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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
六日目~七日目:悪党と燎原の魔王
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六日目(3):悪党、伝説を知る

 とはいえ、隊商側は魔人たちの動向を気にしているので、情報収集も俺の仕事のうちだ。

 本来ならクランが出てくるべき案件だと思うのだが……


「そのへんは、警備担当のライ殿に任せましたよ」


 と笑顔で言われてしまった。


(なにげに俺、信用されてるのか?)


 こんな新参のガキ信頼して大丈夫かいなと、他人事ながら思わないでもない。まあ、悪党に忠告の義務はないんだけどさ。


「さて、それじゃ話を聞こうか。妖術師の情報は得られたのか?」

「断片的だが。どうやらカシル殿、あの妖術師のアジトの一つで奴と面会したことがあるらしい。そしてそのアジトは、無地の燎原(ロスト・ヴァルハラ)にある」


 センエイの言葉にコゴネルが答えると、ざわめきがあたりに広がった。


「マジかよ……あそこを根城に使う奴がいるって噂は聞いてたけど、本当だったのか」

「維持できるもんなのか? あそこ、存在強度の底が抜けた穴だろ。どうやったら安定した住居が作れるんだ?」

「それこそ奥義の類でしょう。シンがいれば、あるいは解析できたかもしれませんが……」

「期待はできねえって話だったな。くそ、こうなるとシンがいないのはでけぇぞ」


 口々に言い合う魔人たち。どうやら、言葉だけでいろいろわかってしまっているようだ。

 この場で、その無地の燎原(ロスト・ヴァルハラ)なる土地の説明くらいはしてもらえるかと思ったんだが……でもいまさら聞くのも気まずいし、どうしようかなと思っていると、


「あー、これこれ、おまえら」


 言ったのはセンエイだった。


「私たちには常識でも、キスイくんは無地の燎原(ロスト・ヴァルハラ)なんて知らんだろう。説明しないとあかんよ」

「あ、ああ、そうか。悪い」

「いえ、こっちこそすいません……えと。地名、なんですよね?」


 キスイは言った。


「ヴァルハラ、というのは聞いたことがあります。たしか、神話の時代の戦争で、神の側の拠点のひとつだったはずですが……」

「ああ。神話の時代の、雄大にして壮麗な城塞都市。幾多の神々が交流したであろう絢爛たる聖地。それが、戦によって永遠に失われてしまったのさ。残ったのは壊された世界の跡だけ――それが、無地の燎原(ロスト・ヴァルハラ)。古戦場さ」


 朗々と、謳うようにセンエイが言った。

 その横でハルカがため息をついて、


「無駄に格好をつけているせいでわかりにくい説明になっていると評価します」

「なんだテメエ、一人前に私の教師気分か? あ?」

「教師であれば楽ですね。落第と一言言えば済みますので」

「あーあー喧嘩はそこまで。な?」


 コゴネルは言って、こほん、と咳払いした。


「まあ、とはいえそういうことだ。伝承によれば『逆神格(サタン)』の異名で称される強大な神と、『彷徨える魔王(ワンダリング・デビル)』と呼ばれる異形の魔物が激突したらしい。結果として、世界は張り裂け、あり得ないものが飛び出して、異常な地形が生まれた。常人はおろか魔人であっても、飲まれれば無事で帰れるかどうか怪しい土地――それが、無地の燎原(ロスト・ヴァルハラ)と呼ばれる魔境だ」

「どこにあるんですか?」


 キスイの言葉に答えたのは、テンだった。


「ここから北東ですな。街道を逸れ、森を突っ切って、常人の足なら五日程度といったところですか」

「意外と近いですね……それなのに、わたしたちが知らないなんて……」

「まあ、危険地帯ですからな。神殿が作った、人払いの結界の内側です。地図も作られていないですし……とはいえ、ジロロ殿には心当たりがあるのでは?」

「え? って、うわ、起きた!?」


 声をかけられて、さっきまでぴくりとも動かなかったジロロはあっさり起き上がった。

 そして平然とした顔で、


「ええ、まあ。なぜそれを?」

「先の戦いで、この近辺にある古代のワープポータルの位置を教えていただいたでしょう?」

「ああ、なるほど。ええ、たしかにポータルの移動方向には偏りがあります。北東方向に行くものは異常に少なく、その理由は集落でも祭り役の、年長者にしか伝わっていません」

