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第15話 次なるターゲット

 深入りし過ぎかとは思いつつ、それでもやはり、疑問は止められない。

 帝国ギルドの先遣隊せんけんたいが消息と断つような、異常案件だ。どうしたって気にはなる。


「ダンジョンの入り口はザっと確認して来たんじゃが、異変らしい異変は見つからんかったわい。まあ、今回のは踏破型のダンジョンだからのう。正直、奥に潜ってみんことにはなんとも言えんところじゃろうて」


「そうでしたか……」


 腕を組み、黙りこくる俺。

 思考を巡らす最中、藤堂の視線が突き刺さる。


「…………お主、名を聞かせて貰っても良いかのう?」

「あー」


 確かに、自己紹介もまだだったか。

 無礼だったな。


「申し訳御座いません、名乗り遅れました。私の名は御剣 一真。一応、探索者……ソロで動いてます」


 聞くや否や、神代の反応――


「……ソロ? ……ハイエナか?」


 眉が分かりやすく、ピクリと動いた。


 はぐれ探索者とギルドは基本、犬猿の仲。ダンジョン攻略の報酬金を巡って、たびたび衝突する商売敵だ。彼女が嫌悪感を抱くのは道理だろう。


「ふむ…… にして、ランクはいくつじゃ?」


「…………D、ですかね? かなり昔に取ったデータですので、あまり参考にはならないかもしれませんが」


「D? ……Dか……ふむ……」


 腕を組み、考え込んでしまった藤堂。

 何か良からぬことを口走っただろうか?


「あの、藤堂さん。どうか致しましたか? 私の探索者ランクに、何か違和感でも?」


「……ん? あぁ、よいよい! 気にするな! 大した事ではないわい!」


 歯を見せ笑う藤堂。確かに、探索者ランクは所詮、国の決めた基準でしかない。S級の目から見れば、また違った世界が見えるのかもしれないが。


 ……まあ、どうだって良いけどな。そんな事。

 モンスターを殺すのに、ランクだの何だのは関係ないんだよ。


「それよりもなぁ、御剣ぃ! 硬いぞぉ、硬いっ! 儂相手に『さん』付けは要らぬ、敬語も止めよ! もっとラフに話して貰って構わんのだぞ?」


「いえ……ですがあなた方は、名の知れた――」


「儂はかたっくるしい空気がどうにも苦手でのう。ギルドの団員にも、気楽に話してくれとお願いしとるんじゃ。無論、エリスちゃんにものう。だから、儂ら相手にはもっと気軽に話して貰って構わんぞ? のう?」


 神代の方を向く藤堂。

 当の本人、神代は――――


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」


 聞いた事のない様な溜息だ。不満たらたらだろ。

 良いのかこれで? 本当に。


「………分かった。じゃあ、普段の俺のペースでやらせてもらうぞ。藤堂、神代」


「おぉ、良いのう良いのう! 『ざ、今時の若者!』と言った雰囲気じゃわい! はっはっは!!」


 ワイキャイはしゃぐ藤堂に、冷めた目線を向ける神代。



 ……本当に、この男がS級なのか?


 言っちゃ悪いが、どうにも貫禄が無い。

 感性が子供のまま、肉体だけが年を取った老人にしか思えない。


「それで御剣よ。早速本題に入らせて貰いたいんじゃが、良いかのう?」


「ん? 本題?」


 ………何の事だ?


「うむ。先程の戦闘な、一部始終見ておったんじゃが…… 単刀直入に言うぞ……お主、ただものではないじゃろう?」


「……ただものではないって…… 別にそんな……」


 大した事はしてないと思うんだが。

 あの程度の奴らを返り討ちにしたとして、果たして何が凄いと言うのだろうか。


 訳が分からん。


「ま、細かい事はどうでも良いんじゃ! 儂からの頼みはひとつじゃよ。此度こたび観測されたイエローゲート。儂ら帝国ギルドは部隊を整えて、本格的にダンジョン攻略に乗り込むつもりじゃ。御剣よ……その攻略戦に、お主も同行してはもらえんだろうか?」


 藤堂が言い終えるや否や、神代が声を荒げる。


「なっ、何を言ってるんですか、藤堂様!? こんな素性も知れぬハイエナに、同行を求めるなど! 正気ですかっ!?」


 神代の問いには答えず、藤堂は話を進める。


「無論、ただでとは言わん。報酬は、そうじゃなぁ…… 一千万でどうじゃ?」

「はああああっ!!」


 叫び声をあげ、目を見開く神代。


 俺も理解が追い付かない。


 今さっき出会ったばかりのこの俺に、一千万の報酬金だと?

 ただダンジョン攻略に、同行するだけで?


