第19話 帰るべき世界
倉橋がを覚ましたのは、ビルの屋上だった。犬が隣で座っている。
力の使いすぎで失神していたようだ。
帰還紋は光も熱も消えているが、何かが燻っていた。
一雨きたのか、スーツは濡れてしまっている。
「帰るか」
報告書なんて後でいい。
倉橋は力の入らない体を無理やり起こし、ビルを降り始めた。
車に乗ったところで1度仮眠をとり、ようやくの帰宅。冷えきった体を風呂で温める。
犬が風呂桶が空くのを待っている。
なんとなく戻ってきたような日常感。
夕食はデリバリーにした。
何をするにも億劫すぎる。
「散歩は…」
犬は寝そべって動く気配がない。
「今日はいいか」
倉橋も布団に寝そべった。
いろんな記憶が渦巻いていて、整理できそうにない。
「帰るべき世界は、どこですか?」
不意に、あの時の言葉が甦る。
回答はない。
帰還紋は、すべてを記録している。
自分は、それをなぞってきただけだ。
それでも――
何かが、自分をここに留めている。
そんな気がした。
有森優希はどうか?
彼女は2世界の反応がある。帰るべき世界はどちらなのか?ログの一つは白木たちのいた既知の世界だ。もう一つは分からない。
初見世界への送還か…
それ以上、思考がまとまらなかった。
そのまま目を閉じ、眠りに落ちた。
犬は窓から差し込む月の光を眺めていた。




