六日目(2):悪党と『偽物』、そのいち
「よく来たなライくん! さっそくだがこの服を着たまえ!」
びしっ! と服を突きつけてきたセンエイを無視して俺は横を通り過ぎ……足をひっかけようとしたセンエイの足を、逆にひっかけた。
「ふぎゃ!」
変な声を上げてセンエイはすっ転んだ、と思ったらぐるんぐるん回転して普通に足から着地。
「なにしやがるこのちび!」
「いや、言っちゃなんだがおまえ本調子じゃないだろ。いいから寝とけよ」
「なーにを生意気言ってやがる! このセンエイさんはいつでも元気爆発の爆発オチ担当よ!」
「オチで自爆すんな。いや、それ以前に本来なら俺の足払いごときを食らって倒れるおまえじゃねーだろ。マジでちょっと休んだ方がよくない?」
「倒れてねーよ完璧な受け身取っただろ見てなかったのかテメエ!」
「あの気持ち悪い動きを受け身って言うのか、おまえは」
言いながら、俺はあたりを見回した。
ここは最初にキスイと出会った、岩巨人の集落の中で最も明るい広間である。明るい理由は単純に大きな窓があるからで、崖の中をくり抜いたような形で作られたこの集落の中でも一番表層に近い場所だと言える。
なんでそんな場所にいるかと言えば、そこに魔人たちが集っているからだった。
この場所は集落で最も大きな窓がある場所。言い換えると、外の軍隊を最も効率的に監視できる場所である。魔人たちは現在、交代制であの軍隊を見張っているのだが、そうすると全員で相談する際には自然とここに集まらざるを得ない、というわけだ。
「で、なんでキスイがここにいるんだ?」
「えっと、情報交換をするっていう話だったので。この集落代表ということで、ジロロと一緒に来たんですけど……」
「で、そのジロロはなんでそこの壁に頭ぶつけてひっくり返ってるの?」
「わたしに服を無理やり着せようとしたセンエイさんを殴ろうとして返り討ちにあったんです」
「…………」
俺が無言でセンエイを見ると、
「ふふん、どうだねライくん。この服、キスイくんにめちゃくちゃ似合うと思わん? な?」
「さっき俺に着ろって言ってきた服だよな、それ」
「おうよ。キスイくんには残念ながら断られてしまったのでな。仕方なくライくんで遊ぶために流用しようかと」
「遊びにしかならないって自覚はあるんだな」
俺はジト目で言った。
……いや。だってさっきからこいつが持ってるの、フリルふりふりのオンナノコーな感じの、しかも布面積小さめのきわどい奴だよ。俺に着せてどうする。
「いやいや意外といけるってライくんなら! 骨格はアレだがタッパ小さいし肌もそこそこだし顔をちょっと化粧すれば!」
「やなこった。ていうかおまえ、断られたっていうのは実際のところサリにたたきのめされたんだろ?」
「……黙秘権を行使する!」
「だろうと思ったよ」
キスイは「無理やり着せようとした」と言っていたので、着ないで済んだということはまあ、そういうことだったんだろう。
「くそう! せめてサリが着てくれればこんなことには!」
「ていうかなんだよその服。おまえの雰囲気と合わなさすぎてドン引きしかないんだけど」
「お、聞いちゃう聞いちゃう? ライくんそんなに聞きたいのかい?」
「妹の形見と母の形見と恋人の形見、どれだよ?」
「ちょ、なにを私の大切なエロエロコスメイド衣装に陳腐な設定付けようとしてんだテメエ! そんなチープな話じゃねえよ!」
「サリ、どれだかわかるか?」
「無視すんな!」
わめくセンエイは無視して、俺は横のサリに聞いた。
サリはこくん、と小首をかしげて、
「妹の形見とも母の形見とも恋人の形見とも言われたことがある」
「やっぱりか。んで、実際にはあれ、なんなの?」
「私に着せようとして買ってきたみたい。新品のはず」
「な、なぜそれをサリが知ってる!?」
ガチで動揺するセンエイ。
俺はため息をついて、
「高い金払って手に入れたのにサリに相手にされず、流用しようとして空振りを繰り返した挙げ句、最後は使い道を無くして俺に着せようとするのか……落ちぶれ方がエグいな」
「うるせえ! 私に同情するな!」
「してねえよ。頭おかしいと思ってるだけだよ」
「なお悪いわ!」
暴れるセンエイ。とても迷惑である。
まあ、それは置いておいて。俺はあたりを改めて見回した。
シンが帰ってきていないという話は聞いていたが、他の魔人はみんないるようだ。ハルカは昨日までは寝込んでいたらしいが、今日は少なくとも外見上は無事なように見える。
「神官連中はいないんだな」
「あっちはこれ以上巻き込むわけにはいかんだろ」
「まあ、な」
コゴネルの言葉に俺はうなずいた。
今回の戦いに関係したグループのうち、集落はもちろん当事者、魔人たちは黒幕と敵対していて、いずれも今後も気を抜けない。一方でリッサたちと隊商は巻き込まれた側であり、本質的には無関係だ。
もちろん、俺も隊商所属なので無関係側。




