリと反応する神代。

 だが、何一つとして言い返さない。虚空の一点を見つめたままだ。


「神代ぉ、お前もう副団長おりな? もともとお前には荷が重かった話なんだよ。団長には俺の方から報告しておいてやるからな。今回件の責任、しっかりと噛みしめろや? ははっ……!!」


 耳障りな嗤い声を残し、奴はその場を立ち去った。




 場は混迷。

 だが俺にはまだ、やるべき事がある。


「……行くか。次の層へ」


 そう言い残し、俺はただ一人、第四層へと姿を消す。



 まだダンジョン内には、残されてるじゃないか。

 この地獄を生み出した親玉を、必ず俺の手で殺してやるよ――

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