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「来たな」


バルドゥルとエルヴィン率いる翠騎士団と碧騎士団が森から姿を現した。あちらの戦力は200名前後といったところか。もう少し多いかと思ったが…だが、対するこちらの戦力は3人。主力の戦力を早々に叩かなければこちらの負けは確実だ。


「やあ!」


「ッ!?」


気がつけば後ろに2人の少女が立っている。ロアよりも少し年上くらいだろうか。声をかけてきたのはおそらく短髪の少女の方だろう。もう1人の少女は彼女の後ろに隠れている。


「どちら様でしょうか?」


クロスが警戒しながら返答をする。気配からするにおそらく魔女だ。あの村の魔女とは少し雰囲気が違うが気配は似ている。


「手伝いにきたよ!師匠に言われてね!」


「師匠とはララさんのことでしょうか?」


「そうそうそう!ララ師匠がロア先輩のところにって」


「は、初めまして!ロア様、モリーと申しますっ!ララ様の命で参りましたっ!」


突然、後ろに隠れていた少女が、大きな声でロアに挨拶する。


「あっ!モリーずるい!ロア先輩!ケアリーっていいます!よろしくおねがいします!」


続いて、クロスと会話をしていた少女も元気よく挨拶をした。そして少女たちは呑気にロアに自分たちはどんな魔法が使えるとかロアの魔法を見せてほしいとか、きゃっきゃと騒ぎ始めた。


「ロア、敵はすぐそこまで来ている。どう采配するのかすぐに決めてくれ」


敵の姿はすでに目視できるところまで来ているのだ。こんな悠長に話し込んでいる暇はない。


「あ?何お前。ロア先輩に命令してるの?」


「ケアリー、この2人使えない。ロア様の邪魔、消そう」


急に二人の空気が変わった。俺の言い方が勘にさわったようだ。わずかだが殺気まで放っている。


「お待ちください!お二人は我々を助けに来たのではないのですか?」


クロスが慌てて仲裁してくれる。


「何言ってんの?ロア先輩と戦ってこいと言われただけ」


「そう。弱い奴はロア様の邪魔。いらない」


後ろに隠れて弱気かと思っていた少女も俺たちを消す気満々らしい。クロスと顔を見合わせ、ロアのほうに視線をうつす。


「ふたりはつよいてきをたおして。そのふたりはてきじゃない」


ナイス、ロア。と心の中で思う。


「はいっ!ロア先輩、分っかりました!」


「ロア様、承知しました」


2人はロアにぺこりと頭を下げると、敵の姿が見え始めた森の入り口へと飛んでいった。どうやらバルドゥルとエルヴィンに狙いを定めたようだ。単純な奴らだが、魔女の力を侮れないことはこの身がよく知っている。


クロスもふ〜と息を吐き、やれやれと言った顔をしている。


「さてアル。サイチ国の神官の姿が見えます。私たちはそちらを相手しましょう」


「了解した。ロア、ここは任せる」


最終防衛ラインをロアに任せ、神官のもとに向かう。


幸いにも神官は2人。バルドゥルとエルヴィンはあの2人の少女が倒し、俺とクロスで神官を倒せば、向こうの士気も下がり勝利が見えてくる。しかし、ララという魔女もひどいものだ。南からシノマリアの残党が進軍してくると知りながら、ロアしか派遣しないとは。いや、それともロア一人で十分だということか。


