六日目(9):悪党と『偽物』、そのに
ところで俺がなぜ魔人たちと会話していたかというと、状況を魔人たちに報告して意思疎通を図るのが、あの隊商では俺の役割として定着してしまっているからである。
なので俺が話している間にクランたちが隊商の今後について話しているはずだったのだが、いざ隊商に赴いてみると妙にざわついていて、リッサがぽつんと困り顔でたたずんでいた。
「おい、なにがあった?」
「それがね、誰に聞いても要領を得ないんだよ。なんだか上の方の人たちがもめてるって話なんだけど」
「ふうん……?」
俺は首をかしげた。
実のところ若干の心当たりがないわけではないのだが、これは深入りしない方がよさそうだ。
「それよりリッサ、おまえも休んだ方がいいぞ。疲れてるだろ」
「それはライもじゃない?」
「ああ。その上、明日からはまた魔人たちと同行だ。せめて早めに休まないとな」
「え、同行? なんで?」
驚くリッサに、俺は事情を説明した。
「っていうわけで、まあそれしかないかなって」
「うわー、なんか心配……ボクも同行できないかな」
「おまえはやめとけ。今度はサフィートに怒られるレベルじゃ済まねえぞ」
「はーい。ちぇっ」
「ふふふ……予想通りの展開になったようだなライくん!」
「うわあ!」「きゃあ!?」
いきなり下から生えてきたセンエイに、俺たちは二人して悲鳴を上げた。
「な、なんだよセンエイ、藪から棒に。ていうかなにしてたの?」
「キスイくんにやっぱり例の服着ないかって迫ってた」
「おまえホント懲りないよね!」
「いやあ、だってサリいないし。チャンスかと思って」
「で、想定外に早く帰ってきたサリにたたきのめされた、と」
「……黙秘権を行使する!」
「またかよ」
ジト目で俺は言った。懲りない奴だ。
リッサは小首をかしげて、
「それより「そうなった」ってなんです?」
「いや、ある程度予測はできていたんでね。シンを取り逃した以上、次はこういう展開になるかなって」
「…………」
俺は少し考え、
「おまえ、さては昨日シンとガチバトルしてたな?」
「ぴんぽーん。正解」
「え、えええ!? なんでです!?」
慌てるリッサ。
まあ、予想できてはいたことである。
「大方、なにかシンが魔術的な弱点でも抱えていたんだろうよ。で、敵の妖術師とやらがそこにつけ込むことを見越して、早いうちにたたきのめしとこうって腹だったんだろ」
「そうそう。早いうちにぶっ殺しとこうとな」
「おまえ俺がマイルドな表現選んだのに台無しにしたな!」
「あっはっは、そういうのは隠すだけ無駄だよライくん。
まあ、しかし見事に失敗してな。もうちょっとだったんだが、あのスタージンとかいう奴に邪魔されちまった」
「はい!? スタージン神官ですか!?」
リッサが目を丸くした。
俺もさすがに驚いたが、しかし。
「そういや、昨日の騒乱ではぜんぜん見かけなかったが……そんなところに顔を出してたのか、あいつは」
「おうよ。さすが『石弓』の黒騎士様だぜ。シンと私が互いに消耗しきった頃を見計らって仲裁に現れやがった。こちらとしても、あいつまで敵に回したら勝ち目がない。撤退しかなかったよ」
「あいつの理屈としては、なんて言ってたんだ?」
「……ふふ」
センエイは怪しく笑った。
「それが笑っちゃうような話でな。『裏切ることがほぼ確実であっても、裏切る前に処断するのは正しくない』だとよ」
「うわ、クソ正論だ」
「だろう? 私もそう言ってやったんだよ。そしたらあいつはこう言ったんだ。『建前ですからな。この程度で十分でしょう』ってな! あっはっは!」
「…………」
俺が苦虫をかみつぶしたような表情をしていると、センエイは肩をすくめた。
「ま、そういうことだ。あいつはあいつでなんか企んでるな。それがなにかまではわからんが」
「実は裏切り者だったりする?」
「それはない」
思いのほかあっさりとセンエイが断言したので、俺は驚いた。
「それはないんだ、ライくん。あのスタージンという男がどういう思惑を持っていても、妖術師と組むことは絶対にない」
「なんでそう思うんだ?」
「シンが言ってただろう。彼は未だに、聖騎士としての資格を持っているって」
言われて俺は、そういえばそんなことも聞いたなとうなずいた。
「聖騎士ってなんなの?」
「神話に記されている『特別な聖職者』だ。リッサくんは知ってるだろう?」
「え、あ、はい。……スタージン神官が聖騎士だというのは、初耳ですけど」
「まあ、秘匿されることも多いからな。だが聖騎士資格というのはとにかく特別なんだ。なにしろ、神や大巨人とは別枠に、神話に直接『職業として』記載されているからな」
「どういう職業なんだ?」
「神話の敵を討つこと」
センエイは言った。
「そう、神話世界の敵対者を討つ。それが聖騎士の持つ唯一無二の特性だ。そして神話に記述されている以上、神話世界は聖騎士を『そういうもの』として扱う。
つまり、神話の敵は聖騎士の前に、聖騎士が十分に討てる規模まで『強制的に弱体化』するんだ。そして、妖術師殿の狙いはまだ判然としないが、それが神話の敵として扱われないような些事ではないだろう。ただでさえなにを企んでいるかわからん奴にそんな爆弾みたいな能力が備わっていてみろ。私が悪事を働く側なら、絶対に近寄らないね」
「じゃあ……」
「とはいえ、敵じゃなければ味方、とは限らないんだけどな。
現にあいつの介入のせいでシンは悠々と逃亡、おそらくいまは敵側だろうさ。そして敵の狙いがなんだかはわからんが、私の予想ではライくんの剣あたりが狙いと見ていた。そうすると隊商が襲われるだろうし、隊商が襲われるならサリが出て行くだろうし、サリが出て行くなら妖術師はそれを見越して数を揃えてサリの能力を様子見しようとするだろうし、そうすれば少しは手間取って時間がかかるかなって」
「で、その隙にこっそりキスイにちょっかいをかけて自滅したのか」
「自滅してねえよ! もうちょっとでうまくいったんだよ!」
地団駄踏むセンエイ。
さてはこいつ、いままでこの考えを伏せてたのは、サリがいなくなる時間を作るためだったんだな……




