第18話 Cビルの竜
携帯に電話が入った……直帰のはずの上司から。
倉橋は画面に映るその名前を、苦々しく見ながら通話ボタンを押す。
「なにか?」
しばらく上司からの状況説明が続く。
「…計測…目撃…」
「被害が……急いで…」
不穏な言葉が携帯から漏れる。
「分かりました。向かいます」
倉橋は車にのりこんだ。
犬は後部シートでゆったりしている。
「仕事だ。Cビルの屋上。歪みの反応と…どでかい怪鳥が空でぐるぐるしてるそうだ」
そう言って、車を出発させる。30分ほどの距離だ。まだ帰宅ラッシュの時間でもない。
「怪獣映画かよ」
そういう倉橋はわずかに口の端に笑みが溢れる。バックミラー越しに、犬が欠伸をしているのが見えた。
Cビルの周りは人だかりができていた。
警官が立ち入り制限をかけて、人を近づけない様に誘導棒で交通整理をしている。
怪鳥はビルの屋上の更に上で円を描くように飛んでいた。まだこれといった被害はなさそうだが、あの巨体が飛んでいれば肝も冷える。
倉橋は双眼鏡から目を離せなかった。
「怪鳥っていうより、竜じゃないかな?あれは」
表皮に鱗の様なものが見える。しかし、あれだけの巨体がどうやって…。考えても仕方ない。異世界とはそういうものだ。
すっと、心を正す。仕事時の顔。揺らぐ感覚。静かに警官の視線を掻い潜り、ビルへと向かう。
犬が後からついてくるが、警官には見えていないようだった。
Cビルの屋上へは難なくたどり着けた。
エレベーターは稼働していたが、人影は見当たらなかった。不用心だが、本当に身の危険が迫ったら皆こんなものだ。
ゴゥ
風が唸っている。
空は暗く、分厚く黒い雲に覆われていて、渦を巻いていた。その下を竜がのびのびと飛んでいる。
帰還紋が熱をもち、わずかに光っていた。条件は揃っている。問題は距離とサイズ、か。
トゥルルルル…
携帯に着信がある。……白木からだ。
「なにか?」
「撃ち落とすから、上手く狙えよ」
ブツっと通話が切れる。
雲間から、雷の音がし始める。
周りが光に包まれた。同時に轟音。
目の前に、何かが落ちてくる。竜の翼だったもの。狙うのはこれじゃない。帰還紋で対象を視る…竜の本体が屋上に向けて落ちてくる。直撃すれば大惨事だ。落下し切る前に…
再び、閃光。
今度は帰還紋が放った光だった。
竜だったものは、翼も含めていなくなった。
「乱暴すぎるだろ…」
帽子をかぶり直した瞬間、視界が歪んだ。
帰還紋の熱が一気に引いていく。
膝が抜け、屋上の床に倒れ込む。
犬の足音が、遠くで聞こえた気がした。




