閑話(7):魔人たちの馬鹿騒ぎ
「うーっ、道に迷ったあっ」
プチラはそう言って、光る杖をぶんぶんと振って地団駄を踏んだ。
彼女の姿は、杖の光によって煌々と照らし出されている。よく人間の子供と間違われる小さな体躯だが、この地域には珍しい虹小人族である彼女はこれで成人の身体である。服は東方風を自己アレンジしたような不思議なものだが、ここにはいくつものひみつ道具が収納されている。いくつあるかは、実は本人も把握していなかった。数えるのが面倒なのだ。
その横にぼうっと見える青い影に対して、プチラは言った。
「ミスフィト、これどーすんのさ! あたし、ここからどこに行けば目的地に着くかわかんないんだけど!」
「俺に言うな俺に。というか、地図を与えられてたのはおまえだろ。俺が知るかよ」
「だってさ、その地図がもんのすごい大雑把なんだよ!? なんだよこの曲がり角ぜんぜんないじゃんか!」
プチラが暴れる横で、青い影のように見えた獣人、ミスフィトはため息をついた。
こちらは実にシンプルな、動きやすいズボンと簡素なシャツに身を包んだ痩躯の青年である。拳にはバンテージが巻いてあるが、その拳は人間のものよりずっとゴツゴツしている。太く、大きな毛に覆われた尻尾と、ぱたぱたさせている耳が特徴的だ。
「まあ、最初からヤバい案件のような気はしてたんだよな。だいたい、なんだよ『その他担当』って。相手がどれだけいるかわからんが、俺たち二人でなんとかできるほどの相手なのか?」
「だぁーいじょーぶだって! プチラさんは強いからたどり着きさえすればなんとかなるっつーの! 木っ端魔人どもなんてちょちょいのちょいさー!」
「で、たどり着けるのか?」
「わかんにゃい。ミスフィト、食料は?」
「あと半日分だな。それより水だ。なくなると本気で詰むぞ」
「ううー、最後の手段として洞窟の天井ぶっ壊して無理やり外に出る手も考えたけど、どう考えても超リスキーだよねえ。お尋ね者になっちゃうよ」
「そもそもこの仕事が違法な可能性が高いと思うんだがな、俺は」
「あはは、そんなことないない! あの人のよさそうなおじいちゃんが悪い奴だなんてそんな!」
「名前すら名乗ってない相手によくそれだけ信頼できるな、おまえ」
「だってもう引き返せねーじゃんよ! 誰だよ支払いがいいからこの仕事にしようっつった奴!」
「おまえだ」
「そうだった! がはは!」
馬鹿笑いするプチラに、ミスフィトは天を仰いだ。
「そもそも、その前の金の減りがおかしかったんだよ。なに作ったんだ今度は」
「お、聞きたい? 聞いちゃいますかミスフィトさん?」
「聞かせたいんだな。わかった、聞いてやるから早く言えよ」
「じゃーん! これが今回の新装備、その名も単分子剣です! 通常の物理打撃じゃまず壊れないし刃こぼれもしない、最強の剣だよ!」
「またけったいなものを……」
「どれどれ」
ひょいっ。暗闇から出てきた手が剣を取り上げた。
「え?」
「うん……うん。よくできてる」
手の主は剣をながめながら、のんびりと言った。
「単分子の名にふさわしい強度ね。およそ常識的な物理衝撃で、これを破壊できるものは存在しない。……神造兵器とも、古代の武器とも、魔法剣とも違う。まったく新しい発想の武器と言える。すごい」
「えっへへー、それはどうも。
……じゃねえ! なんだテメエ勝手にあたしの剣を取ってしかも上から目線で寸評しやがって誰だコラ――ってサリ!?」
「おひさ、プチラ。それとミスフィトも」
サリはいつものように、いつもの格好で、いつもの無表情でそう言ってから、プチラに剣を返した。
「なぜここにおまえがいる? サリ」
「いまはなにも見えないから、少し遠出していたらあなたたちを見つけただけ」
「……そういうことか。くそ、やられたぞプチラ。よりによってサリが敵にいる案件だ」
「そんなことよりどうよサリこのプチラさんのニューウエポンはさー! すごいだろ!」
「うん。柄も同じ強度みたいに見えた。すごくよいと思う。……ただ」
「ただ?」
「なんで留め金だけ普通の鉄なの? 衝撃で留め金が壊れたら使い物にならなくなるよ、いまのままだと」
「金が! ねえんだよ! わかれ!」
瞬時にブチ切れたプチラがうがーと叫ぶ。
「ていうかサリ、ちょうどいいからおめーもこっち来いよ! あたしらの依頼主、めっちゃ金払いいいんだって! マジで!」
「普段だったら誘いに乗るところだけど……今回はパス」
「なんで!?」
「こっちもめっちゃ金払いがいい。あと、さっきからいろいろ見えるので、ちょっと」
「また未来視か! くっそー、サリさえ味方だったら誰が相手でもけちょんけちょんなのに!」
「……いや、待て待て、プチラ。いまめちゃくちゃ重大なことを言われたのに気がつかないか?」
「うん?」
プチラが首をかしげる中。ミスフィトはサリに向き直った。
「サリ、確認だが。『いろいろ見える』というのは、つまり俺たちを見つけてから見えるようになったということか?」
「うん」
「つまり……放っておくと、俺たちが死体になるのが見えるので、あえて出てきた?」
「うん」
「げっひゃー! やべーじゃんミスフィト! どどどどうしよう!?」
「落ち着いて、プチラ。ちゃんとわたしには見えなくなる方法がわかってる」
「やったー生き残れる! じゃあその方法はよ、はよ!」
「うん」
「いや待てプチラ、もうちょっと情報交換してかげふぅ!?」
言葉の途中でミスフィトは七発もの青白い光の帯を立て続けに食らって吹っ飛んだ。
「わたしがここで二人と全力で戦い、結果として当面再起不能なくらいボコボコにすれば、しばらくは死ななくて済むみたい。
そんなわけで、死にたくなければ本気で抵抗しなさい。プチラ、ミスフィト」
「うぎゃーマジだこいつ本気で千手観音展開してやがる! 助けてミスフィト!」
「おまえが俺を助けろ! くそっ、あのジジイが言っていた『二人の例外』の片方ってどう考えてもサリだろ! なんで対策用に雇った奴じゃなくて俺たちのところに来るんだよ!」
互いに叫びながらも的確に補助術式をかけて戦闘準備をしていくプチラとミスフィトを見て、サリは目を細めた。
「さて、準備はいいわね。せっかくだからどのくらい強くなったか見てあげる。――だから本気で、殺す気でかかってきなさい」
「上等だおらぁ! テメェいくらサリだからって調子乗るんじゃねえぞ!」
「プチラ、後ろ側は援護する! 前衛任せた!」
こうして。
魔人三人による突発バトルが、突如として幕を開けたのだった。
……結果は、語るまでもないのだが。