 何を考えてる、この男――


「いえ……俺は」


「ふむ。まだ足りんかのう? ではもう500万……いや、プラス一千万! 計二千万で、どうじゃ?」

「ちょっ、藤堂様っ――――!!!!」


 ヤバイヤバイ。

 際限なく値段が上がっていく。

 オークションじゃねぇんだぞ。


「俺は金に興味はないんだ!」


「…………そうなのか? これはこれは、早とちりじゃったのう。まだまだ余裕はあったんじゃが……」


 目を真ん丸にする藤堂。

 流石は大ギルドの頭領だな。金銭感覚がバグってやがる。


「金は要らない。けど……そうだな。代わりと言っちゃなんだが……帝国ギルドが保有している魔道具。そのうちの何かひとつを、譲って頂きたい」


 金に興味はない。


 だが、道具があれば。

 モンスターを、殺せるからな。


「ふむ、魔道具か……変わった奴じゃのう。あいわかった!! 全てが終わった暁には、好きな物をひとつ進呈してやろう! あっ、うちの団員が使ってないのにしてチョーダイね!」


 神代はもはや突っ込むのを止め、黙りこくっている。

 全てを諦めたのだろう。心中お察しする。


「よし、それでは交渉成立じゃ! 攻略戦は早速明日から開始する! 御剣よ、明日の15時にこのシャッター街に来てくれ! 攻略戦にはエリスちゃんも参加するから、互いに仲良くな! 頼んだぞ!」


 藤堂はそう言い残し、神代と共に颯爽さっそうと姿を消したのだった。









 ――――


 藤堂と神代は用件を終え、夕暮れの街を歩いていた。


「まあそうヘソを曲げんでくれよぉ、エリスちゃ~ん」


 眉間をハの字に寄せながら、神代はコツコツと早足で歩く。


「………理解できません。なぜあのような者に、助力を乞うのですか? 私の力が信じられませんか?」


「いやいや、決してそういう訳ではないぞ! 勿論、お主一人でも十分に事足りるであろう」


「ではなぜっ――――!!」


 語気を強める神代に、神妙な面持ちで返す藤堂。


「……そうじゃのう。言葉にするのはちと難しいんじゃが……強いて言うなら、この国の……未来のためかのう」


「…………未来? 何を、言ってるんですか?」


 怪訝けげんな表情を浮かべる神代。

 対する藤堂は、顎髭あごひげを触りながら、ゆっくりと応対する。


「S級探索者の保有数は、各国ごとに明確な差がある。日本は決して、多い数字じゃないからのう……」


 二人の歩みは自然と、ゆっくりとした物になっていた。


「御剣。……アレは内に、何か異常なモノを秘めておる。本人は隠しておるつもりなんじゃろうがな…… 戦いを、心の底から楽しんでおる……そんな目をしとったわい」


「……それは……ただの変人と言うだけではありませんか?」


「はっはっは! やっぱりエリスちゃんはいつでも辛口じゃのう!」


 笑いに呼応するように、藤堂の髭が上下に揺れる。


「……頂点に君臨する様な輩はな。皆、どこかしらの歯車が狂っとるものよ。御剣には、それと似た雰囲気を感じたんじゃ。いつか儂の――S級のステージにまで、あ奴は登って来るやもしれん」


 神代は黙ったまま、藤堂の言葉に耳を傾ける。


「今回のイエローゲート攻略は、いわばその見極めよ。儂の慧眼けいがんが、正しかったかどうかのな。御剣本人はD級と言っておったが、儂はそうは思わん。エリスちゃん、しっかり監視しといてくれよ。もしかしたら後の未来、我が国に6人目のS級が生まれるやもしれんぞ!」


「……差し出がましいですが、流石にそれは買い被り過ぎかと。私にはチンピラ相手にマウントを取ってるだけの、ただのハイエナ野郎に見えましたけどね」


「心の機微の問題なんじゃよ。エリスちゃん、お主は気付いとったか? 御剣は、あの班目とやらのスキルを目の当たりにしていながら、まばたきほども動じんかった。……そんな事、通常ならば、あり得んのじゃ」


 語る言葉は、淡々と。

 だが静かな、熱を持つ。


 その言葉にはS級故の――

 確かな重みが、あったのだ。


「剥き出しの殺意と、スキルなどと言う異能に人が相対あいたいした時……普通はな、滲み出て来るもんなんじゃよ」


 動揺が。


 恐怖が。


 焦りが。


 ……覚悟が。


「ほんの少しでも……心の外側にな。漏れ出て来るはずなんじゃよ。ごく普通の、人の心を持っておるならばな。…………御剣 一真、アレは言うなれば――――」


「……………………」



悪鬼羅刹あっきらせつの類いじゃわい――! はっはっは!!」


 豪胆に笑う藤堂。

 その姿に、おちゃらけた老人の面影は既にない。


 ただそこには力を持て余した、孤独な一人の戦士がいるだけだ。


「面白い、面白いのう!! あんな若者がおるとは、まだまだこの国も捨てたもんじゃないわい! あ奴が頂きまで登り詰めた時、いつか肩を並べて、共に闘ってみたいものじゃのう!」


 夕焼けの空へ消えて行く男の背中は、どこか満足げだった。


 ――希望を見つけた、先導者の様に。

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