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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
六日目~七日目:悪党と燎原の魔王
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六日目(8):悪党は狙われている

 数刻後、岩巨人の集落にて。


「ってわけで、後はサリを見てるだけだったよ」


 俺は魔人たちにことのあらましを説明していた。

 現在ここにいるのはコゴネル、ハルカ、そしてテン。それ以外は全員、哨戒やら器具の手入れやらで忙しいらしく、顔を見せなかった。サリに至っては、集落に着くなり「じゃあ、寝直してくる」と言って去って行った。

 つまり、サリは寝不足で寝起きの最悪コンディションであそこまでの大暴れをしたというわけだ。

 無敵なんじゃないのかあいつ。


「ふむ。なるほど、災難でしたなあ」


 言ったのはテンである。


「正直、隊商が襲われる可能性は低いと思っていたのですが。意表を突かれましたな」

「まあ、サリが気づけたのは不幸中の幸いだが……魔狼かよ、よりによって。うげー……」


 と、げんなりした顔でコゴネル。

 魔狼、という言葉はサリも言っていたので、俺も気になってはいた。


「魔狼ってなんなんだ? あいつら、神話の力にも物理攻撃にもやたら強かったけど、その割に神話の流れで捉えにくくて。魔物みたいなんだけど魔物じゃないっていうか……」

「ああ、それはな……」

()()()()()()()()()()


 言ったのはハルカだった。


「ライナー少年、この言葉に心当たりは?」

「ええっと……たしか、キスイから聞いた気がする。運命の力をねじ曲げて、幸運を物理的に作用させて身を守る神の技、だろ」

「だいたいその理解でよろしいかと。古名は『ヨルムンガンド外応核(アジャスタ)』と言いますが、何度か名を変えていまに至ります。古き神話の時代において蛇の神が記したとされる書にある、神格決闘技法の一つです」

「そのいぇるむん……なんだ、それがなにか関係が?」

「ですから」


 ハルカは言った。


「その狼はみな、イェルムンガルド外殻で身を守っていたんですよ。物理攻撃も神話の攻撃も、効きにくくて当然です」

「……はい?」


 俺はあぜんとした。

 いや、確かに「敵全員が神力を持っている」という可能性は、ちらっと考えたけど。さすがにないだろうと思っていたのだ。


「じゃああいつらは全員神だったってことか?」

「いえ、そうではありません。

 ですが、考え方は近いですね。少数しか信者を取らず、加護を数少ない相手に集中することによって大きな力を与えていた神はいくらかいたとされています。あの魔狼と言われる存在はそれと同じです」

「つまり、その背後に神か大巨人がいる?」

「それならよかったんだけどな」


 ハルカの横で、コゴネルがため息をついた。


「実際のところ、魔狼って言われる存在は昔から知られてるんだ。そしてその出所もな。……ライ、『魔王』って単語は知ってるか?」

「単語だけならな。すごい魔物ってくらいの認識しかないけど」

「なら覚えておけ。魔王ってのはな、魔物版の神みたいなもんだ」

「魔物版の神……?」

「そう。つまりは、アレだ。()()()()()()()()のことだと思えば、だいたい間違いはない。

 実際には神格じゃなくて『邪格』って言うんだが。邪格が高い魔王は、しばしば自分の配下の魔物にその邪格を分け与えることがある。それが『魔狼』だ。べつに形は狼とは限らないんだがな」

「今回は狼ですね。となると魔狼の技術の大本、魔王ティンダロスが出てきたか。あるいは欺瞞情報で、実際には他の魔王が擬態しているのか……どちらにせよ、これは大きな問題です」

「だよな。なにしろ、相手がすでに『魔王』を一柱、召喚に成功しているということだからな。それが完全形態かそうでないかは、議論の余地があるが……」

「ほっほ。どちらにせよ、少し対策せねばなりませんな」


 と、これはテン。


「とはいえ、さほどの問題はないでしょう。今回のような個体であればまったく問題にならないことを、サリが証明してくれましたからな」

「逆に、敵にも明らかになっただろう。『虐殺者』サリ・ペスティの前に、あの程度の小細工は相手にならないと。

 まあ、それ以前にイェルムンガルド外殻が相手だったら、俺たちには相手にならん。あれは神話世界の内部の存在に対する防御法だ。魔術とはとことん相性が悪い」

「そうなのか?」


 俺の言葉に、コゴネルはうなずいた。


「そもそも、神殿が魔術を禁忌としているのはその特性があるからだ。ほとんどの魔術は()()()()()()()()()。あまりにも高い神格なら話は別だが、魔狼程度なら俺たちでもまず負けねえよ。ライと神官さんが相性悪かったのは、神話の力で戦ったからだ」

