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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
三日目~五日目:悪党と岩巨人の姫君
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三日目(12):悪党、女王(?)と出会う

「ま、この辺でいいだろ」


 俺は言って、手を離した。


「そんで、なんで俺の部屋を何度も襲撃したか教えてもらえるか? キスイ」

「ええい、気安くわらわの名を呼ぶでないわっ」

「うわっ!?」


 キスイの手から放たれたよくわからない謎の生物を、あわててかわす。

 ていうか。


「なんだなんだ、酒乱か? 人間社会だとおまえくらいの子供には強い酒は飲ませないんだが、岩巨人って違うの?」

「誰が飲むかあんなおいしくないやつっ。あれを絶賛する大人どもの気が知れんわっ」

「まあ、その気持ちは若干わからなくもないが……」


 俺は言いながら、目の前にいるキスイをながめた。

 さきほどまでとは違う、明らかなぷんすこ顔である。どうやらずいぶんと機嫌を損ねているようだ。


「で、酒乱でないならなんだよ。さっきまでのおまえは擬態かなにかか?」

「ふっふっふ、それはな!」


 ずびっ! と指で俺を指して、キスイはふんぞり返った。


「わらわこそが、貴様のような悪の神を討つために現れた、キスイの裏に隠れた真の岩巨人の支配者! 女王クイーンであるからじゃ!」

「…………」


 俺は、首をかしげた。


女王クイーンって、大巨人の?」

「そうじゃ!」

「でもどう見ても岩巨人のキスイさんなんだけど」

「ふっ。『生贄』はわらわの名代じゃからな! こうして身体を乗っ取ることなどたやすい、というわけよ!」

女王クイーンってたしか呪われてるせいで誰にも記憶できないんだよな。そこんとこどうなの?」

「そんなわけあるか! 誰じゃそんなデタラメ吹聴してる輩は!」

「ジロロって人だったけど」

「あーやーつーはー、なにをやっとるんじゃあ!」


 叫んで地団駄を踏むキスイ……いや、女王クイーン、なのだろうか?

 まあ、どっちでもいいか。


「おい、もう夜も遅いんだぞ。叫ぶのはほどほどにしろ」

「知るか! どうせこの集落にわらわを止められる奴はおらん!」

「そうやって人望を失っていった結果、最後には破滅するんだぞ。俺は詳しいんだ」

「そんな古びたおとぎばなしみたいなオチが現実にあってたまるか!」

「昔話を馬鹿にしてはいけないってのがクラックフィールド家の家訓でな。ほら、とっとと帰るぞ。リッサには朝、ごめんなさいしような」

「うーがーっ!」

「うわっ!?」


 ごうっ! と吹き付けた風のようななにかに押され、俺は数歩下がった。

 見ると、キスイの身体を薄い光の膜のようなものが覆っているのが見える。


「その膜は……?」

「くくく……神風情の名代には、これは出せるまいよ。

 そう、これがイェルムンガルド外殻! 神話の力を物理的に作用させ、思うがままに現実を操作して攻撃と防御を行う、大巨人の偉大なる力だ! 貴様なんぞぺちゃんこだぞ! ぺちゃんこ!」


 高らかに、宣言するように彼女は言った。

 俺は、しばらくその膜を観察して、


「――ふっ」

「貴様なにがおかしい!」

「ひっかかったな大巨人! おまえの後ろを見てみろ!」

「な、なにいっ」


 あわてて彼女は後ろを振り向き、

 ひょいっ。


「む?」

「ふーむ。これが女王クイーンの神器のペンダント、ねぇ」

「へあ? ……ああああああっ!」


 わめくが、もう遅い。

 昼のうちに、俺はキスイから、自分はペンダントがないと力を発揮できないと聞いていた。

 なら、こうやって隙を見て盗んでしまえば、キスイにはもはやなんの力も発揮できないのだ。


「こ、このっ、返せ!」

「やーだよー。だって返したら危ないだろ」

「くそ、この外道めがっ! 貴様には恥とかそういう概念がないのか!」

「悪党だからなあ。ないよ」

「貴様ああああああ! おのれ、高く掲げるな! 手が、手が届か――あっ」

「あっ」


 ぴょんぴょん跳んでペンダントを取ろうとするキスイだが、俺が上げた手に届かず、そしてけつまづいた。

 ごんっ。


「きゅ~……」

「うわ、マジで頭から突っ込んだ! おい、大丈夫か!?」


 うまく整備されているとはいえ、洞窟の中である。頭をぶつけるというのは大変――と、抱え起こしたら、


「……あれ?」


 ぱちり、と目が開いたときには、キスイの雰囲気が変わっていた。


「あの、ライさま。なぜわたしの部屋に……?」

「おう、おはよう。そしてここはおまえの部屋じゃない」

「え……?」


 キスイはきょろきょろとまわりを見回して……しばらくして、ため息をついた。


「ご迷惑をおかけしました……」

「その様子だと、こういうことはけっこうある雰囲気だな」

「はい……えっと、ライさま。どこまで彼女から聞いてますか?」

女王クイーンだって名乗ってたのと、なんか神話の力を使ってた。危なかったんでペンダントは取り上げさせてもらった」

「あ、そうなんですか。お手数おかけしました」


 言ってキスイは、おずおずとペンダントを受け取った。

 その様子を見るに、キスイのふりをしてるあいつというわけではなさそうである。


「いつもこんな感じなのか?」

「ここ最近は多いですね。完全にあの子の思い通り、というわけではないんですが、ちょっと気を緩めるとこれです」

女王クイーンってのは、あんな人格だったのか?」

「いえ、誤解しないで欲しいんですが、それはあの子の自称で、実際にはあの子は女王クイーンではありませんよ」

「え、そうなの?」


 俺が問うと、キスイはうなずいた。


「『生贄』には、しばしば起こるそうです。二つか、あるいは三つ以上の人格が、頻繁に入れ替わるということが。

 わたしもその体質でして……その結果、生まれたもうひとつのわたしの人格が、あの自称女王(クイーン)です」

「そうなのか。難儀な体質だな」


 言われてみれば、本当に身体を乗っ取った女王クイーンであれば、ペンダントが離れた瞬間にキスイに戻っていただろう。そういう意味では、聞くまでもないことだった。


「ま、いいや。今回の件の後始末とかは明日にしよう。もう遅いから、お互い寝るとしようぜ」

「あ、はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「体質だろ? いいよ。ただ、おまえもさっき頭を打ってたから、安静にな。血とかは出てないけど、コブになるかもしれない」

「そうですね……そういうこと、多いんですよね。あの子に乗っ取られると」


 キスイはしかめっ面でそう言った。




 その後、俺はキスイと元来た道を戻って別れると、リッサが寝静まっているかどうかだけ軽く確認して、そのまま部屋に戻った。

 騒ぎがあって合計三回交換したせいか、結局は窓のない部屋が俺の部屋となった。


(……?)


 だからだろうか。

 寝る直前、軽く胸騒ぎがしつつも、俺はそれを見過ごした。

 後になって思えば、窓の外を見る機会があれば、もう少し早くそれに気づけたかもしれない。

 けれども、そうはならなかった。

 俺たちが寝静まっている横でうごめいていた敵の蠢動に、このときの俺は、まだ気づいてもいなかったのだ。

【余談】

 キスイは本来、この集落ではまだ飲酒可能年齢に達していません。

 が、本人が白状していますが、こちらの人格のキスイはこっそり飲んだことがあります。口には合わなかったようですが。

 もちろん、本来のキスイはそんなこと考えたこともありません。

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