第16話 攻略開始
翌日、新宿シャッター街にて――
「流石に早く着き過ぎたか……」
シャッター街の入り口につるされた、錆びた時計に目を向ける。集合時間より、まだ1時間ほど早い。
ギルドの団員と思しき人物は、まだ誰一人として姿を現さない。
「家にいたってどうせ暇なんだから、別に良いんだけどな」
欠伸を噛み殺しながら、腰に付けた短刀を撫でる。
装備は基本、昨日の渋谷ブルーゲート攻略に用いた物と大差ない。ただ今回は、ワンランク上の毒を持ってきた。これならば、中級モンスターレベルであっても十分対処可能だ。
待つ事、数十分。
廃れたシャッター街に、幾人もの足音が響き渡った。
「……お、来たか?」
先頭に白銀の女騎士の姿――神代だ。
その後ろには、男女あわせて二十人あまりの集団。
「……弓、魔法使い、ヒーラーの後方部隊に、前衛には大楯持ちのタンクもいるな」
中近距離から、後方支援まで。幅広いラインナップ。
流石は東京屈指の大ギルドだけあって、人材に抜かりはない様だ。真に統率の取れたパーティーとは何たるか、是非とも班目に見せてやりたい所だな。
神代が俺の目の前で歩を止め、横目で時計を見やる。
「…………とりあえず、遅刻して来る様なたわけでなくて安心した。今日は宜しく頼むぞ、御剣」
「なんだ? 藤堂の時と違って、随分とぶっきらぼうな態度なんだな? それがアンタの素って訳か? 神代」
「なぜお前の様なハイエナ相手に、私が気を遣わねばならないんだ? 分を弁えろ」
「……相変わらず手厳しいねぇ、エリスちゃんは」
殺意の籠った視線で、キッと睨まれた。
おちょくるのはこれぐらいにしておくとするか。ダンジョンに入る前から、あまり軋轢が生まれても面倒だ。
「おい神代……こいつが例の男か?」
俺たちの会話に割って入る様に、集団より抜け出してきた一人の男。
神代は男をちらりと一瞥すると、再び俺に向き直った。
「昨日の藤堂様とのやり取りは、事前に他の団員にも伝えてある」
「……そうか。じゃあ改めて、自己紹介だけしておくか。今日のイエローゲート攻略に同行する事となった、御剣 一真だ。よろしく頼む」
手を差し出すも――
「――――けっ!」
男は無視し、そのままポケットに手を突っ込んだ。
分かりやすい対話拒否だな。
「なんでこんな野郎を連れて行くんだ? リスクでしかねぇだろ、邪魔くせぇ……」
他の団員の顔にも、直接口には出さぬが、ちらほら不満の色が滲んでいる。
帝国ギルドと言えど、一枚岩ではないのだろうか?
別にこっちとしては、報酬の魔道具さえ手に入れば、何でも構わないのだが。
神代は小さく溜息をつくと、俺に向かって問い掛ける。
「御剣。ゲートに入る前に、部隊でのお前の動きを決めておきたい。どんなスキルを持ってる? 攻撃系か? 後方支援か?」
そう言えば、昨日の段階では伝えてなかったな。
「………俺は無能力者だ」
「はあっ!?」
「ぷっ……!!」
神代と男、両者対極の反応。
男は一瞬吹き出すと、そのまま笑いがこらえきれずに、ついには決壊した。
「アッハッハッハ!! 無能力者だぁ? こりゃ傑作だ!! おい、神代! お前こんな奴を俺たちに同行させるつもりだったのか? バカじゃねぇの!? イエローゲートに無能力者って……! ハハッ!! 神代ぉ……お前日本から離れすぎたせいで、焼きが回ったんじゃねぇか!? アッハッハッハ!!」
「――――黙れ。これは藤堂様の決定事項だ。愚弄すると言うのであれば、今直ぐここで貴様を斬り捨てても構わんのだぞ?」
「あ? 出来るもんならやってみろや」
ヒリつく空気。
二人から漏れ出る殺気が、肌を刺す。
「神代よぉ……団長がおふざけ好きなのは、お前も良く知ってんだろうが? それを隣で諫めるのが、お前の役割なんじゃねぇのかよ? ギルドの副団長様なんだろ? それぐらいやって貰わねぇと、困るんだよなぁ? おい」
「……………………」
「ま、荷が重すぎるってなら、さっさと音を上げろや。俺が代わりに団長を補佐するからよお。お前はバカみたいに、モンスターの群れに突っ込んでる方が性に合うだろ? なあ、『銀の乙女』どの?」
神代は終始、言い返すことは無く。
男はシャッター街の奥へと、一足先に消えるのだった。
シャッター街をさらに進むと、徐々に周囲に漏れ出る黄色の靄。
目的地に、到達した。
ゲートの前で神代は振り返り、団員へ向かって話し始めた。
「最後に状況をまとめておく! 先遣隊が連絡を絶ったこのイエローゲートだが、踏破型のダンジョンだ。藤堂様と中を確認したが、その時点では特に異変は見られなかった。奥へ進めば、恐らく何かしらの障害が待ち受けてるに違いない! 先ずは先遣隊を見つけ出し、合流! そのままの流れで、ダンジョンの最深部まで辿り着き、ボスを討伐するまでが今回の任務だ!」
皆、黙って聞き入っている。
神代を部隊長としたパーティー。さっき突っかかって来た男がやたらと反抗的なだけで、統率はしっかりとれているようだ。
「なお今回のダンジョン攻略では、既に皆も知っている通り、探索者の彼――――御剣 一真を同行させる。彼には特に決まった役割は言い渡していない。その場の状況に応じて、臨機応変な対応をしてもらうつもりだ。皆も一応、気にはかけていてくれ」
つまりは放置プレイという訳だ。
「さあ、準備は整った! 攻略開始だ! 必ずや先遣隊を救い出し、ダンジョンを消滅させるぞ!!」
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