「アル、こんな時に考え事ですか?」


クロスは長年の付き合いからか、俺の様子にすぐ気が付く。


「あ、いやすまない。あまりにも戦力差がありすぎて。なんというか、笑えてくるな」


「ははは、そうですね。本当に馬鹿げた戦力差ですね。しかしながら、なんとかなるような気がしてしまう。アルもそうではないのですか?」


「そう言われるとそうだな。勝てるような気がしている」


「では早々に片付けるとしましょう。私たちの目標は始まりの楽園(ユートピア)なのですから」





バルドゥルとエルヴィンの前に2人の魔女が立ち塞がる。


「おうおう、なかなかよさそうな奴らじゃねぇか。おい、エルヴィンお前は手を出すなよ」


「分かっております。私と同じ武器を使う彼女に興味はありましたが仕方ありません。しかし相手は魔女、油断なきよう」


バルドゥルの目が2人をとらえる。そんな視線をよそに2人の少女は会話を続ける。


「なあ、モリー。こいつら思ったより強くないよ」


「うん。モリーの力、ロア様に見せたかった」


「そうそうそう!それだよ!ロア先輩にいいとこみせたかったよね」


「モリー、とっておきの魔法使う。ロア様にみてもらう」


「え!?ちょっと!それ、とってもいい考えだよ!じゃあ僕もそうしよっと」


2人の会話にバルドゥルは苛立ちを隠せない。


「おいてめーら、舐めてんのか?」


「ん?舐めてる?舐めてるのはそっちでしょ?ロア先輩の前に立つなんてホント礼儀をしらないんだね」


「モリーも怒ってる」


「そうだよね。それじゃ、さっさと殺っちゃおうか」


モリーが不気味な気配を纏った槍を握り、上空に掲げると漆黒の雲が立ち込め始めた。


「ケアリー、モリーがコイツらの動きを止める」


「りょーかい!じゃあ僕がトドメを刺すね!」


バルドゥルとエルヴィンも警戒をしはじめる。


「ロア様、私の力。『恐雨(テラーレイン)』」


モリーが槍で地面を叩くと、漆黒の雲から黒い雨が降り始めた。


「なんだ?こんなのが攻撃か?」


バルドゥルは訝しげに空を見上げる。


「油断してはいけません。これは攻撃です。おそらくは…精神への攻撃」


エルヴィンの言葉どおり、いままで戦闘体制に入っていた騎士たちの手から次々と剣が音を立てて落ちていく。


「へっ、こんな攻撃効くかよ」


「私たちは平気ですが、周りの騎士は全滅ですよ」


いつの間にか二人の周りにいた騎士たちは阿鼻叫喚となっていた。モリーの雨に打たれれば打たれるほど恐怖が蓄積されていき、やがて精神が崩壊するのだ。騎士の中には、自害するものまで現れ始めた。


「次は僕の番だね!いっくよー!『死鎌(サイズ)』」


ケアリーが背中に背負っていたブーメランを投げる。すると、ブーメランの周りを渦を巻くように風がまとわりつき、巨大な風の刃となった。すでに恐慌状態になっている敵軍は簡単に風の刃で刻まれていく。


こうして戦場は一瞬にして血で染まり、攻撃範囲外にいた騎士たちもふらりと現れた二人の少女が起こした目の前の光景に戦意を失うことになる。


「あれ?やっぱりダメか〜。この攻撃じゃお前たちには効かないみたいだね。これって攻撃範囲は広いけど、お前たちみたいな敵には不向きなんだよね〜」


攻撃の中心にいたはずのエルヴィンとバルドゥルだけが今だに戦闘体制で立っていた。クロスやアルには及ばないものの、二人とも騎士団長クラスに選ばれるだけの実力は十分に備えていたのである。


「モリーが殺そうか?」


「ん?僕もやるよ!モリーはそっちの男を任せてもいいかな?」


「いいよ。すぐ終わらす」


「うん、そうだね。そうしようか」





モリーとケアリーという魔女は、大規模な魔法を放った後、バルドゥルとエルヴィンとにらみ合いを始めたようだ。


「アル、私たちの戦いに集中しましょう」


すでに俺たちは神官の射程に入っている。


「ああ、そうだな」


ララの話によると、サイチ国の神官の使うマナは魔女のそれとは違うらしい。魔女は共鳴したマナを扱いその力を具現化する。よって、使う者によって繰り出される術は様々らしい。一方、サイチ国の神官は「(ぎょく)」と呼ばれるマナを封じた玉から、あらかじめ組み込まれた術のみを発動するのだそうだ。


それは違うというのか?とララに質問したら怒られた。魔女はマナが存在する限り術を行使できるが、神官は(ぎょく)に込められたマナを使い切ってしまえば術が出せなくなるそうだ。ただ手元にマナを凝縮した玉があることで、自然のマナを集めて術を発動する魔女よりも格段に早く、そして火力の強い攻撃も一瞬で発動できるらしい。


