第19話 鈍色の約束
「凄い凄い!! イエローゲートってこんなのがあるんだ! 宝箱なんて、ほんとゲームの世界みたい!」
椿が目を輝かせている。余程珍しいのであろう。
踏破型ダンジョンでは時折、こう言った産物が見つかる事がある。とは言え基本は皆スルー、気が付かない。宝箱はダンジョンに巧妙に隠されているからだ。
「鑑定結果、目の前に出しますね!」
武器名:落葉 椿
武器種:レイピア
レアリティ:S+
効果:斬撃の分身
「あっ、『椿』だって!! 私とおんなじ名前だ! えへへ……」
空中に羅列する文字を指差し、椿がにんまりと笑う。他の団員達の表情にも、笑顔が戻り始めた。
神代が鑑定結果を見ながら、俺に問いかける。
「御剣。レイピアは扱えるのか?」
「……人並程度には」
「だったら、それはお前が使うと良い。ダンジョンで見つけたアイテムは早い者勝ち……それがこのギルドのルールだ」
「……そうか。じゃ、ありがたく」
俺は腰に付けた短刀――『妖刀血狂』をウエストポーチに仕舞い込み、代わりに今手に入れたレイピアを括りつけた。
『妖刀血狂』はまだ、切れ味が温まり切っていない。
俺の所にモンスターがやって来る前に、ギルドの団員に討伐されてしまうからだ。今回のダンジョンには不向きと判断した。
「よし、それじゃあ攻略を再開するぞ! 第三層へ向かう! 皆、心して掛かれっ!!」
神代の号令を受け、部隊は階段を降りて行くのだった。
第三層――
三層の趣は、一、二層とは全く異なっていた。
端的に言えば、通路に明確に、モンスター共の気配がある。
(……やはりおかしいな。一層、二層じゃ欠片も感じなかったモンスター共の気配が、この三層では通路中に充満してやがる……)
これは本当に、同じダンジョンの中での出来事だろうか?
モンスター共の動きが、あまりにも規格外だ。
通常の奴らの思考や、習性、ルールが。
一切、機能していない――――
やがて通路を進んで行くと、接敵した。
「グルルルルルルルッツ――――!!」
ウェアウルフの群れだ。
「総員、周囲を警戒っ!! 後方からの奇襲に備えよっ!! 私が道を切り開くっ――!!」
神代はランスを取り出し、特攻。
ウェアウルフの断末魔が、通路に響き渡る。
「――――後ろからも来てますっ!! ウェアウルフですっ!」
通路を駆ける、ウェアウルフの群れ。
陣形を為し、波状攻撃を仕掛けて来る。
(……ウェアウルフごときに、なぜここまでの統率が取れる……? てめぇらは本来、飢えた獣みたいに、ただ突っ込んでくるだけの単細胞だろうが……!)
「前は神代隊長がいる! 俺たちは後ろを死守するぞ! 防衛部隊、シールドを張れっ!!」
「了解っ!! プロテスシールドっ!!」
後衛の2人が前に出て、両手を掲げる。
生成されるクリアグリーンの防護結界がウェアウルフの爪を阻む。ウェアウルフは弾き飛ばされ、壁に激突した。
「今だ、畳みかけろっ!!」
「うおおおおおっつ!!!!」
雪崩れ込む集団。
「よーやく面白くなって来たじゃねぇか……!」
羽黒はそう言い残すと、ロングソードを片手に集団の中へと姿を消した。
「御剣さん……」
不安げな顔を浮かべる椿に、ゆっくりと頷き返す。
「さて、試し斬りと行くかね」
俺は早速、腰に付けたレイピアを構える。
レイピアの強みは、何といっても手数の多さ。
半身の構えで間合いを取り、最小限の動きで――
「敵を穿つッ――!!!!」
渾身の一突き。
同時に、斬撃が幾重にも分身。
「グルアアアアアアアアッツ――――!!!!」
ウェアウルフの寸胴に、複数の孔を空ける。
「……これは良いな」
手に吸い付く様な感覚。
まるで俺の右腕と同化しているみたいだ。
最小限の動きで、最大の功績を。
威力も申し分ない、流石は魔道具だ。
「次ぃッ!!」
ひとつ踏み込むごとに、斬撃が幾重にも重なる。
穿たれる孔、孔、孔。
ウェアウルフの死体が積み上がる。
「す、すげぇ……」
周りの者たちが、武器を下ろして呆然とする。
もう自らが戦う必要は無いと、悟ったのだ。
