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その頃、バルドゥルとエルヴィンは隊を引き連れ公都へ向かって歩みを進めていた。


「早く戦いたくてウズウズするぜ」


「そうですね。神官との訓練で私たちはさらに強くなりましたからね。サキラスの魔女にどれほど通用するのか楽しみです」


バルドゥルとエルヴィンの2人はサイチ国から派遣されていた神官にマナを扱う者たちとの戦いを学んでいた。


「そうじゃねぇ。早くコイツで人を殴りてぇってことだ。肉が潰れるあの感触、骨が砕ける音、あぁ…たまんねぇ!」


そう言うとバルドゥルはメイスを高く掲げ、ぶんぶんと振り回した。


「まったく、あなたが騎士だとはとても思えませんよ」


エルヴィンが呆れたように言う。


「はん、騎士なんてどうでもいい。俺はただ誰かを殴れればそれで満足だ。そういうお前こそ、あのクロヴィスとかいう団長を慕っていたくせに、あのバカなヒルデベルトの野郎に従いやがって」


「団長として立ててはいましたが、私は地位が安定している騎士という身分さえあれば良いのです。ここに残っている者たちは、ほとんどがそうでしょう。国への忠誠心など元から持ち合わせてなどいませんよ」


「それもそうか」


「さて、そろそろ森ですね。魔物を殴る準備をお願いしますよバルドゥル」


「あ?森か。おい!お前ら!魔物を見つけたら俺に報告しろ!雑魚でもなんでも俺が殺る」


バルドゥルが部下に指示を出す。


翠と碧の2つの隊が森を進んでいく。


「半分くらいまで来ましたね。そろそろサキラスへの警戒も強めるべきでしょう」


「手応えがある奴は俺によこせエルヴィン。ここまでホントに雑魚しかいなかったからな。逆にストレスが溜まりまくりだ」


「えぇ、お譲りしますよ。私は別にどんな敵でも構いませんから」


そこへ翠の騎士が2人の元に駆けてくる。


「報告します!前方2キロ先、北東方面から南西に向かい装甲蟻(アーマーアント)が移動中。このまま進めば我が隊と接触します。いかがいたしますか」


「あ?そのまま進め!戦の前のいい準備運動になる」


「バルドゥル、この時期の装甲蟻(アーマーアント)は厄介ですよ。卵を育てるために凶暴化しています」


「ちょうど良いじゃねぇかよ。うずうずしてきたぜ」


「…貴方に何を言っても無駄なようですね。聞きなさい!私たちは装甲蟻(アーマーアント)との戦闘に移ります!奴らの毒針に気をつけなさい!負傷した者はこの場に置いていきます。この後の戦では足手まといですからね」


騎士たちの表情が一気に強張る。ここに置いていかれるということは、この森の魔物の餌食になるということだ。実際のところバルドゥルが雑魚と言っていた魔物も、本来であれば騎士数人でかからなければやられてしまうレベルであった。


しばらくして、エルヴィン率いる碧の騎士団とバルドゥル率いる翠の騎士団は、装甲蟻(アーマーアント)の軍隊に接触する。


「まずは兵隊蟻との戦闘ですね。この程度でやられるようじゃ、どのみちこの先の戦いでは使い物になりません。逆に選別ができて良かったかもしれません」


倒れていく部下を眺めながらエルヴィンが呟く。


「おい!エルヴィン!あんな雑魚じゃなくて、もっと強ぇのもいるんだよな?」


「えぇ、安心してください。あれは装甲蟻(アーマーアント)の中でも低階級の蟻たちです。将軍クラスの蟻でしたらもう少し手応えがあるはずですが。まあしかし、貴方レベルになると女王の側近クラスでないと楽しめないでしょうね」


