第13話 横槍
戦闘……と呼べるような代物だったのかは分からないが。
諍いから、数分あまり。
目の前には、成人男性5人分の肉体が転がっていた。
「……ぐっ、くそ……がっ……!!」
急所は極力外し、手加減もしたつもりだ。打ち身ぐらいにはなるだろうが、少なくとも、骨までは届いていない。
意識があるのは2人だけ。
1人は、初っ端にハルバードを振りかざしたあの男。
「……ま、班目、さん……! もう止めましょうよ……! 無理ですって……! 勝てっこないですよ、コレっ……!」
そしてもう1人――班目と呼ばれた、あのデカ男は、片膝をつきながらも起き上がって来た。
「御剣ぃ……! てめぇ……手加減でも、した……つもりかぁ? ざけてんじゃねぇぞっ、ゴラァ!!」
他の者は皆のびているが、やはりこいつだけは多少の気骨があるようだ。
「これ、返すぞ」
ハルバードを班目の前に投げ捨てる。
カランとひとつ音を立て、刃先がコンクリートへとぶつかった。
「使い心地は中々悪くなかった。流石はギルドの業物だ。武器を恵んでくれるお仲間に、せいぜい感謝する事だな」
「――――グッ!!」
無駄な時間を食った。
さっさと帰って、また公安のホームページにでも潜るとするか。
その場から立ち去ろうとする俺の背に、班目の眼光が突き刺さる。
「――――こんの野郎っ!! 調子にのるなよっ、御剣ぃっ――――!!」
班目は無理やりに起き上がると、右腕を掲げた。
――――同時に、周囲の温度がグッと下がる。
収束する冷気。
氷の結晶が、奴の手の内より生成される。
「ちょっ!! 班目さん! それはマジでヤベーですって!! 街中で【スキル】なんて使ったら、しょっ引かれますよっ!!」
「うるせぇっ!! ここまでコケにされて、ただで引き下がれっか!!」
氷の結晶は徐々に成長し、手のひらを覆うまでになった。
俺は歩みを止め、再び班目に向かい合う。
「……氷結系スキルか。珍しいじゃないか。班目、今日初めてお前に感心させられたぞ」
「――――ッツ、減らず口はぁ!! コイツを食らってからほざきやがれぇぇ!!!!」
班目の突進。
右手の氷を解放し、周囲に冷気が飛散する。
俺は腰の短刀に手を伸ばし、重心を低くして刃を構える。
「死ねやああああああああ――――!!!!」
――――来る!!
「は~い。ストップ~ストップ~」
「んあぁ????」
「なにっ――――!?」
俺たち二人の攻防に、突如割って入って来た謎の人影。
「ダメダメ~! 流石にそれは見逃せんのう、お二人さ~ん」
班目の右手を握りしめ、俺の眼前には手のひらをあてがう。
筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》、丸太の様な腕っぷし。
幾重にも皺の刻まれた、傷だらけの――――老躯の手だ。
(なんだ、この爺さん……! どっから湧いて出た――――!?)
逃れようと必死で力を入れるも、身動きが取れない。
爺さんはピクリとも動かない。鋼のような体幹だ。
いったい何者だ――――?
「おいジジイ! なんだてめぇ! いきなり出て来て、出しゃばってんじゃねぇぞっゴラっ!!」
暴れる班目の手をぱっと離し、爺さんは朗らかに笑う。
「はっはっは、ジジイは傷つくのう。こちとらぴちぴちの63歳よ♥ まだまだ現役バリバリじゃわい! 老人扱いは悲しくなるて!」
爺さんは自らのスキンヘッドをぽりぽりと掻きながら、小首を傾げる。
背丈はおおよそ2メートルか。班目もデカい方だが、この爺さんはそれ以上だ。
「こういう悲しい気持ちを、おぬしらの言葉で何と言うんじゃったか……? …………『ぴえん』……だったのう?」
「藤堂様、自重して下さい」
後方より響き渡る、澄んだ声――――
「空気の読めぬ寒い発言、見るに堪えません。空回りしておりますよ?」
若い女の声だ。
――――もう1人、近づいて来る。
「あと、『ぴえん』はもう死語です。公の場では絶対に使用しない様に、お願い致します」
「んぅ、そうじゃったかぁ? 相変わらず手厳しいのう、エリスちゃんは」
コツコツと足音を轟かせ、老人の隣に並び立った女。
白銀のプレートアーマーに身を包み、無駄なく足を運ぶ。一挙手一投足が、さながら人形の様な精密な動き。
この2人、一体いつからここにいた?
気配を……微塵も感じなかったぞ?
興奮が冷め、ようやく状況を把握出来るようになったのか。
班目は2人の顔を見比べ、顔を真っ青にした。
「あっ…アンタら……! A級探索者っ、『銀の乙女』エリスと……! それに……え、S級のっ――――!!!!」
目を見開き、思わずその場に尻もちをつく班目。
「えっ、S級探索者っ!! 藤堂 巌――――!!!!」
たっぷりと蓄えられた顎髭を触りながら、その爺さんは一言。
「ご名答ご名答! S級のSは、シニアのSってか? はっはっは!!」
そんな下らぬ冗談を、豪胆に言い放つのであった。
――――用語一覧――――
【スキル】
この世界にダンジョンが生まれると同時に、一部の人間達へと宿った異能の力。スキルを扱える者の多くは探索者となり、ギルドへと所属して、ダンジョン攻略に勤しんだ。だが中には戦いを好まずに、ひっそりと日常生活を送っている者達も存在する。




