四日目(4):悪党、探索する
「しかし……本当にこっちで合っているのか?」
カシルの言葉に、俺は肩をすくめて答えた。
「だから確証はねえよ。この神託の能力、昨日キスイから教えてもらったばっかりだってさっきも説明したろ」
「間違ってたら殺すからな」
「相変わらず、すぐに殺すとか言う奴だなあ。そんなに血に飢えてるのかよ」
「こちとら家が没落して、七つの時から傭兵稼業なんだよ。人の殺し方以外はろくに知らん」
「その割には、同族はなるべく殺さないようにとかいう配慮だけはするんだよな」
「当たり前だろう。戦争で死ぬのは戦士だけで十分だ」
仏頂面で言う、カシル。
さっきいろいろあったときに、俺はカシルからこいつの目的とかその他を聞き出していた。
「しかし『生贄』を北の帝国に戻す、ねえ……」
「なにか疑問でも?」
「いや。そんな目的で、帝国から遠く離れた場所まで軍隊連れてきて戦争するようなものかね。それも同族同士でだ」
「だから戦争を止めるために、誘拐の線を考えていたんだがな。おまえに止められてぜんぶおじゃんになったが」
「そりゃそうだろ。キスイが嫌がってた」
「残念ながら、たとえ『生贄』であっても、もはや好悪で決めてよい話ではないのだ」
カシルは遠い目で言った。
「かつて、岩巨人の帝国には皇帝がいた。皇帝は貴族たちの中から『生贄』が選び、選ばれた皇帝は岩巨人に繁栄を約束する義務を負っていた。
だが内戦によって『生贄』が失われた。その結果どうなったかと言えば、皇帝は貴族たちが互選で選ぶようになった。岩巨人を幸せにするか否かではなく、ただの政治的なパワーバランスで選ばれた皇帝が仕切るようになった。そして帝国の名門貴族は政治ゲームに興じ、皇帝の権威もどんどん失墜して、帝国は内部統制を失いつつある」
「そう言われると深刻なように聞こえるけど、人間の国にだって『生贄』はいないんだぞ。岩巨人族が『生贄』に頼りすぎなんじゃねえの?」
「わかってるよ。だが、もう『生贄』なしでの自浄作用が期待できる状態じゃないんだ。
私と雇い主の意見が一致しているのはこの部分だ。だから気に入らない雇い主ではあるが、私は全力を尽くしてサポートすると決めた。そういうことだ」
「まあ、俺もしょせんは部外者だし、おまえたちの動機についてどうこう言える立場じゃないがね。それでも、最初は使者を立ててお伺いするべきだったんじゃねえの」
「……かもしれんな」
カシルはため息をついた。
「最初から攻撃的な選択肢しか取れなかった。いや、言い訳を言うようだが、おそらくはそのように思考を誘導されたな」
「誘導? 誰にだ?」
「このあたりの地底の地図なんて、北の帝国にあるわけないだろ。だから地図の提供者がいたんだよ。妖術師とか呼ばれている気持ちの悪いクソジジイだ」
「あー……なんか聞いたことあるなあ」
おそらくはサリたち魔人一行が追っているという相手だろう。
カシルは、ぎろりと俺の手を一瞥した。
「しかし本当にすごいな、それは。手はもうなんともないのか?」
「そりゃあそうだよ。あのときのままならまともに歩けないって」
「くそ、殺さないまでも、せめて優位に探索できる状態は作りたかったんだがな。地刷狼の毒からこんなに早く回復するとか、おまえの身体はどうなってるんだ」
そう。あのときはヤバかった。
麻痺毒というのは尋常ではなく、マジで身体がまともに動かなくなった。だがなりふり構わぬ必死の命乞いで時間を稼いでいる間に毒は消え、なんとか元通り。
あっさり動き出した俺を見て唖然としていたカシルの顔は、いま思い出しても面白かった。
「おい、不穏なことを考えていないだろうな。斬るぞ?」
「だからなんでそんなに物騒なんだよ。一緒にどこかに飛ばされたであろうキスイを見つけるまでは共闘するって、さっき決めただろ?」
「……まあな」
これが、いま俺とカシルが共闘している理由である。
俺とカシルだけではなく、キスイもまた、ハルカの転移魔術で飛ばされていた。
それを目撃していたカシルは、一刻も早くキスイを見つけ、そして味方陣営に確保しようと考えていたのである。
もちろん、カシルの勝ちの目は薄い。
まず、神話の流れが見える俺がいる以上、俺を放置していたら先を越される。
しかし俺は意外にしぶとくて殺せなかった。そうすると次善の策として、共闘を持ちかけるということになる。いまやっているのがそれだ。
だがそうしてキスイを見つけたとして、その後が問題となる。
キスイと俺は一致して、集落に帰ろうとする。そうなるとカシルの勝ち筋は『集落に帰ろうとする俺たち一行が、偶然カシルの仲間と出くわして捕らえられる』という展開しかないのだが……
(あるいは、妖術師が邪魔をしてきて俺が殺される、か)
実に分の悪い賭けだが、カシルには選択肢がない。
……こうやって状況を整理してみると、ハルカの奴、意図的に俺を巻き込んだんじゃないかという気がしてくる。
あのとき、カシルとキスイの間はかなり詰まっていたため、カシルを転移させようとすればキスイを巻き込む、というのは理解できる。
だが、俺はカシルを追っていたものの、まだカシルとはけっこう距離が開いていたはずだ。
もし俺が転移してなかったら、カシルは俺との茶番もなく一刻も早くキスイを追跡して捕らえ、それを手土産に堂々と敵陣に帰還できていたかもしれない。
しかし、俺がいたことでカシルは余分な時間を食った挙げ句、こうして非常に不利な共闘を強いられているわけで。
これが全部、あのときのハルカのもくろみ通りだったとすると……
(…………。
ちょっと帰ったら問い詰めてみよう)
なんとなくはぐらかされる気もするが、俺は心に誓った。
どんな事情があろうと働かされたら報酬を請求せよ、というのがクラックフィールド家の家訓なのだ。
シンプルにセコい家訓である。
「……ち。結局、賭けは私の負けか」
カシルの言葉に、俺は我に返って前を見た。
そこにあったのは、俺の剣とは違う光源。
「あ、ライさま! こちらです!」
と手を振るキスイと、
「よう、ライくん。なんでまだ生きてるの? 死ねばいいのに」
「敵と一緒とはもしかして裏切りですか? 潰しますよ?」
とか物騒なことを言う、随伴の大人二人だった。
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「ん? なに、どったのじいさん?」
「いや、イレギュラーでの。どうもこのままではうまくいく気がせんのよ」
「別にいいんじゃない? どうせ今回はまだ勝負回じゃないっしょ?」
「たしかにそうじゃが、デモンストレーションもあるでな。もう少し敵を苦戦させておかんと布石にならん」
「あー、例のホルサの剣士がらみか……てことは」
「そう。シンの奴に対抗できる戦力は、いまのところお主だけじゃ。出番じゃぞい」
「やった! どのくらい暴れていい?」
「目分量でええわい。できる限り派手に頼むぞい、フレイア」
「らじゃーらじゃー。じゃ、楽しい花火を期待して待っててね!」




