表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/47

第17話 違和感

 ――この日の攻略戦を、俺は後に何度も思い出す。


 まるで覚めない悪夢の様に。

 何度も、何度も、何度だって。




 第一層――


 イエローゲート攻略は久々だ。自然と気が引き締まる。


「早速道が三つに分かれてやがるな……」


 三又路の中心で、神代は目を細める。


「神代隊長、どちらへ進みましょうか?」

「どれを選んだとしても問題はない。最終層へは全部繋がってるからな。踏破型とはそういうダンジョンだ」

「分かりました、ではこちらへ――」

「いや、待て…… 一番右だ。若干だが、生き物が通ったあとが見える。モンスターの痕跡こんせきかもしれないから、あまり役には立たぬ考察だがな」

「はいっ、分かりました!」



 神代はこのダンジョンに入る前、二つの目的を掲げた。

 先遣隊の捜索と、ボスの討伐。


 だが後者はともかく、前者にはあまりこだわるべきではない。


(踏破型はルートが複数ある。先遣隊と合流出来ないのも珍しくはない)


 自分たちの通った軌跡を目印か何かで残しておけば、こんな事にはならぬのだが。悲しきかな、実力者の多い大ギルドほど、この初歩を軽んじる傾向にある。積み重ねられた成功経験……故の奢り、といった所だろうか。



 コツコツと靴音を響かせ、部隊はダンジョンを進み行く。途中談笑を挟みながら、和気あいあいとした雰囲気だ。


 ダンジョン攻略とは、元来こういう物であったかと思い出す。ソロで潜る俺にとって、それはあまりにも縁遠い光景だった。


「あの……御剣さん、でしたよね?」


「ん?」


 部隊の後方で一歩離れて付いて行く俺に、何やら声を掛けて来た女。


「さっきの事……気を悪くしないでくださいね。羽黒はぐろさん、失礼なこと言っちゃってましたよね? 無能力者がどうとか……」


 羽黒?

 神代と言い合ってた、あの男の事だろうか?


「別に気にして無いですよ」


「なら良かった! うちのギルド、ちょっと(くせ)の強い人が集まってるから…… エリスも、口ではああいってるけど、貴方の事をちゃんと認めてると思います。でなければダンジョンへの同行なんて、絶対の絶対に認めませんからね……!」


 にこりと笑う女だが、残念ながら神代が俺を認めているなどという事は、天地がひっくり返ってもあり得ない。アレは藤堂の言葉を妄信してるに過ぎないな。


 とは言え――


(わざわざそれを伝える為に、後方まで下がった来たのか……律儀なものだな)


「私、椿つばき 桜子さくらこって言います! 今日は一日、よろしくお願いしますね!」


「桜子、何を無駄話している! 持ち場に戻れよ!」


「ごめんエリス! 今行く!」


 椿は右目をぱちりと瞑り、そのまま部隊の前方へ姿を消すのだった。




 第一層、終点――


 特にモンスターと出会う事もなく、終点まで到着した。


(……モンスターの気配は無かったな。踏破型とは言え、ここまで空っぽなのも珍しい)


 目の前にはでかでかとした、重苦しい扉。この先が第一層の終点だ。


 踏破型のダンジョンは各層ごとに、エリアを護る守護者ガーディアンが存在する。この先に、待ち受けているはずだ。


「皆、気を引き締めろよ! 行くぞっ――!!」


 神代の号令と共に、扉が開け放たれる。


 中は暗闇――

 暗黒の中で、うごめく紅い視線の数々。


 部屋全体に、灯りが差す。


「陣形、構えっ――――!!」


 視線の先、待ち構えるモンスター集団。

 サラマンダーにリザードマン、エルフが入り乱れる、混成部隊だ。


 そして、中でもひときわ目を引く強者――

 ハイエルフが、こちらを見つめ嗤っていた。


(……ハイエルフ? コイツは他の種族とは、群れたがらないはずじゃ……? それに隊列まで組んで、足並みを揃えてる? ……あり得ねぇぞ、そんなのは)