要するに奴らは長期戦には向かない。短期戦を仕掛けてくるってことだ。


「行くか」


クロスと二人で剣を構え神官と対峙する。神官の一人はすぐさま魔法を発動させた。


「なんだありゃ」


「彼の魔法なのでしょうね」


自身を火の玉で覆い隠し、そこから触手のように火の鞭が数本生えてきた。


攻防一体の魔法だが、


「ありゃ、神官というより化け物だな」


「同感です」


そう簡単には崩せなさそうだ。もう一人の神官はというと、意外なことに光る大剣を生じさせ、構えている。こちらは魔法と言うより剣士の出で立ちだ。


「サイチ国の神官は多様なようですね」


「そのようだな」


クロスも同じ事を思ったようだ。そして、クロスと視線を交わせると同時に飛び出し神官へ斬りかかった。




半刻ほど過ぎただろうか。俺は光剣士の相手を、クロスは化け物神官の相手をしているが倒せずにいる。クロスも互角の戦いをしているようで、致命傷こそないものの小さな傷が増えていっている。このままいけば、向こうのマナが切れる可能性もある。しかし、互角の相手となると小さなミスをしてしまえば一気に形勢が崩れてしまう。


「このままではマズいですね」


「で、作戦は?」


「いつもの丸投げですか。そうですね、捨て身で攻撃に転じるしかないでしょう。もちろん急所だけ避けてですが」


クロスがそう言うのならそれが最善の方法だ。捨て身だろうがなんだろうが、勝つための最適な選択なのだ。


「わかった。どっちからやる?」


「剣士からにしましょう。あの大剣の攻撃は死に直結しますから」


化け物神官の触手は致命傷だけ避けることはできるが、あの大剣では剣先だけでも身体を半分にされかねない。


「わかった。じゃあ、行くぞ」


俺が前にでて光剣士の攻撃を全面に受けながらクロスが決定打を狙う。その間も化け物神官の攻撃が迫ってくるが、足を貫かれようが腕を貫かれようが気にしない。心臓と首から上だけを守ることに集中する。


光剣士は巨大な斬撃で俺とクロスをまとめて斬りつけてきた。俺はその攻撃を押さえ込み、クロスが奴のふところへ飛び込む。


クロスは見事に心臓を剣で突きさした。


「次だ」


すぐに化け物神官への攻撃へうつろうとしたが、そう甘くはなかった。光剣士は回復薬をつかい、心臓に空いた穴を塞いだのだ。


「サイチ国が回復薬の産地であることを忘れていましたね」


「おいおい、全快したのか?」


「おそらくは」


こちらは捨て身の攻撃で心身共にすでにボロボロだ。化け物神官だけでの相手も難しいってのに。


「どうする?」


「確実に息の根をとめ、回復する隙を与えないようにするしかないでしょうね」


「すぐに触手ヤロウもやらないとあいつが回復しちまうぞ」


「分かっています。さっさと倒してしまいましょう。でないとこちらが死にます」


すでに相当な傷を負っている。クロスの言うとおり早くしないと出血多量で死んでしまう。


「じゃあ仕切り直していくか!」


先ほどと同じ戦法だが実は違う。身体を限界まで強化する極限状態(ブレイクリミット)を使う。やはりクロスも使ったようだ。これは長くはもたず、本来は戦場で使うような力ではない。早く終わらせなければ本当に死んでしまう。


先ほどの三倍をも超えるスピードで敵へ向かっていく。突然の変化に光剣士もついて来れていない。先にとびだした俺が光剣士の首をはねると、クロスはその後方にいた化け物神官に向かって飛翔し、剣を突き立てた。火の魔法はクロスの斬擊で吹き飛び、見事に神官の首を貫いていた。