「そういえば、そうだったな」


 昨日、キスイをかばったときのことを思い出す。

 俺も、そしてキスイも神話の力に守られていたのに、敵の熱線はいともたやすくその防御を貫通し、あやうく直撃するところだった。

 俺自身は、その情報を飲み会の席でハルカから小耳に挟んでいたので、かろうじて対処できたが……知識がなかったら、ヤバかった気がする。


「とはいえ、それは逆の側面もあるのではないですかな?」


 と、テンが言った。


「逆の側面とは?」

「つまり、今回の案件の裏に妖術師がいるのは確実でしょう。その場合、敵の狙いはなんだったのでしょうな?」

「ええと……どうなんだろう。隊商に狙うべきものがある……?」

「まあ、そう考えてもいいでしょうが、わたくしの考えは違いますな」

「というと?」


 コゴネルの言葉に、テンは笑った。


「わかりませぬか? おそらく敵の狙いはライ少年です。隊商ではなく、少年を直接狙いに来たのでしょう」

「……いや、なんで?」

「隊商の方にはなんの神秘もありませんからな。狙われるならば少年の方かと。

 とはいえ具体的なことはわたくしにもわかりかねます。ハルカ、なにかお考えはありますか?」

「――ふむ。

 剣かもしれませんね」

「剣って、バルメイスの神剣か?」

「ええ」


 ハルカはうなずいた。


「あれも立派な神話遺物です。しかもそれはライナー少年によって活性化している。奪えば、妖術師ほどの魔人ならば、必ずなんらかの悪事に流用できましょう」

「それはまあ、そうかもしれないけど……」

「そしてもうひとつの問題を忘れてはいけませんよ、コゴネル。ライナー少年が狙われているということになれば、我々はどうします?」

「え、それは……」

「敵の狙いが神話の呪物だとすれば、どういう事情にせよそれを相手に渡すわけにはいかない。

 すると、我々にはライナー少年を守る義務が生まれる。そうでしょう?」


 ハルカの言葉に、コゴネルは天を仰いだ。


「そういうことか。ライを守るという負担を俺たちに強いて、こちらの戦力を削る気なんだな?」

「はい。こちらに二正面作戦を強いることができるわけです」


 俺も、そう言われてようやく話が見えてきた。


「つまり、俺を守らなきゃいけないから、攻撃に出る人数が制限されるってことか?」

「そうだ。そして相手は攻撃するかどうかを選び放題だから、一方的にこっちの戦力だけが削られる。

 とりあえずライにはしばらくこの集落にいてもらうしかないな。隊商もだ。相手に攻撃権がある以上、守りやすい場所にいてもらわないと困る」


 コゴネルは頭をかきながら言った。

 テンは少し思案し、


「……そもそも、ライ少年の位置を特定できた理由はなんでしょうな?」

「神格じゃないのか?」

「神格だけでそんなに簡単に探知できるというわけでもないでしょう。それこそ、相手にバルメイス神以上の神格存在がいれば、話は別になりますが」

「うーん……確かにそうだが……」

「もしその原因がわかれば、ライ少年をうまく隠すこともできそうなものですがね。今回後手に回っている理由はこの情報格差にあると言えます」


 テンの言葉に、コゴネルは考え込んだ。


「わからんな。なにか敵側に、切り札になるような神託装置でもあるのか?」

「あり得ないとは言えませんが、現状ではなんとも。とにかく情報が足りませんから、どんな可能性でもあり得るように見えてしまいます。

 推理を巡らせる範囲には限度がある。そうすると自然、取れる行動も限られてきます」

「……そうだな。ハルカの言う通りだ。

 結局、どうやっているにせよ、相手がライの動向が探知できる以上はそれに対処せざるを得ない。情報を集める時間的余裕はないだろう。相手はもう魔王を召喚するところまで行ってるわけだし、ことは一刻を――」

「あー、ちょい待って、コゴネル」


 俺は話に割り込んだ。


「どうした、ライ。なにか気づいたことでも?」

「いや、なんか見落としてる気がしたから。もう一つ、いい解決策があるだろ?」

「というと?」

「つまりさ」


 俺は言った。


「俺を守らないといけないし、妖術師のアジトも叩かなきゃいけない。なら、俺が妖術師のアジトに同行すればいっぺんに問題は解決するんじゃねえの?」

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