第7話 呪われた町
第七話 呪われた町
「はぁ…… なんか、すっかり歴史が好きになったかも」 愛留は日本史が好きになっていた。
“ドンッ―” 物音がすると、慎之介がベッドの上に落ちてきた。
「慎ちゃん??」 愛留が驚くと、 「なんだ、また愛留の時代に来てしまったのか?」
愛留の部屋をキョロキョロすると
「なんだ? この薄い箱の中に人が入っているぞ?」 慎之介は驚いている。
「箱の中って…… プッ!」 愛留は大笑いする。
「ウケる~ これはテレビと言って、現場を写し出すのよ♪ 録画放送もあるけどね」 説明するが、慎之介は混乱した表情になる。
(これを説明するって、難しいのね……) 愛留は苦笑いになってしまった。
「愛留~ せっかくだから、アレをくれ! シュワシュワっとしたやつ!」
慎之介はコーラを気に入ってしまったようだ。 コップに入れて氷を入れると
「氷なんて貴重なものを…… 愛留の家は金持ちなのか?」 慎之介が驚いている。
「いえ、その辺にある家と変わらないけど……」
江戸時代の氷を作るには山奥の古民家の池で作り、夏でも気温が上がらない岩などの洞窟で保存をしていた。 氷を使えるのは殿様などの身分が高く、お金持ちだけのものであった。
(そんな貴重なものだったのね……) 愛留は、また歴史の勉強になっていた。
「あ~ 美味い♪ 喉にくる刺激がたまらん♪」 慎之介はコーラに満足そうだった。
「そういえば、愛留の時代は水に困ったことは無いんだよな……」
慎之介の言葉に愛留は俯いてしまう。
(そうだよね…… 雨が降らなければ井戸が涸れてしまう。 過去にも水で問題になった場所があったんだ……)
「ここの井戸は涸れないのか?」 慎之介がキョトンとすると、
「コッチ来てごらんよ。 お菊さんにも話したら涙を流していたわよ」
愛留は慎之介にキッチンや洗濯を教えてあげる。
「なんと! これならお菊も楽できるのにな……」
(なんて嫁を労る武士なんだろう……) 愛留は慎之介を見て『キュン』となってしまった。
そこから水の話で盛り上がっていく。
「昔は、城攻めの時に川の水を使ったとも言われている」 慎之介が話すと、
「そうね。秀吉が毛利を攻める時や、忍城なんかもあったと勉強したわ」 愛留は慎之介と出会ってから歴史が好きになっていたようだ。
「なんか、たくさん話したら喉が渇くな。 どれ、愛留の時代の水を飲んでみよう」 慎之介はキッチンに向かう。
(こんな自分の家のようにウロウロと…… 親がいなくて良かったよ……)
慎之介は冷蔵庫に触れる。 「愛留、この箱は何だ?」
「これは冷蔵庫。 食べ物を冷やして保存したりするのよ」
慎之介は江戸時代の中期の人。 現代の物に目を輝かせている。
「コレを引くんだな」 慎之介が冷蔵庫を開けてみると、冷気が慎之介にやってくる。
「わっ!」 勢いよく開けすぎた慎之介は足を滑らせる。
「危ない、慎ちゃん!」 愛留が慎之介の腕を掴んだ時だった。
“チリンッ……”
鈴の音が鳴るとキッチンから二人が消えてしまった。
「いたた……」 二人は森の中に落ちたようだ。
「ここ、どこ?」 愛留がキョロキョロしだす。
「愛留、大丈夫か? 怪我はないか?」
(すぐ、私を気遣うところ…… 優しいな……って、ダメ ダメ! 慎ちゃんには お菊さんがいるんだから)
愛留は邪念を振り払うように首を振る。
「愛留、本当に大丈夫か?」 慎之介は愛留の行動を心配になっていた。
森を抜けて、舗装もイマイチな街道に出る。
「ここは愛留の時代なのか?」 慎之介が辺りを見回すと、
「ううん…… 慎ちゃんの時代からはずっと現代に近いけど、私の生きている時代よりは昔みたい……」
そこに一人の女性が息を切らせて歩いてくる。
「大丈夫ですか?」 愛留が話しかけると、「珍しいね…… この町に残っている人がいるなんて」
女性は驚いたように愛留を見る。
「この町は、何かあったのですか?」
愛留が周辺を見ると民家は見えるものの、住んでいる様子はない。
「ここは呪われた町と言われてね……」 女性が話しだすと、愛留と慎之介は真剣な表情になる。
「ここに住むと、身体じゅうが痛くなって亡くなってしまうと言われているの。 今じゃ、ほとんどの人が居なくなってしまったのよ……」
こう話してくれる女性の家に案内をされる。
女性の家に行き、話を聞くと昭和三十三年の富山県だった。
この当時に新聞があり、愛留は新聞を読む。
「イタイイタイ病?」 愛留は学校の授業で聞いたことがあった。
富山県富山市の神通川下流の地域で高度経済時に発生した四大公害のひとつである。
三井金属鉱業による鉱山の製錬による未処理排水が川に流出。 それにより民間の人が公害で悩まされた。 「イタイイタイ病」は「イ病」と略されたりもした。
病名の由来は、患者が「痛い 痛い」としか言わなかったことから命名されたそうだ。
昭和三十年に地元の開業医である萩野 昇を地元の新聞記者が取材をしている時に、看護婦が「いたい いたいさん……」と呼んでいたことから付けられたという。
「文明の発展には、大きな覚悟が必要なんだな……」 慎之介は難しい顔をしている。
「それで、おばさんは逃げなかったのですか?」 愛留が聞くと、
「なかなか、此処を離れる勇気が持てなかったのよ……」 女性がお茶を運んでくると
グラっと女性が身体を傾ける。
「危ない!」 慎之介が女性の腕を掴むと
「痛い―」 女性は大声を上げる。
後に、家族が戻ってくると愛留が説明を始める。
そして医者に診せること三十分……
「骨折ですね……安静にしましょう」 医者は呆れている。 ここ数年、骨折の患者ばかりだと話していた。
「申し訳ござらん……」 慎之介が頭を下げると、
「そんな顔しないでください。 ここ一帯の人は、同じようになっていますから……」 そう言って、家族の人は笑顔を見せる。
(それでも、やりきれないよね……) 愛留の目に涙が溢れていく。
「少しすると、お腹も減ってくるが食べるのにも注意しよう」
慎之介と愛留は空腹でも我慢をしていた。
後に政府が発表、1961年 (昭和31年) イタイイタイ病の原因が川の水に含まれるカドミウムだったと発表。 川の水を使った飲料や農作物での被害ということがわかった。
慎之介は難しい顔をして歩いていた為、木にぶつかってタイムスリップ。
愛留は、話してくれた家族の手伝いをしていたら皿を割ってしまい、驚いた瞬間に転んでタイムスリップをして現代に戻ってしまった。
「うえ~ん 皿を割ったことを謝れなかったよ~」 愛留は深く反省している。
その後、愛留はインターネットで イタイイタイ病を調べる。
1973年 (昭和48年) 三井金属鉱業と医療保障協定が締結。
翌年の1974年 (昭和49年)には「公害健康被害補償法」が施行され、国の救済制度が始まった。
(今の時代では普通に使える水……そんな水でも色々と乗り越えて、安全な水となったのね……)
愛留は水道を出し、コップに水を入れて飲んだ。
2024年 (令和6年) 八月十一日 生存する唯一の認定患者だった富山市の女性が亡くなり、初めて認定患者がゼロになったという。




