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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
六日目~七日目:悪党と燎原の魔王
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六日目(7):悪党と黒い狼、そのに

 と、後ろから御者の声。


「反転終わったそうです! 早くお二人とも、馬車へ退避を!」

「悪い、まだ狼が多いから無理だ! 足止めしとくから先行っておいてくれ!」

「で、ですが……!」

「いいから! そして早く集落から魔人たち連れてきてくれ! それでなんとかなる!」

「わ、わかりましたっ」

「おいリッサ、乗ってけ! 足止めは俺一人でやる!」


 俺は言ったが、リッサは首を振った。


「行かない」

「行けって!」

「行かないっての! ていうか、こういうときに神官が子供見捨てて逃げるわけにはいかないでしょ!」

「ガキって言うな馬鹿!」

「そこ重要!?」

「お二人とも、乗るなら早く! もう出ます!」

「早く乗れ!」「さっさと行って!」


 意見が分かれた俺たちの意見に御者は少し迷って、それから馬車を動かして去って行った。

 後に残ったのは俺とリッサだけ。


「おい、なんで逃げねえんだよ」

「言った通りよ。ボクがキミを見捨てて一人で逃げる薄情者だとか思わないでよね」

「いや、俺一人だけだったら適当にごまかして逃げられたんだよ。端的に言っておまえ、邪魔」

「なにさー。どうせ無鉄砲なこと考えてるくせに。もしかして森に入ったら安全とか考えてない?」

「ぎくっ」

「言っとくけど森こそ危険の塊よ。敵対生物がこいつらだけだと思わないでよね」


 俺は言葉に詰まって、


「いや、でもほら。木に登っちゃえばなんとかなるかなって」

「体当たりで崩されたら死ぬよ? それにライの遠距離攻撃、あの必殺技だけでしょ。不安定な体勢からだと落っこちて死ぬんじゃない?」

「だああ、わかったよ! ってあぶな!」


 ひゅん、とのけぞった目の前を狼の牙がかすめる。俺はたたらを踏みつつも身を翻し、後ろから迫っていたもう一匹をたたき切った。


「くそ、あと何匹だ!?」

「目視できる範囲で二十匹はいるよ!」

「きりがねえな! よしリッサ、おまえが木に登れ!」

「へ? いやだから、それだと……」

「俺が地上でその木を守りつつ狼を引き寄せるから、上から射撃で片付けろ。たぶんそれが一番早い!」

「あ、なるほど!」


 俺の言葉にリッサはうなずき、すぐ近くの木にとりついてするする上がっていった。

 ……いや、自分で言っておいてなんだが、こいつ木登りクッソうまいな。


「オーケーだよ、ライ!」

「よし、来いや狼ども! この大悪党ライナー・クラックフィールド様が相手だ!」


 叫んで俺は剣を大きく振りかぶり、必殺の剣閃をぶっ放した。

 数匹の狼が、こちらに飛びかかろうとした姿勢のままなぎ払われる。


(よし、さすがにこの技は効くか!)

迅雷(ライトニング・ボルト)!」


 ばちばちばち! と雷撃をまとった矢が、回り込もうとしていた狼の頭部に命中。さすがに当たり所が悪かったのだろう、狼はそのまま倒れて動かなくなった。


「よし、この調子だ!」

「行けそうだね、ライ!」


 二人して楽観した声を上げた直後。

 狼が一斉に、遠吠えを上げた。


「……なんだ!?」

「ライ、あそこ!」


 リッサが指した方角を見て、俺はあぜんとした。

 そこにいたのは、これまでの黒い狼とは比較にならない、山のような巨体の黒狼。

 そして、その狼が引き連れる大量の狼たちだった。


「や、やっべ……リッサ、どうする? 逃げられそうか?」

「いや、さすがに無理でしょ、あれは。普通の狼でもすばしっこいのに、あんなのが出たら」

「くそ、なんか手はあるか? リッサ、おまえたしかなんかすごい伝説の技の伝承者だろ。切り札とかないの?」

「残念だけどボクの切り札は戦闘にはまったく使えないの。ライこそ、バルメイス神の神威(カムイ)が使えるんでしょ。他になにか技、ないの?」

「うぐぐぐ、ありそうだけどさ!」


 なにしろ、さっきスタージンに止められたばかりなのだ。これ以上バルメイスの力に深入りすべきでないと。

 あの忠告がなければ試す気にもなったが、やってみた結果バルメイス覚醒で俺の意識消失、さらには周囲の人間皆殺しなんて展開があり得るとあっては迂闊に使えない。

 だが、それ以外の打開策はもう尽きているか……?


「はいそこで出てきたのがわたし」

「うおわっ!」


 にゅっ、と、それこそいきなり生えてくるように目の前に現れたサリに、俺は悲鳴を上げて後ずさりした。


「さ、サリ? なんだ、助けに来てくれたのか?」

「うん。まあ、たぶん」

「たぶん……?」

「正直、わたしをおびき出すためにライが襲われてるって感じもしてるので、どっちかというとライは被害者かも」

「そのへんはどうでもいいよ。とにかく助かった、手伝ってくれ!」

「いいけど……正直、ライがやることはもうない」


 サリは無表情に、どこか不機嫌そうにそう言って、街道の中央部にゆっくりと歩き出した。


機構(システム)千手観音(サウザンドアームズ)準備(レディ)


 小さくつぶやく。

 相手の狼たちは、まだ動かない。いや……

 そこで俺は、ようやく気づいた。

 俺たちの近くにいた狼たち。それらがすべてすでに地に伏し、息絶えていることに。


「え、これ……」

「わたしはよくわからないけど」


 サリは冷たく言った。


「あの大きな魔狼はおそらく生産個体。一呼吸ごとに一体から二体程度の速度で小さな狼を量産できる。いま止まっているのはたぶん、数が揃うのを待ってから攻撃したいからってところでしょう」


 サリは淡々と、解説を続ける。

 なにを言っているのかは、よくわからないが。


(これ、俺たちに対してじゃない。たぶん、あの()()()()()()()に対して……)

「そしてエネルギーも有限と見た。たぶん一定程度……千体よりは下かしらね。そのくらいまでしかその個体では狼を生産できない。

 ならばそれは、わたしにとっては敵ではない」


 サリはつまらなそうに言って、短剣を構えた。

 その周辺にものすごくたくさんの短刀が浮かび、それぞれ意思を持っているかのように独立して動いている。


「だから、よく目に焼き付けるといい。

 あまり好きな二つ名ではないけれど。『虐殺者』とこのサリ・ペスティが言われている所以――実体験していきなさい」


 そして、サリは少しだけ身をかがめて。


陣形(フォーム)剣乃舞(ソードダンス)実行(ゴー)



 後は語るまでもなく。

 いっそすがすがしいほどの、見事な瞬殺だった。

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