「この集落では、どのように伝えられているのです?」

「具体的にはあまり。古き災厄のあった場所であり、岩巨人が立ち入るべき地ではない、とだけです」

「なるほど。まあそれがよいでしょう。禁忌に触れるのが仕事の魔人ならいざ知らず、一介の神職が関わるような場所ではありませんのでな」

「そんな厄介な場所、どうやって攻略するんだ?」

「まあ、いろいろ手はあるさ。とはいえ……」


 コゴネルは言って、肩をすくめた。


「ライにはもう、関係のない話だ」

「……ってことは、ここでお別れか」

「ああ。ここからヴァントフォルンへ向かう街道と、無地の燎原(ロスト・ヴァルハラ)へ向かうルートはだいぶ離れてるんでね。隊商とはここでお別れだ。俺たちはこの集落で一日ほど準備をして、それから燎原へ向かう」


 コゴネルの言葉に、俺はうなずいた。

 なんとなく、そうなるような気はしていたのだ。そもそも、彼らの戦いとは無関係な隊商を、これ以上関わらせることはしないだろうと、思っていたのである。


「なーに、どうせ弧竜の取り分は後で受け取りにいくんだ! 先にヴァントフォルンに行って待ってる、程度のつもりでいてくれりゃいいからよ!」

「がはは、いいこと言うじゃねえかペイ! そうだな、どうせまた会うことになるだろうよ!」

「そうそう! ライ兄ちゃん、売り上げ確保して待っててねっ」

「まるまる~♪」


 魔人たちはみんな、笑顔でそう言った。

 俺がなんと返していいかわからず、微妙な顔でいると、サリが立ち上がった。


「サリ、どこへ?」

「休憩して、それから魔道具の補修を始める。武具の調整が必要な魔人は正午までに私の部屋に持ってくること」

「あ、そういえば精霊ロープの補充しないと。バグルル、おまえの剣もだろ?」

「だな! 毎度ながら頼むぜ、サリ!」

「ほっほ、わたくしらも少しお願いがあります。ペイ、行きますよ。道具の整理です」

「あ、ああ。そんじゃな、ライ! また後日な!」


 慌ただしく彼らは去っていき、そして俺と……なぜか、センエイだけが残った。


「……なんだよ?」

「ライくん……この服が似合う美少女に心当たり、ない?」

「あっても紹介しねえよ。あっちいけ」

「ちぇっ。けち」


 センエイは毒づいて、そして去って行った。

 はあ……と、ため息をつく。


「大丈夫なのかねえ、やれやれ」

「なにがです?」

「うわっ!?」


 声をかけられて驚いて見てみると、そこにはジロロがいた。

 よく見ると地面におでこを強打した跡が真っ赤になってて、そこそこ面白い顔になっているのだが、それは見なかったことにしておく。


「そ、そっか。そりゃあんたたちは魔人じゃないし、わざわざ移動する理由もないか」

「そうです。それで、なにがです?」

「なにがって……なんの話だ?」

「なにか心配事があるようなことを言ってたじゃないですか、いま」

「ああ、それはな」


 俺は、確信がなかったので言わなかった、とあることを言った。


「なんかセンエイの奴、おかしかった気がして」

「あの魔女がおかしいのはいつものことでは?」

「それはそうなんだけど、そうじゃなくてな」


 なんと説明したものか、と思っていると。


「なにか隠し事してる感じでしたよね。センエイさん」

「……キスイも、そう思った?」


 俺の言葉に、キスイはうなずいた。


「はい。あんな服を使っておどけていたのも、それから最後まで残ってライさまと話していたのも……なにか、話したいことがあったんじゃないかなって」

「そんな感じだったよな」


 俺はうなずいた。

 それ以上は語らなかったが……俺には、少しだけ心当たりがあった。


(察するに、()()()()だろうな)


 そう。今回の集まりには、シンが顔を出していなかった。

 死んだ、という感じでもなかったように思えたが、「なにか」あったのだろう。

 それがなんであるかは、まったくわからなかったが……


「大丈夫かねえ、あいつら。主戦力が一人欠けたまま、待ち受けているであろう敵の拠点に飛び込むって……」


 俺は、なにかをごまかすように、そうつぶやいた。

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