第23話 送還係
人だかり。
調査班のフロアの一角に、人が集まっていた。
その中心に、有森優希。
アイドルのように笑顔を張り付けている。
近くの席では白木が憮然とした表情で眺めている。
「白木、有森に話があってきたんだが…」
白木はデスクに足を乗せたまま
「あれで話ができると思うか?」
「異世界の人とは交流できる機会ないからな」
「直接、現地に行けない連中にはそうだろうな」
「さらりと自慢するな」
白木は皮肉の混じった顔でにやりと笑う。
「メールの件か?」
「それ以外で、俺がここへ来ると思うか?」
「見かけによらずミーハーだからな。
…冗談だよ。」
また、にやりとする。
「お前が決めたんなら、そうするんだろう?
俺は見守るしかない。そういうルールだ」
その目は、笑っていなかった。
待っていても人だかりは無くなりそうにない。
犬が、人だかりに潜り込み始めた。
「きゃっ」「なんだ?」
人波が割れる。
倉橋はコートのポケットに手を突っ込み、
後を歩いて有森のところへ向かう。
有森優希は、
一瞬だけこちらを見た。
ほんのわずか。
有森優希から、笑い顔が消えた。
倉橋は立ち止まらない。
帽子のつばを少し押し上げる。
「有森優希」
名前を呼ぶ。
シン…… となった空間。
「送還係だ…」
誰のものかわからない声が発せられ、消えていった。
「お話があります。会議室へ来ていただいてもいいですか?」
「ソウカンガカリさん?
あの…どんなご用件ですか?」
「それも含めて、会議室で。
白木さんにも同席していただきます」
倉橋はそっと白木に目配せした。
白木は嫌そうな表情だ。
「分かりました。では会議室で」
有森はすっと立ち上がる。
倉橋は空いている会議室へと歩いていく。
後ろを、犬と、有森、白木が続く。
バタン、と会議室の扉が閉まる。
ようやく空気が軽くなったように、職場の人たちは小声で会話を始めた。
会議室。
緊張の糸が張り詰めている。
有森優希の隣には白木が座っていた。
倉橋は部屋の中央で、立ったままだった。
犬が隣に座っている。
「今晩、あなたを送還します。」
倉橋は言った。
「あるべき世界へ」
有森優希はキョトンとしていた。
「ソウカン?ですか、それってどういう…」
「あなたの世界へ帰ってもらう、ということです」
倉橋の言葉尻は冷たかった。
「私の世界……私のいるべき世界は、白木さんのところです。それ以外にはありません」
有森は白木に縋るような視線を投げる。白木は無表情だった。
「上村のところでなくて、ですか?
彼女には世話になったと」
有森は黙り込んだ。
「白木にはついて行くことはできない」
言い過ぎた。
倉橋はそこで口を閉じた。
有森優希の表情がさっと変わった。
「何故なんですか!何故私はダメなんですか!?」
有森は立ち上がって絶叫した。
白木は手で目を覆い、表情を見せない。
「あなたは送還条件を満たしている。
それだけです」
「そんな、白木さん、なんとかなりませんか?
私、役に立ててますよね? あなたを支えられてますよね?
どうして…」
白木は反応しなかった。
有森に縋られ、体を揺すられても、体勢を変えなかった。
「19:00、場所はここで。
白木、責任持って有森優希を連れてきてくれ」
倉橋は会議室を出る。
扉を閉じる時、
室内からは有森優希の泣き声がきこえた。