俺とクロスのスピードに敵兵のほとんどはとらえることができていないようだったが、地面に転がった二つの首をみて、表情を変えて撤退していく。


俺たちは敵兵が森に逃げ込むのを確認し、その場に倒れ込んだ。


「おいおい、クロス。最初から極限状態(ブレイクリミット)使ってりゃこんなボロボロにならなくて済んだんじゃないのか?」


隣で仰向けになって倒れ込んでいるクロスに愚痴る。二人とももう身体は動かず、血溜まりが広がっていく。


「私の作戦に異を唱えなかったではありませんか。今更ですよ。それに私たちは今のところまだ生きてますし、敵将を倒したのですからそれで良いではないですか」


「まあ、それもそうか」


向こうはどうなったかと目を向けると、ケアリーが俺の顔を覗き込んできた。


「やっぱりお前ら弱いね」


「うん。モリーここまで弱いとは思ってなかった」


モリーもケアリーの背中からちょこんと顔を出した。


「なんでこんなのがロア先輩と一緒にいるわけ?」


「それモリーも思った。こいつらよりモリーとケアリーがいたほうがいいと思う」


お前たちはどうだったんだと問い詰めたいところだが、見るからに無傷だ。もちろんバルドゥルとエルヴィンの姿はなく、二人が率いていた騎士団の兵たちも退却を始めている。


「さすがだなお前らは」


「あ?なにその上から目線。お前ら修行が足らなすぎる。舐めてんの?」


「騎士ってみんな弱い。モリー騎士キライ」


「申し訳ありません。ケアリーにモリー。我々は騎士の修行を積んできた身。その道しか知らないのです。先日アデーレに溶岩湖での修行を教えていただき初めて、その厳しさを初めて知ったのです」