「ラストぉッ――――!!!!」
空間を裂くその一突きは、ウェアウルフの頭を抉り取る。
計15匹、あっと言う間の殲滅戦だった。
(……凄まじい威力だな。俺の実力だけじゃ、ここまでうまくは行かない。……宝を腐らせるも輝かせるも、使い手次第。今後はレイピアの精度も高めて行くか)
皆が言葉も発さず、息を呑む中、椿が満面の笑みで近寄って来た。
「すごいっ、すごいですよ御剣さんっ!! 私あんな凄いレイピア捌き、見た事ないです!!」
椿は目を輝かせながら、俺に問いかける。
「御剣さんって、レイピア使いだったんですか?」
「いや、メインは短刀ですね」
「じゃあ二つも使えるんだ…… なんでそんなにも武器の扱いが上手いんですか?」
「ダンジョンでドロップする武器は選べませんからね。だったら全てを扱えるようにした方が効率的だ。そう思って、訓練をしただけです」
「…………す、すごすぎる……」
椿が軽くフリーズしてしまった。
団員たちが徐々に前へと進み始めた。神代の戦闘が終わったのだろう。俺も後に続き、歩を進める。
「み、御剣さん……! 待ってください!」
椿が息を切らせながら、俺に追いつく。
その顔は、戦闘後の高揚とも違う……何かを決意した人間の顔だった。
「まだ何かありましたか?」
「御剣さん…… 私、貴方の戦いを見ていたら……つい胸が熱くなって……! 気付いたら、呼び止めちゃってましたっ……! あの…… もし、よろしかったらで良いんですけど…… このダンジョンを攻略したら、是非私に……稽古を付けて下さいませんかっ!?」
胸に両手を当て、懇願する椿。
(……なんだ? 随分と必死だな。まあ……強さを求める奴は嫌いじゃないが)
「私も同じレイピア使いですけど、レイピアを扱える人って、本当に少なくって……」
なるほど。
魔道具を見つけた時、やたらと反応が良かったのはそれが理由か。
「稽古って…… 俺ははぐれ探索者ですよ?」
「関係ありませんよ、そんなの!」
首を振りながら、強く否定する椿。
「私、このギルドが大好きなんです。みんな凄い探索者で、色々と衝突する事も多いけど…… 心の中では、互いの実力を認め合ってる。そういう関係が、凄く……好きなんです……」
「………………」
「私、多分足手まといになっちゃってます。みんな優しいから、甘えちゃって。でも、ほんとはそんなの嫌です……! 私だって、みんなを護る強さが欲しい! ……今のままじゃ、誰の背中にも追いつけないんです…… 厚かましいお願いだと言うのは分かっています…… それでも、私は!」
ひたむきだな、そしてどこまでも優しい。
彼女の様な人間を、動かす原動力。
それは恐らく……
「…………椿さんはなんで、ダンジョンに潜るんですか?」
「え?」
「危険じゃないですか、こんなところ。仮にヒールを使えるんだとしても、探索者にならない道だって幾らでもあります。わざわざ命を懸けてまで、危険に飛び込むような真似……」
椿は下を向き、唇をきつく結ぶ。瞼を一度ぎゅっと閉じ、そして――
必死に笑おうとしながら、こう答えた。
「…………うち、6人兄妹なんですけど、みんなまだ小っちゃくて…… でも、養っていけるだけのお金、無くって…… 私が一番お姉さんだから、しっかりしないとなんです……!」
「……兄妹」
胸の奥が、鈍く疼いた。
触れられたくない場所を、いきなり鷲掴みにされた様な感覚。
――俺には、もう向き合う資格など無いはずなのに。
忘れたはずのその言葉が、再び胸の内に蘇る。
『カズはお兄ちゃんなんだからさ。孤児院のみんなの面倒、ちゃんと最後まで見てあげてね! 約束だよ!』
一瞬だが。
小指を立てた、朱里の姿が目に浮かんだ。
成長したチビ達は、今、何をしているのだろうか……
俺は結局、ちっぽけな約束ひとつだって、護れてやしない。
「……分かりました。稽古の話、良いですよ。俺で良いなら……」
「……はいっ!! ありがとうございますっ!」
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