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おくりかえすひと――異世界帰還者を送り返す仕事  作者: 活呑
おくる人、おくられる人

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26/27

第26話 ありがとう


倉橋は自席で右手を眺めていた。


手の甲から肘まで、"帰還紋"と呼ばれる記号が並んでいる。


送還した世界が増えるたび、記号が増えてきた。

送還のログであり、送還の触媒。


今回の送還。

増えたはずの記号がなかった。

あるのは、有森優希の残した黒い焼け跡。


それは、他の記号のいくつかに重なるようについていた。


犬も隣で同じように帰還紋を眺めていた。


「異常なし、とは言えないよな」


犬は答えない。


倉橋はPCを立ち上げ、報告書を確認する。

未来の、今では事実となった報告書は、まだそこにあった。


初見世界への送還。

世界名:※⬜︎◯

対象:有森優希。女性。


世界名が記されていた。

自分が送ったのは、まだ名前の登録されていない世界だったはずだ。

座標がずれた?


もう一度、帰還紋の焼け跡を見た。

焼け跡のついた記号の中に、彼女が送られた世界の記号があった。


世界名の欄を「未登録」に書き換える。

虚偽報告は罰則の対象だが、これが正しいように思えた。


報告書はメールで送るのが常だ。

宛先は上司と、今回の関係者。そして、自分。

書類に不備がないことを確認して、送信ボタンを押した。


自分にも報告書が届くはずのメールは返ってこなかった。

そんな気はしていた。



白木が、職場を訪ねてきた。

「あの報告書は本当か?」

彼には届いていたらしい。


「送り先は違うがね…」

倉橋は静かに答える。


白木の目が鋭く倉橋を射抜く。

「虚偽は重……」

倉橋は手で制した。

「※⬜︎◯だよ」

「あんたが今調査に向かっている世界だ」


白木は背中を向けた。

「すまない」

そのまま、職場から帰っていく。


犬が後ろ姿を眺めているのをみて、

倉橋もそうした。

何かを決意したような背中だった。



倉橋は3日間、謎の高熱で仕事を休んだ。

ここ数日の夢がなんども繰り返された。こういうことは初めてだった。


明けて出社すると、メールが溜まっている。

その中で一つ。


上村千早からのメールがあった。


タイトルだけ。


ありがとう。


それだけだった。


犬が膝の上に頭を乗せていた。




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