騎士が弱いんじゃない。魔女が強すぎるんだ。と言いかけて、クロスに目で止められた。せっかく落ち着かせたのに何を言うつもりだと言わんばかりの目だ。


まあ、もう口論する気力も残っていない。早く回復薬でも何でも飲ませてもらわないと死ぬぞ、とクロスに無言で訴えられる。


ロアはどうしてるか首を横に向けると防衛ラインと定めたところには不気味な(もや)が立ち込めていた。


「なんだあれは?」


「ロア様の闇魔法…すごい」


モリーがキラキラとした目でその靄を眺めている。


「やっぱすごいよね、ロア先輩って。全属性をあのレベルで扱えるとか師匠でも無理だよ」


「うんうん。モリー、ロア様に闇魔法教えてもらいたい」


「え!?ずるい!!それなら僕も風魔法を教えてもらう!」


二人は勝手に盛り上がりロアの方にすっ飛んでいってしまった。俺たちは置き去りにされる。


「おいクロス。全身穴だらけで血まみれの人を置いていくことについてどう思う?」


「そうですね。私もいまそのことに驚いています。しかし、ロアならこんなことはしないでしょうから、きっと魔女が全て常識はずれというわけでもないでしょう」


「常識というか、人としてだけどな。このままだと俺たちマジで死ぬかもしれないな」


「そうですね…それも仕方ないのかもしれません。私たちは罪人ですから、天罰が下ったと受け入れますよ」


それからしばらく経ち、クロスと言葉を交わす気力もなくなり、本当にこのまま死ぬかもしれないと意識を失いそうなった頃、ようやくロアたちがやってきた。


「あれ?コイツら死んでなかったの?」


「うわ、生きてる」


やっぱりこの二人は俺たちを見殺しにするつもりだったらしい。


「え?ロア先輩、こんな奴らの為にその力を使うんですか?」


「わあ、ロア様の光魔法…きれい」


ロアの周りがきらきらと瞬き始め、その光が俺とクロスを包んだ。


「傷が…」


クロスの声に俺も自分の身体を確認すると、身体中に空いた穴が塞がりかけていた。


「祈りってやつか?」


確かアデーレが自己治癒力を高めるとかなんとか言ってたはずだ。


「あぁ?だからさお前らバカなの?これが祈りの訳ないじゃん」


治癒(キュア)のマナなんて、光属性を使える人でもめったに集められないのに。バカだね」


俺はまたコイツらの機嫌を損ねてしまったらしい。クロスは呆れ顔で深いため息をついている。


「すまない」


さすがの俺も自然と謝ってしまった。いやこちらは悪くないのだが、こいつらに常識は通用しない。


傷が癒えた俺たちは戦場をあとにして、公都へと戻った。


「ララさん、神官の首を念のため持ち帰りましたが、いかがしますか?」


「神官の首か。いらないかな」


ララがそう言いながら手をひらりと振ると、クロスの手にあった神官の首が灰となって散った。


「ララ師匠!ララ師匠!こいつら雑魚だよ!騎士ってこんなに弱いの?」


「ララ様、こいつらロア様と一緒にいるのおかしい。モリーが一緒にいたほうがお役にたてる」


部屋に入るなりララのそばで騒ぎ始めた。


「二人とも落ち着きなさい。その二人が弱いのではなくあなたたち二人がとても強いのよ」


そうだそうだと言わんばかりに、クロスと二人で首を大きく縦に振る。


「でも、師匠とロア先輩はもっと強いでしょ?」


「そうね、ケアリー。私は貴方たちより長く生きているし、ロアは特別にマナに愛された子だからね。貴方たちも修行を続ければ間違いなく私のようになれるわ」


「えっ?本当!?ララ師匠みたいになれる?」


「ララ様みたいに…」


「ええ、なれるわ」


「僕、修行してくる!!!」


「モリーもいってくる」


「はいはい、いってらっしゃい。困ってる人がいたら助けてあげるのよ」


「「はーい」」


ケアリーとモリーは飛び出していってしまった。


「ごめんなさいね。あの子達、上手くやってたかしら?」


「上手くやってたかどうかは別として、敵将を倒してくれました。お力添えありがとうございました」


「ロアの前でなければもう少し上手く立ち振る舞えると思うのだけど、ロアがいるってなるとどうしても幼い魔女達は浮き足だってしまうのよね」


「ロアはそんなに特別なのですか?」


「ん〜そうね。マナの六属性は知ってるかしら?」


「えぇ、火水地風と光と闇の六属性ですね」


「そうね。まず六属性すべてのマナを扱える魔女はほとんどいないわ。使えたとしても得意な属性とそうでない属性がある。それをロアは6属性同じレベルで扱えるうえに、高レベルのマナも扱えるのよ」


「高レベルのマナとは?」


「あなたたちは溶岩湖にいったのよね?例えば溶岩を生み出すにはそれにあった火のマナを集める必要がある。そんなマナはどこにでもいるわけじゃないし、いたとしても急に扱うことはできないの。そういう少し特殊なマナっていうのかしら?それも簡単に集められるのがロアなのよ。だからまだ幼い魔女達はロアに憧れる」


「そういえば、ロアに会っただけで、はしゃいでたな」


「そうでしょうね。あとはもともとの生い立ちね。皆、苦労してきた子ばかりだから、どうしても性格に難ありって感じになっちゃうのよね」


そう言ってララが苦笑いした。


「さて、これから貴方達はどうするのかしら?南側の戦闘は終わったし、北側も時間の問題よ。少なくともこの公都はサキラスが占拠を続けるわ」


「サキラスは回復薬を狙っているのですか?」


「どうでしょうね。その辺りのことは正直私には分からないの。私の行動は私の考えによるものなのよ。今回は魔女という理由で虐殺をしたこの国の体制を壊したかった。それがサキラスの思惑と一致していた感じね」


なるほど、あくまでもララは自分の意思でこれを行ったということか。


「ララさん、この先サキラスはどう動くと思いますか?」


「とりあえず、ここは占拠しつづけるでしょうね。それは私がやりたいことと同じだし、安定するまでは私が責任をもって管理するわ。その上でだけど、サキラスは特に回復薬には関心はないと思う。あの地の事には出来るだけ関与しない形で解決を進めると思うわね」