「全軍突撃いいいいいっ――――!!!!」


「うおおおおおおおおっ――――!!!!」



 敵を視認すると同時に、部隊が戦場に雪崩れ込む。


 先ず突進するは、前衛の大楯おおたて持ち。


「さあ、どっからでもかかって来んか!!!!」


 どっしりと構えた大楯に、リザードマンの剣撃が襲い掛かる。


「ふんっ、軽いなっ!! ――――援護、頼むっ!!!!」

「おうよっ!!」


 大楯がリザードマンの注意を惹きつけると同時に、後方のパーティーメンバーが挟撃。


「おらよっと!!」

「がら空きだっ!!」

「ガアアアアアッツ――――!!!!!」


 左右の剣に貫かれ、リザードマンは崩れ落ちる。


「へへっ、一丁あがりぃ!」

「おい、ワンテンポ遅れてたぞ! 次は完璧にあわせろよ?」

「わーってるって!」


 ハイタッチを交わす二人。

 流れる様なコンビネーション、これが帝国ギルドの力か。



「グギャアアアアアアアッツ――――!!!!!」

「ガアアアアアアアアッツ――――!!!!」


 前方より、多数の雄叫び。


「おっ、始まったなあ!!」


 皆の視線が一点に集まる。

 視線の先には、A級探索者の神代・エリス。


「ふぅ…………」


 神代の左手には、巨大なランスが握られている。

 先端が赤黒く濡れ、周囲には無数の屍の山。


 リザードマン、サラマンダー、エルフ、ハイエルフ。

 いずれも、胴体にぽっかりと穴を穿うがたれて、地面に横たわっていた。


「さっすが神代隊長!! 圧倒的だなあ!!」

「正直、俺たちが出る幕ねぇよな……?」

「何言ってんの? さぼりたいだけでしょ、アンタ達? ちゃんと働きな!」

「へ~い」


 積み上がったモンスターの骸を見つめ、神代は静かに目を細める。


 部隊の後方には、腕組みしながら壁に寄りかかる男。


「けっ、下らねぇ。どんな大物が潜んでるかと思ったら、この程度かよ? あ~あ、つまんね」


 羽黒だ。


 どうやら、助太刀する気はないらしい。

 欠伸をしながら、スマホを取り出していじり始めた。この男はいったい何をしに来たのだろうか?


(どうせオフラインのゲームでもしてんだろう……電波も無いのにな)




 てな具合で、戦況は明らか。


「さてと、俺はどうするかなっと……」


 特に何かをしなくても、問題なく戦闘は終わるだろう。

 だが一応、やる気ぐらいは見せておいた方が良い。


 後でさぼっていたとチクられて、報酬の魔道具を出し渋られる様な事態は避けたい。


 殺すのに都合の良いモンスターが、近くにいないだろうか?


「…………じゃ、お前で」

「……ギャッ?」


 たまたま目の前にいたリザードマンに、指を向ける。

 腰の短刀を外し、ウエストポーチの毒を一振り――――


「――――死ね」

「グガッ――――!!!!」


 そのまま胸を一突き。

 刃先を引き抜くと同時に、リザードマンは血を噴き、仰向けで倒れた。


 白目を剥き、泡を吹くリザードマン。ピクリとも動かない。



「…………ん?」


 奇妙な感覚だ。


 俺はリザードマンの骸に目を向け、ジッと目を凝らす。

 徐々に毒が回り、肉がただれて来た。

 毒は正常に効いている。



 だが、何だろうか?



 この、違和感は――――


(俺の選定した毒で、この程度の反応か? どうにも感情が薄っぺらいな……?)


 毒そのものじゃない。

 もっと根っこの部分で、何かが噛み合っていない感覚だ。




「御剣さんっ!」


 声でハッと我に返る。

 目の前には、息を切らして興奮気味の椿の姿があった。


「凄いですね、御剣さん!! リザードマンをあんなにも簡単に倒しちゃうなんて! 団長が言ってた『ただものじゃない!』って言うの、本当だったんだ!」


 はしゃぐ椿。


「それに無傷じゃないですか! 私の出番、なかったなあ……」


「出番?」


「そう! 私、ヒーラーなんです! 戦闘はあんまりだけど、治療系スキルって珍しいらしいから……」


 苦笑いを浮かべながら、椿は腰に付けた剣をなぞる。細身の刀身、レイピアだな。女性でも扱いやすい、軽量武器だ。


「エリスの口添えもあって、帝国ギルドに雇ってもらえたんですよ!」


「……なるほどな」


「勿論、みんな怪我しないのが一番ですけどね! 御剣さんも、無事でよかったです!」


 そう言い残すと、椿は先頭集団の元へと駆けて行った。



 気が付けば、戦いは既に終わっていた。


「よっしゃ、楽勝っ!! スキルを出すまでもねぇ!」

「でもよ、先遣隊はいなかったよな?」

「別のルートで進んだんじゃねぇの? もっと先に行きゃ、そのうちどっかで合流できるだろ?」

「まあ、道は一個じゃないからな…… ったく……これがあるから厄介だよな、踏破型は……」

「大丈夫、心配すんなって! 守護者ガーディアンでこのレベルだろ? この程度のモンスターに、アイツらが負けるとは思えねぇって!」


 守護者ガーディアンを撃破した事で、第二層へと続く扉が開かれる。


 壁の一部がゴゴゴと大きな音を立てながら、ゆっくりスライド。小部屋が現れる。小部屋の奥には、下層へと続く階段があった。


「とりあえず、下に行くしかねぇよな?」

「なんなら、ボスを倒しちまった方が早いかもしんねぇな! どこにいるか分からねぇ先遣隊を探すより、そっちの方が手っ取り早いだろ?」

「それな!」


 皆の心に、弛緩しかんした雰囲気が漂う中。

 ただ俺だけが、感じていた。



(……なぜ、ハイエルフが集団に混じってた? ハイエルフは本来、気高き種族だ。奴らは、他の種族を見下してる。共同戦線を張るなんて、絶対にあり得ない)



 ダンジョンに充満する、いやな気配を――


 この時の俺たちは、まだ知らなかった。

 この違和感こそが、イエローゲート全体を蝕む「異常」の始まりだったということを。

読んで頂きありがとうございます。

面白いと思って頂けたら、ブックマークや評価で応援頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