第10話 帰還
ボスを倒したことで、ダンジョンの【崩落】が始まった。ダンジョン内に残されたモンスターは全て消滅し、生き残った人間は、ダンジョンの外へと排出される。
ダンジョンの滅びとは即ち、モンスター共にとっての終焉。
そう言う意味では、ダンジョンボスと奴らは一蓮托生。命懸けで護ろうとするのも、道理である。
「……自死か……つまらねぇ死に方しやがって」
息絶えた管理者を足蹴にし、俺は後ろを見やる。
空間に亀裂が走る。
崩落により、現実世界との道が繋がったのだ。
目の前には、拳銃をこちらに向けながら、カタカタと震える茂宮。
「――――っつ……!!」
俺が一歩二歩と近づく度に、茂宮の震えは大きくなる。
「くっ、来るなぁっ――――!!」
怯えの心が伝わって来る。
憐みの視線が突き刺さる。
そして明確な、拒絶の感情――――
助けてやったのに、そんな態度はないだろう。
……なんて、みみっちい事は言わないさ。
「ま、それが普通の反応だよ。じゃあな、茂宮」
硬直する茂宮を放置し、俺は一足先に亀裂の中へと身を投じたのだった。
「どうしよう……どうしようどうしようどうしようっ!!!!」
渋谷の路地裏で頭を抱える公安、吉田。
茂宮からの命を受け、ゲートの見張りをすることになった彼だったが、突如としてゲートは消失。吉田はパニックに陥っていた。
「もう30分以上経ってる…… でも、ゲートが消えたんじゃ助けに行けないっ!! どうすればいいんだよぉ!!」
涙目の吉田に、ガラの悪い男集団が突っかかる。
「へっ、管理者付きのダンジョンにぶち当たりやがったか……! ブルーゲートで管理者が出て来るなんざ、めったにねぇ事だ。お仲間さん、運が悪かったなあ!」
「……クソっ! おいっ! どうにかダンジョンに入る方法はないのかよっ!!」
「ひゃっはっはっは! あるわけねぇだろ、そんなもん! 一度閉じたダンジョンを、外から開ける方法は存在しない! おめぇら公安も良く知ってんだろうが! んな事より、報酬金ちゃんと考えとけよ? 管理者がいるってなら、一千万でも足りねぇぐらいだぞ? クックックッ……」
意地の悪い笑みを浮かべる男達。
だが、そんな彼らを尻目に、吉田の視線は一点に注がれていた。
「………ゲ、ゲートが……つながっ、た……?」
コンクリートを踏みしめる靴底の感覚。
現実世界に帰還したのだと、真っ先に感じる瞬間だ。
目の前にはぽかんと大口を開ける公安と、騒ぎを起こしていた男集団。律儀にゲートの前で待っていたようだ。まあどうでも良い事だが。
「……腹が減ったな。帰るか」
歩き出す俺を、公安が遮る。
「待って待って待って!! ちょっと待ってぇっ!! えっ? ダンジョン、攻略したんですか!?」
「ああ」
「し、茂宮さんはっ!? 茂宮さんはどこに!?」
「……待ってればそのうち出て来るさ。俺はもう行くぞ」
「あっ、ちょ、ちょっとぉ――――!」
混乱する公安を振り払い、俺は大通りに出る。ゲートの前に長居はしたくない。あの男も、俺の顔などもう見たくはないだろう。
ズボンのポッケに手を突っ込むと、何やら硬い感触。引っ張り上げると、500円玉が顔を出す。洗濯の時に取り残された物だろうか? 実に空気の読める奴だ。
「コンビニでスイーツでも買ってくか」
行き先をコンビニへと定め、俺はそそくさとその場を後にした。
――――用語一覧――――
【崩落】
ダンジョンボスを倒す事で、ダンジョンそのものが消滅する。その際、残されたモンスターは消滅し、生きた人間はダンジョンの外へと吐き出される。これは元来、人間はダンジョン内での異分子であり、ダンジョンの自浄作用による産物ではないかと言われている。
ダンジョンから帰還するのはあくまで『生きた人間』に限られ、ダンジョン内で死亡した人間はその限りではない。