「となると、サイチ国にあの地の権利を渡すか、探求者協会に権利を渡すかでしょうか?」


「そうね。シノマリア公国はサイチ国、サキラス王国、探求者協会に分断されるでしょうね。実質、滅亡ね」


「滅亡ですか。この国で生まれ育ち、騎士として尽くしてきた身としては寂しさを感じずにはいられません」


「祖国を失うのは悲しいことね。でもいまやらなければもっと多くの犠牲が出ていたもの。私に悔いは無いわ」


ララまたこの国で生まれ育ったのだ。そして、魔女となりこの国を陰から支えてきた。立場は違えど、俺たちと同じだ。


「クロス、公都はララに任せよう。シノマリアは滅亡した。俺たちの罪は消えるわけじゃないが、追っ手が来る可能性は低くなった。俺たちは俺たちの旅を続けようじゃないか」


「それもそうですが、追っ手が来ないのならもう始まりの楽園(ユートピア)を目指す理由もありませんよ?」


「あなたたち、始まりの楽園(ユートピア)なんて目指してたの?」


「そうだ、悪いか。魔女と反逆者を受け入れてくれる場所なんて、そのくらいしか心当たりがなかったもんでな」


「魔女と反逆者…確かにそうね。ふふふ、いいじゃないロア。もっと世界をた見てきたらいいわ。そうしたら本物の探求者(シーカー)になれるかもね」


「ララねえさま。ロアはいまニセモノ?」


「偽者ではないわ。だってちゃんと試験を受けて受かったのでしょう?でも本物でもない。まだまだあなたは魔女なのよ。シノマリアを守る魔女。ロア、探求者(シーカー)とは何かを探し求める者たちよ。あなたは何を探し求めているのかしら?」


ロアは得意のだんまりモードになってしまった。


「ロア、旅は始まったばかりです。ララさんのいうように、世界を周りながら追い求める何かを見つけるのも良いのではないですか?」


「そうだ。俺たちだってそんなものまだ見つけちゃいないからな。これからだ」


俺たちもまだまだシノマリアの騎士だ。公都に戻ったとき、昔の仲間に会えたとき、『帰ってきた』と思ったのだ。


「貴方たちが当面の間、始まりの楽園(ユートピア)を目指すというなら、遺跡を巡ったらどうかしら?二人はまだ弱いし、ロアは世間知らずだし、宛のない旅より良いと思うのだけど?」


遺跡とは古代の人間が残した産物のことだ。


「遺跡ですか。遺跡には神と交流をしていたとみられる跡が多数残っている。確かに始まりの楽園(ユートピア)を目指すなら遺跡で手がかりを探すのはありですね」


「分かったかしらロア。ここでの戦いはもう終わったし、それに貴方が心配するようなことはないわ。貴方は貴方のやりたいことを探しなさい」


「ロアのやりたいこと…」


「そうよ。貴方が譲れないと思えるような、貴方の人生に欠かせない何かを見つけるの。それは楽しいことだけじゃないわ、時には苦しかったり、悲しかったりすることもある。でもねロア、人が生きて行くにはそういう強い想いが必要なの。ただ、貴方は優しすぎるからそれだけは気をつけてほしいわね。自分を大切にするのよロア」


「わかった。ララねえさま、ロアいってくる」


「いってらっしゃいロア。貴方の旅が貴方にとって良きものになることを祈っているわ。クロス、アル、私は貴方たちがしたことを許すことはできない。だけど、憎しみで心を染めた人生なんて悲しいだけだもの。その子が貴方たちや騎士を救ったように、私は祖国の民をできる限り救いたいと思ってる。ロアを宜しくお願いするわ。どうかその子の幸せを一緒に探してあげて」


ララの言葉から、ロアを本物の家族のように愛していることが伝わってくる。本当は自分のそばに置いて、自分で面倒を見たいに違いない。仲間たちを殺した奴なんかに、本当は預けたくはないだろう。その気持ちを押し殺し、俺たちを信じようとしてくれている。


「この命に代えてもロアを守ってみせる」


「私も同じです」


「ふふ、よろしくね。ロア、寂しくなったらいつでも顔を出しなさい。ララねえさまがぎゅーってしてあげるわ」


ララの言葉にロアは小さくうなずくと、部屋を出ていった。




「旅がこんなに気持ちのいいものだとは知りませんでしたよ」


俺たちはまずは一番近いサンピラー遺跡を目指すことになった。また三人での旅だ。逃げ隠れしていたあの時の旅とは違う、ロアの幸せを見つける旅の始まりだ。


「あぁ、堂々と行こうじゃないか」

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