「あ?その女王はどこにいやがるんだ?」


「兵隊蟻や将軍蟻を倒していけば、いずれ辿り着くでしょう。装甲蟻(アーマーアント)達は最後まで女王を守るために動くはずですから」


「要するに雑魚をさっさと蹴散らしゃいいってわけだな?」


「そういうことです」


「おい!!!お前らどけ!俺が()る!!!」


そう言うとバルドゥルはメイスを振り回しながら装甲蟻(アーマーアント)の群れに突っ込んでいく。


「ほら!何をしているのです!!!バルドゥル団長に続きなさい!!!女王を討ち取るまでこの戦いは終わりませんよ!」


バルドゥルの戦いに圧倒されている騎士達にエルヴィンが指示を出す。こうして2つの騎士団と装甲蟻(アーマーアント)の軍隊は交戦状態に入っていった。


戦いは続き次第に日が暮れ始める。夜の森にはもちろん街灯などなく、月明かりだけが唯一の光源だ。


「うーん。少しまずいですね。このまま日が暮れれば、これまで対等に戦えていた者たちも失いかねない」


無数の装甲蟻(アーマーアント)の亡骸のそばに、騎士たちの亡骸も同様に転がっていた。


エルヴィンはサキラスとの戦いに備え、これ以上の犠牲は良くないと考えていた。


「仕方ありません。女王を狙うしかありませんね」


装甲蟻(アーマーアント)は女王が亡くなると、次の女王を決める為に、装甲蟻(アーマーアント)同士の戦いが始まる。エルヴィンはそれを利用しようと考えたのだ。


「バルドゥル!雑魚相手は任せて、2人で女王を探しましょう」


「おう!お前もとうとうやる気になったか!はははは!楽しくなってきたぜ!」


バルドゥルはメイスを振り回しながら、蟻の群れに突っ込んでいき女王を目指す。エルヴィンもバルドゥルに続いた。


「群れの濃い方に向かえば、女王がいるはずです」


2人は行手を塞ぐ装甲蟻(アーマーアント)を切り裂き、殴り倒しながら群れの中を進んでいく。


「お?コイツらは少し手応えがありそうだぞ」


装甲蟻(アーマーアント)の甲羅が黒く光り、鋼のように輝いている。


「おそらく女王の側近でしょう。あの奥にいるのが女王ですよ」


エルヴィンが目を向けた先には一際大きな身体と羽をもった蟻が様子を伺っていた。


「お前は手を出すな!俺が()る」


「では私は女王が逃げないように見張っておきましょう」


女王の側近は全部で4体。これまで相手にしてきた兵隊蟻とは比べものにならない強さであろうことは、見るからに分かる。兵隊蟻が100匹集まったとしても、彼らには太刀打ちできないだろう。


しかし、バルドゥルは4体同時に相手にするつもりのようだ。


「おっと。」


女王のそばに寄ろうとしたエルヴィンを警戒し2体の側近蟻が女王を守るように後ろに下がる。


「おらおら!逃げてねぇでかかってこいや!」


バルドゥルはまず前方の2体を相手にすることにしたようだ。相変わらずメイスをぶんぶんと振り回し、蟻を叩き潰すつもりらしい。


しかし側近蟻たちは、羽の装甲でバルドゥルのメイスをうまく弾いている。


「ほう、やるじゃねぇか」


攻撃を的確に防いでいく蟻たちにバルドゥルも少し本気になる。


バルドゥルの腕の筋肉が隆起し、片手でメイスを構えると一気に蟻の腹の下に飛び込み、下から叩き上げた。先ほどまでのスピードとは段違いである。


流石の側近蟻も突如変化したバルドゥルの動きについていくことができず、その巨体が宙を舞った。


「ふん、どうだ」


しかし、致命傷には至らなかったのか地面に叩きつけられる前に羽を広げ、うまく体制を整えた。


「いいねぇ。まだまだ楽しめそうだぜ」


地面は不利だと悟った側近蟻はもう一体も羽を広げ、地面から飛びたつ。上空から攻撃をしかけてくるつもりのようだ。


「バルドゥル、手伝いましょうか?」


女王を守る2体を牽制しているエルヴィンが声をかける。


「あ?俺の楽しみを邪魔するつもりか?」


バルドゥルはニヤニヤしながら楽しそうに蟻たちを見上げている。


「では私はこのままこちらの3体を見張っておきます。ただ上空に逃げた場合、追うのは困難だと覚えておいてください」


エルヴィンはこのまま蟻たちが逃げてくれれば、余計な体力を使わずに済むと考えていた。


「逃したら許さねぇ」


「分かっていますよ。逃げられないように、適度に攻撃をしておきましょう」


(彼はおそらく次で2体を沈めるつもりでしょうね。さらに上空に飛ばれれば、攻撃が届かない)


