第15話 未来の報告書
倉橋は書類を作っていた。
初見世界への送還には上司の許可が必要だった。
まだ会ったことのない女性。疑問はある。だがそういうこともある。
書類は空白が多い。作成中のフォルダに保存してPCを閉じる。
「調査班とは話をしてきたのか?」
上司が声をかけてきた。
犬が立ち上がる。
あの人が挨拶以外で声をかけてくるのは珍しい。犬が人の声に反応するのも。
「いえ、報告書を待てば良いだけなので…」
「会ってこい。ーー今のうちにだ」
上司はそれだけ言って、新聞に目を落とした。
倉橋は、まだ喧噪の最中にあるそこを遠目で眺めた。
帰還紋が熱を持つ。
あそこにいる連中は自分が送り返してきた世界に繋がりがある。そういう熱だ。
倉橋は少し息を吸い、彼らの方に歩き出した。
犬は少し遅れて後を追う。
「やぁ、送還係」
声をかけてきたのは向こうからだった。確か、白木と言ったか。
「……おひさしぶりです」
「相変わらずだね。こっちでの仕事はどうだい? 平和すぎて退屈だろう?」
「いつも通りですよ。」
4人組。白木を始めいつものメンバーのはずが、1名違っていた。
「そちらは?」
「送還係は目敏いね。上村が事故で、ね。現地補充したのさ。特例7号ってやつだ」
倉橋は軽く頷いた。視線はその人から離れなかった。
「有森優希、です。よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀。
「有森…」
名前が、一致した。犬が低く唸って、帰還紋に歯をたてた。
「報告書、お待ちしてます」
倉橋はくるりと振り返って、その場を後にした。
席に戻って、PCを開く。
あの報告書は誰にも触られることなく、そこにあった。
日付けは明後日。
初見世界への送還。
世界名:未登録。
対象:有森優希。女性。
「厄介だな…」
他に書かれていた情報、文字の羅列が意味のないものになっていた。ズレが広がっている。
初見。
送り返せるのはわかっている。
何が起こるか…楽しみ?大変?なだけだ。
倉橋は椅子に深く腰掛け、画面の報告書を眺めた。
犬がPCの画面を見つめていた。




