第17話 上村千早の顛末
倉橋は資料室にいた。
電子化されていない、昔ながらの資料室。
常に最新なわけではないが、可能な限り新しい報告書がまとめられている。
「***世界における上村千早の顛末」
倉橋は目当ての報告書を手に取り、近くの椅子に腰掛けた。
上村千早。
白木のパーティにいた女性だ。
報告書の文章が丁寧で、好感を持っていた。
魔法を扱う後衛。記録上は、賢者と分類されている。
手書きの報告書。乱暴な文字で書かれてあった。
二年前。
戦闘中の魔法暴走事故。
姿を消す。
行方不明。
ほぼ知っている情報だ。
だが、新しい情報でもある。姿を消す=死ではない。
「ここにはいないだけ、…だ」
倉橋のつぶやきは、資料室の静けさに溶けて行った。
倉橋が職場に戻ると、上司がいなかった。
行き先掲示板には「直帰」の札。
多分、あまり時間がない。報告書にあった送還日には、何かしらの意味があるはずだ。
何かをしておかなければならない。送還をするのは、間違いなく自分なのだから。
帰還紋に痛みがあった。
見ると、犬が噛み付いている。倉橋の視線に気がつくと、犬は口を離して駐車場の方へ歩いて行った。
「そうか。今日は帰るか」
色々ありすぎた。倉橋は自分の行き先掲示板を帰宅にして、駐車場へ向かった。
時間はない。
その感覚だけが、脳裏からはなれなかった。




