第11話 至福のひと時
御剣がダンジョンから帰還して、数分後。心ここにあらずな様子の茂宮が、ふらふらと靄の中から現れた。
「じ、じげみやざぁあんっ!!!!」
「――――うおっ!! なっ、なんだよ吉田っ! どうした!?」
「どうしたじゃないでずよぉ!! げ、ゲートが、いぎなり消えぢゃっだんで、俺っ、心配じたんでずよぉ!!」
顔をびちゃびちゃにしながら、吉田は茂宮の両手を握り込む。
「……心配かけて悪かったな」
「もうゲードに突っ込むなんで真似、じないで下ざいよっ!」
「分かった分かった!! 分かったから、先ずは顔を拭けっ!」
茂宮の指摘を受け、吉田はハンカチを取り出し顔を拭く。そのまま鼻水をチンとかみ、心を落ち着けた。
「……おい、吉田。………御剣の野郎は、どこに行った?」
「………御剣って? …………ああ!! 茂宮さんと一緒だった、あの探索者の事ですか! 彼なら今さっき、ゲートから出て来たところですよ! もうどこかへ行っちゃいましたけど……」
「そうか……」
茂宮は周囲を確認する。
「残ってたのはお前だけか? あのはぐれ探索者どもは?」
「あれ? さっきまでここに居たはずなんですけど…… あいつらも、いつの間にか居なくなってますね?」
「……まあ良い。とりあえず、渋谷のブルーゲートはこれで一段落だ。今日の事、報告書にまとめておけよ。俺は上に経緯を説明する」
「はい、分かりました!」
ピッと敬礼を返す吉田に、茂宮ははにかむ。
「全部終わったら、久々に飯でも食いに行くか! 今日はおごってやんよ」
「……はいっ!!」
茂宮はそのままひとつ伸びをして、路地裏から歩き出すのだった。
新宿区、とあるコンビニ前にて――――
「ありがとうございました~」
バイトの明るい挨拶を背に、俺は店を出た。
右手には先程購入した、濃厚ミルクソフトクリームが輝いている。北海道の恵みをふんだんに凝縮した、まさに至福の一品だ。
「さてさて、お味はっと……」
ぺろりと一口。
――――旨い。
「流石は【満場一致】を取るだけはあるな!」
なめらかな舌触り。
ミルクのコクが甘みと調和し、クリーミーな後味を生み出している。
わざわざ遠方のミニ○トップまで足を運んだ甲斐があると言う物だ。
数あるコンビニの中でも、ミニス○ップはスイーツのクオリティが頭一つ抜きん出ている。ここのを味わったら、他の安物スイーツにはもう戻れない。
あとはもう少し店舗数があれば、言うことは無いのだが……
「この味に釣られて、ついつい遠くまで足を運んじまうんだよなあ」
茂宮の一件では若干心がもやもやとしたが、そんな陰鬱な気持ちは吹き飛んだ。
やはり甘味は全てを解決する。
「よし。じゃあ帰るかね」
食べかけのソフトクリームを片手に、俺は帰路に着こうとしたところで――――
「おい! 待てよ、てめぇ……!」
「ん?」
先程、渋谷の裏路地にいたあの集団に。
再び出くわした。
「……何だ? 俺に何か用か?」
正直面倒な予感しかしないが、無視する訳にもいかず。とりあえずは、そう返答した。
「用件があるなら早くしてくれよ」
「んだよ。そうつれねぇ事言うなよ? どうせ暇なんだろうが?」
「……暇じゃない。アイスが溶けちまうだろ……ペロっ」
「――――っつ、てめぇ、舐めてんのかっ!!」
…………どっちの意味だろうか?
舌先に残る甘さを味わいながら、そんな下らぬ事を思う。
「……てめぇ御剣ってんだってな? あの公安から聞いたぞ?」
「それがどうかしたか? ……ペロっ」
「…………話があるんだ。ちと面かせや」
「ここじゃダメなのか? さっさと済ませたいんだ……ペロペロっ」
「――――こんの野郎っ!!」
ガタイの良い男が俺の前に出て、右腕を激しく掴む――――
「あ……!」
手元が揺れると同時に、ソフトクリームの先端が滑り落ちた。
ぺちゃっと音を立て、足元に落下したクリーム。取り残されたコーンが、虚しく手元に収まっている。
北海道の恵みは大地へ還ってしまいましたとさ、ちゃんちゃん。
……じゃねぇよ。
「おい、コラ…… どうしてくれんだよ……俺の至福のひと時を」
「はぁ? おめぇ状況見えてねぇのか? 誰に向かって偉そうな口きいてんだ? ん?」
コキコキと拳を鳴らす集団。多勢に無勢だ。
とは言え、こいつらはゴブリンと違って、(一応)脳みそが詰まってる。考えなしに突っ込んできたりはしないだろう。
ひそひそ話が聞こえて来る。
「何かしら? 喧嘩?」
「誰か、通報した方が良いんじゃないか?」
「写メ撮っちゃおーっと」「ちょっとやめなって!」
コンビニの周囲には人だかりが出来つつあった。
「……場所を変えるぞ。俺に用があるんだろ?」
「へっ! 最初っから素直に従えばいいんだよ!」
――――用語一覧――――
【満場一致】
各メーカーが自慢の一品を持ち込み、職人によるジャッジを行う某人気番組。職人は商品に対し、「合格」及び「不合格」の札を上げ、「合格」が一定数に達すると、無事にジャッジ通過となる。
特に職人全員が「合格」の札を出す「満場一致」評価は、番組内でもあまり見られず、評価を貰えた際は、会場が歓喜の渦に包まれる。




