第14話 忍び寄る脅威
「ごっ、ご迷惑をおかけして申し訳御座いませんでしたアアアアア――――!!!!」
「ちょ、待ってくださいよぉ、班目さあああぁん――――!!!!」
脱兎のごとく逃げ出す2人。
地面にはまだ気絶した3人組が残ってるじゃないか。せめて一緒に連れて行ってやれよと思う。薄情な奴らだ。
「儂、なんか不味い事しちゃったかのう?」
「いえ。あの者たちが矮小なだけでしょう。お気になさらず、藤堂様」
「ふむ……とは言え、複雑な気分じゃのう…… あぁ、あとエリスちゃん。そこで倒れてる3人の処置、頼んだよ」
「既に公安に通報済みです。直に救急部隊が到着するかと」
「さっすがエリスちゃん! 出来る女は違うのう!」
俺を置いてきぼりにしたまま、会話を続ける2人。
S級探索者、藤堂 巌。
A級探索者、エリス・神代。
世情に無頓着な俺でも、流石に名前ぐらいは聞いた事がある。
東京一帯を管轄する大ギルド、帝国ギルドの団長と副団長――――
トップ2人の揃い踏みだ。
正直、まだ全く状況が呑み込めていない。
湧き起こる疑問の数々。
その内の一つが、自然と俺の口から突いて出た。
「お取込み中、失礼。帝国ギルドの重鎮お二人が、こんな新宿のシャッター街に、いったい何の用でしょうか?」
「んぅ? おぉ、すまんかったすまんかった! お主を放置して、つい話し込んでしまったわい!」
藤堂が首を回し、改めて俺に向き直る。
デカい――――
つい先ほど、ゴブリンキングと対峙したばかりだが。
奴が、小鬼に思える程の威圧感だ。
「この場所にはちーっとばかし調査に来とったんだがなあ。お主らの争いの声が聞こえて来たんで、急ぎ駆け付けたのよ」
顎髭を上から下へと流しながら、藤堂は説明を続ける。
「しばらく様子を見とったんだが、お相手さん……班目と呼ばれとったかのう? あ奴がスキルを発動させたんで、慌てて止めに入ったんじゃ。ギルドの人間として、流石にそれは見過ごせんからのう」
藤堂からの言葉を引き継ぐように、立ちはだかる神代。
「【ダンジョン対策法】、第6条。『スキルを保有する人間は如何なる状況においても、ダンジョン外での能力の行使を禁ず』――藤堂様の温情が無ければ、本来ならば刑務所行きですよ。あの男」
「まあ、あの法は形骸化しとる部分もあるがのう。一応、儂もギルドの長なもんでな。見て見ぬふりは出来んわい!」
なるほど、乱入して来た意図は分かった。
だが、肝心の事がまだ聞けていない。
「……調査って、いったい何ですか?」
藤堂と目線を合わせ、問いかける俺。
答えが返って来るかは、半々と言ったところだろうか。
状況は分からんが、S級が動く様な事態だ。
俺みたいな得体の知れない奴に、そう易々と情報を渡すわけが――――
「実は先日。この付近に、新たにゲートが観測されてな。儂ら帝国ギルドから先遣隊を送り込んだんじゃが、連絡が途絶えてしもうたんじゃよ」
「なにっ……!?」
俺の意に反し、藤堂は当たり前の様にそう答えた。
「藤堂様っ!! それは機密事項ですっ!!」
「あ~ 良いよ良いよエリスちゃん。そんなに焦らんでも」
「ですがっ――――!」
藤堂は人差し指をピンと立て、自身の唇に持って行く。
そのまま片目をぱちりと瞑り、シーっとジェスチャーした。
「――――っつ!!」
黙りこくる神代。
藤堂は説明を続けた。
「ゲートを観測したのは、つい三日前。イエローゲート……踏破型のダンジョンじゃ。公安も、まだこのゲートの存在は認知しておらん。儂ら帝国ギルドだけが、情報を持っとる状況じゃよ」
「イエローゲートが、新宿に……?」
改めて、周囲を見渡す。
ここは人気のないシャッター街だ。
通常、ゲートが発生したならば、気付いた市民が真っ先に公安へと通報する。だが、こうした人通りの少ない場所で発生したゲートは、発見までに時間が掛かる事がある。
市民の通報と、公安の見回り。それだけでは限界がある。
その穴を埋める為、ギルドも定期的に街のデッドスポットの監視を行うのだ。
「先遣隊には手練れを送り込んでおる。それでも情報が途絶えたとなれば、これは異常事態じゃ。もうただのイエローゲートではない……何か、裏があると見てよい。儂らはそれを確かめるために、こうして足を運んだという訳よ」
随分と、きな臭くなってきたな……
「…………それで、お二人は実際にそのゲートには行ってみたんですか?」
――――用語一覧――――
【ダンジョン対策法】
1996年に施行された、ダンジョンに関わるあらゆる順守条項を取りまとめた法令。全10箇条から成り、いずれも破った者には、相応の法的処罰が下される。現在は効力が薄れている項目も幾つかあり、条項を見直すべきだと言う世論も強い。




