第6話 銭湯と湯女
第六話 銭湯と湯女
愛留は学校帰り、小さな川の脇を通る。 そこには数名の若い男女がバーベキューをしていた。
(火事なんてやめてよね……) そう思いながら歩いていると
『ヒクヒク……』 愛留が鼻を動かすと、そこには肉を焼いている匂いが愛留の食欲を動かす。
“ぐぅ~” 時刻は学校帰り。 「お腹空いたな……」 愛留は自宅に小走りで向かっていく。
すると、 「キャッ―」 空き缶を踏んでしまい、豪快に転んでしまう。
“チリンッ―”
「いたたた……」 愛留は道で豪快に転んでいた。
「なんなのよ~」 愛留が倒れているところに男性が顔を覗かせる。
「大丈夫か……?」 声を掛けてきたのは慎之介だった。
「道路で空き缶を踏んでさ…… 本当にドジなんだから~ 慎ちゃん、ありがとう……」 愛留は、服に付いた砂を払い落としていると
「んっ? 慎ちゃん? という事は、まだ江戸時代に来ちゃったの―?」
愛留が驚いていると、
「そうだよ。 急に道に落ちてきてきたからな…… 驚いて見てみたら愛留だったんだ……」 慎之介は、ため息をつく。
「ありがとう…… 違う時代だったら、誰も助けてくれなかったよ~」
「それより愛留、砂だらけだぞ…… 俺も城で汗をかいたから銭湯でも寄っていくか?」 慎之介が微笑むと
「良かった~♪ 砂だらけだし、体育の授業もあったからサッパリしたかったのよ~」
「少し歩けば銭湯があるはずだ。 行こう」 慎之介が誘導する
江戸時代、家は長屋が多く風呂はない。 その為、町のアチコチには銭湯があり、 江戸の町だけでも六百軒くらいあったそうだ。
「おっ! 早速あった」 慎之介が足早に向かう。
「いらっしゃい♪」 銭湯の番台の女性が元気な声を出す。
「まだやっているかい?」 慎之介が訊くと、
「もうすぐ閉店だけど、入っていきなよ」 番台の女性がニコッとする。
夕七つ(現代の十五時~十七時を指す) 愛留たちが銭湯に来たのは閉店近くだった。
「ちょっと待って! 江戸時代の銭湯って、混浴なんじゃない?」
愛留がアタフタしていると
「そうだが…… じゃ、愛留は外で時間を潰していてくれ。 俺は入る気になっているから我慢ならん。 じゃな」 慎之介が中に入ろうとする。
「い 行くわよ。 私も入る~」 愛留も中に入っていった。
すると、 (やっぱり浴槽は一つ…… でも、中は薄暗い)
江戸時代には電気がなく、照明として使っているのは布に油を染みこませて火を点けているものだ。
油も高価な為、薄暗くしているのが普通なようだ。
慎之介は、サッと身体を流して浴槽に入る。
「コッチ見ないでよね……」 愛留が小さく声を出すと、
「わかった、わかった」
そう言っている隙に、愛留が頭からお湯を掛ける。
(しまった…… この時代では灰がシャンプー替わりだった。 これじゃ髪がギシギシになっちゃうよ……)
仕方なく愛留はお湯だけで我慢する。 銭湯で借りた手ぬぐいで身体を擦っていった。
「ようやく終わったわ。 入るね」 愛留が声を掛けて浴槽にはいる。 中で手ぬぐいを入れるのはマナー違反であり、慎之介には背を向けて入っている。
「いい心がけだな」 慎之介が話しかけると
「何が?」 愛留はキョトンとする。
「湯船に入る時だ。 愛留は声を掛けただろ? これは、この時代には大事なんだぞ」
「そうなの? 何て言って入るの?」
「ここは、薄暗いだろ。 うっかり水を掛けてしまったり、冷えた身体で湯に入ると冷めてしまうからな…… 「田舎者でござーい」「冷え者でござーい」なんて言ったりするんだ。 そうすれば、気遣いになるだろ?」
「風呂からあがる時は 「お先に」 と言えば「お早い」などと返してやるんんだ」
慎之介が説明すると、(多くの庶民が集団で生活をするんだもんね。 こういう気配りは現代では失いつつあるな~) そう思いながら、愛留は江戸時代の銭湯を堪能する。
すると、浴場の番台に座っていた女性が入ってくると
「すまない…… もう閉店だったか」 慎之介が申し訳なさそうにする。
江戸時代、店は早くから営業して早くに店じまいをする習慣だった。
「いいんだよ。 まだ少し大丈夫だから、ゆっくりしなって。 それより、背中を流そうかい? 髪梳きもやるよ」
女性が言うと、愛留はポカンとする。
「この女性は湯女なんだ。 こうして背中を流したり、髪梳きなんかをしてくれるんだ」 慎之介が愛留に説明すると、驚いていた。
(そんなサービスがあるのね……) 「由奈さんて言うのね」 愛留が笑顔になると、
「私の名前は小夏って言うんだよ。 知らないのかい? 湯女ってのは仕事なんだ。 ここの銭湯の番台に座ったり、背中流しや髪をすいたりね」
愛留はこの時代の仕事を始めて知った。
「それに、この銭湯が終わったら二階においで。 特に、お兄さんがね♪」
そう言って、小夏は浴場から出て行く。
「慎ちゃん、この後って何?」 愛留が訊くと、
「えっ? いや…… 何でもないよ」 慌てている慎之介がいる。
この後、愛留は二階で起きることを聞いた。
小夏さんは湯女として働き、夜になるとお座敷で三味線など娯楽になることを披露する。 そして複数の客と情事を行って稼いでいたのだ。
「小夏さん……こうまでして稼がないといけないものなのね……」
江戸時代は貧富の差が激しい時代だった。 その中で生き抜く為に、必死で頑張っていたのだ。
しかし、江戸時代の中期。 庶民からは安く済む湯女が人気となり、幕府公認の吉原は客が減り抗議をしたと言う。 それにより湯女が消え、男の『三助と呼ばれる者になっていった。
そのお触れが出ても、隠れながら営業しているのだが……
銭湯を出て、慎之介とゆっくりしていると
「ちょっとゴメンよ」 男性が慌てて走ってくる。
“ドンッ―” 男性は愛留にぶつかってしまう。
「キャ―」 愛留は驚き、尻餅をついた瞬間だった。 “チリンッ”
「すまない― って、あれ?」 男性が謝るが、愛留は消えていた。
「あれ? ここに女の子がいなかったかい?」 男性は慎之介に訊くが
「さぁ 気のせいだろ?」 慎之介が微笑む。
愛留は現代に帰ってしまった。 「いたた……」
自分の部屋に戻った愛留は、改めて時代の楽しさを知っていく。
「湯女か……」 愛留は思い出し、
(シャンプーしよう。 ただ、湯で流しただけだったし……)
急いでお風呂に向かっていくのであった。




