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おくりかえすひと――異世界帰還者を送り返す仕事  作者: 活呑
おくる人、おくられる人

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25/27

第25話 19:00


会議室に、有森優希が入ってきた。

白木が隣で支えながら。


それは芝居に見えた。

感情が動かない。

送還を拒絶する人を、これまで何人も見てきた。


「そこの中央にいてください。

 白木は離れて」


二人とも、指示に従う。

「なぁ、今回は」

「それ以上は言うな」

白木の言葉を遮る。


機材が自動的に起動する。

低い音を立ててうなり、部屋の中央に影を落とした。

犬が倉橋の隣に来て座る。



「送還を開始します」


静かに力強い声が、部屋を通っていった。


有森優希が倉橋をキッと睨みつけた。


「あなたに何の権利があるんですか!!」

「私は白木さんと一緒に、あちらの世界でたくさんの人を救ってるんです。

 世界のために戦ってる。

 あなたは、ここで、何をしてるんですか?」



倉橋は帰還紋に意識を向ける。

雑音だ。


認識できる世界が三つ。


ここ。

白木が調査に行っていた世界。

あと、もう一つ。


最後の一つに、座標を固定する。


倉橋の集中に合わせて機材の唸りが大きくなる。部屋の空気が重くなっていく。


有森優希が、動こうとしていた。

動けないのだ。

送還はすでに始まっている。


「私は、白木さんの側にいなくては※△◯⬜︎※…」


倉橋は、有森を見た。



口が、のびている。


顎の部分が、溶けたように垂れ下がっていた。



ガタッ


白木が椅子を倒して立ち上がった。


「優希に、なにを!」

白木の怒声は倉橋に向けられている。


有森優希の変化は全身に及んでいた。

肉がただれ落ちるように崩れて行く。

骨格のようなものも。


白木が倉橋の方に動いた。

途中で足が止まる。


白木の足元には犬がいて、ズボンにかみついていた。


「△◯⬜︎※…」


有森優希の声が室内に響く。


刹那


有森から倉橋に何かが飛び出してきた。

粘液のようなものが帰還紋に貼り付き、皮膚を焼く。


汗が吹き出した。


帰還紋が暴れ始めていた。

固定した座標がぶれる。

有森優希の輪郭がぼやける。


送還は失敗できない。


座標が揺れ続ける。


「…しら…ぃ…△◯⬜︎※…」


有森優希の声が、また、響く。


白木は有森をじっと見つめていた。

能面のような顔。

不意に、こちらを向いて手をかざした。

「○◇▽!」

短い掛け声と共に手から倉橋に光が走る。


倉橋を撃った光は電撃のようだった。

衝撃で体が硬直し、思考が一瞬飛ぶ。


それでも、帰還紋が光を放つ。

光は"有森優希"を包みこんだ。


彼女の輪郭が、影が、だんだんと光に溶けていく。


帰還紋が、強く脈打った。


光が消える。


19:00


会議室の時計が時間を知らせる。

長いようで、短かな時間。


部屋の中から、

有森優希はいなくなっていた。



倉橋は膝をつき、右手を見た。

帰還紋の上に、黒い跡が残っている。


白木を見る。

彼は両手を握りしめて、下を向いて肩を振るわせていた。


「……彼女のあの姿は?」


白木は答えなかった。

一度顔を上げて、倉橋を睨む。

また、顔を下げる。


「知ってたさ……」


絞り出すような声だった。

「……最初からな。」


犬はいつの間にか、倉橋の足元に座っていた。

倉橋の手をじっと見ていた。


ドクン


帰還紋が脈打ち、倉橋の心臓が締め付けられる。

黒い跡から、血が滲んでいる。


倉橋はハンカチで帰還紋をおさえた。


「19:00 有森優希の送還を完了」


静かな部屋に、声は溶けていった。




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