エルヴィンの読み通り、足の筋肉を隆起させたバルドゥルは、少し屈んだ姿勢をとったあと、ニヤリと笑うと、目にも止まらぬ速さで上空に跳躍し、軽々と蟻たちの上に位置を取る。


そこから空を蹴り、1体目の蟻の頭上にメイスを叩きつけると同時に、側近蟻の身体を踏み台にしその少し上を飛んでいた2体目の蟻の顎を下から叩き上げた。


1体目の蟻は地面に強く叩きつけられ動かず、2体目の蟻はバルドゥルの攻撃で頭がおかしな方向に曲がっている。


「ああ!いいねぇ!いいねぇ!次だ次!!」


バルドゥルが興奮気味に叫ぶ。


「お見事でした。ではこちらも宜しくお願いします」


「任せろ」


バルドゥルはニヤニヤと笑いながら女王蟻のほうへゆっくりと近づいていく。残り2体の側近蟻たちは警戒心を強め、女王を隠すように羽を広げた。


「バルドゥル、気をつけてください。女王蟻が地中へ逃げ込もうとしています」


「へ、面白いじゃねぇか」


意外にも2体の側近蟻たちは地上へと飛び立とうとしている。


「なんだなんだ?叩き落とされてぇのか?」


「いえ、何か仕掛けてくるようですね」


「ほう。んじゃ、待ってやるか」


バルドゥルはメイスを地面へ下ろし、2体の側近蟻を眺め始めた。


蟻たちは地上から数メートル付近まで飛翔すると、お尻を突き出すような体制をとる。


「毒でも撒くつもりのようですね」


「毒かよ。面倒だな」


緑色の液体が2体の蟻から散布され始める。


エルヴィンは散布される場所を見ながら木の幹に飛び移り上手く回避し、バルドゥルはメイスを握り自分を中心にぐるぐると回転し、毒を撒き散らすことで回避した。


「これで終わりか?じゃあ、死んどけ」


退屈だと言わんばかりの様子でバルドゥルは飛び上がると1体の蟻を横殴りし、もう1体の方に打ちつけた。


蟻たちは胴体の中心から半分に折れ曲がり、木々を薙ぎ倒しながら飛ばされていく。


「さーて、仕上げだ」


バルドゥルはそのまま上空からメイスを地面に叩きつける。


地面は亀裂が入り、クレーターのように大きな円形状に潰れた。


「ん?出てこねぇな。一緒に潰れちまったか?」


どうやら地面に逃げた女王蟻を叩き出すつもりのようだ。


「気配はしますから。まだその辺にいるはずですね」


「んじゃ、もう一発。そりゃ!」


地面が揺れ、さらに大きなクレーターが出来上がる。


大きく揺れ動いた地面に驚いたのか、女王蟻が地上へと顔を出した。


「いたいた」


バルドゥルに気がついた女王はすぐに地上に飛び出し、戦闘体制になる。


「こいつも期待できねぇな」


バルドゥルはすでに蟻たちとの戦闘に飽きてしまったようだ。


「私がやりましょうか?この蟻たちは頑丈な身体が武器なのですが、あなたのメイスとは相性が悪かったようですね」


エルヴィンが声をかける。


「だな。まったく手応えがねぇ」


強化されたバルドゥルの状態では、女王蟻ですらも相手にならない。


攻撃すらも許さず、頭を叩き割られた女王蟻が地面に転がり、戦闘は終了した。


「お疲れ様でした。さて本来の仕事に戻りましょうか」

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