表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
三日目~五日目:悪党と岩巨人の姫君
PR
43/140

閑話(2):夢幻に住まう秘剣

「ふっ……!」


 ざくんっ。

 にぶい音がして、いくつもの木の枝のうち一本だけが、きれいに切断されて地面に落ちてきた。

 それを見て、男――シン・ツァイは息を吐き、ゆらゆらと頼りなく実体化していた手の中の剣を消す。

 ぱちぱちぱち……と、空虚な拍手が場に響いた。


『けっこう、けっこう。実体と虚像を意のままに揺れ動き、狙った部位のみを切断する虚実の剣――それがホルサの剣とやらかの。見応えがあるわい』

「貴様に見せるためにやったわけではないのだがね」


 シンは静かに言って、それからあたりを見渡した。


「どこにいる? グラーネル」

『ひょひょ。冗談を言うでない。実像と虚像とを問わず、あるがままを斬る(・・・・・・・・)『秘剣』カイ・ホルサの夢幻刀儀……その使い手を前に、わかりやすく見える幻像を設置するほど儂が愚か者に見えるかえ?』

「まあ、そうだろうな」


 シンはため息をついて、言った。


「実のところ、予想はついていたよ。こうして一人で鍛錬にでも出れば、元弟子たる僕を貴様は必ず籠絡しに来る――そう思っていた」

『飲み込みが早いのは美徳じゃな。弟子よ』

「その呼び名、どうにかならないのかね? かつては弟子として能わずと切り捨て、捨て駒に使ったのはおまえだろう、グラーネル」

『それは勘違いじゃぞい、シンよ。儂は単に、誰が弟子であろうと切り捨てて捨て駒に使うだけじゃ。特段にお主が弟子失格であったわけではないぞ』

「それがなにかのフォローになっていると思うのなら、おまえはどうかしているよ」

『では殿下とでも呼びますかの?』

「からかうのはそこまでにしろ。用件は?」


 冷たく問うたシンの言葉に、妖術師はひひひと暗く笑った。


『なに、ちょいと物入りでなあ。イレギュラーで、手に入れようと思っていた神器がひとつ、欠品してしもうたからな』

「あの剣か」

『おう。うまいこと軌道に乗せたと思うたらあの様よ。とはいえ、まだまだ代わりになるものはいくらでもある。あれか、あれと等価な神器か。それを手に入れたいのよ』

「僕が聞きたいのはそちらではない。対価だ」

『わかっておるだろうにのう。なあ、シンよ?』


 舐めるような言葉に、シンは舌打ちした。


「『王子の二重性』か」


 ひひ、と声が響いた。


「たしかに、()にとって奥義の収集は第一目的だ。()がなにを考え、どう契約していようと、それに優先する。奥義を取引の道具として出されれば、応じるしかない。そこにつけ込む気か」

『こんなにわかりやすい弱点もないでな。ひひ。

 未だ知られぬ奥義が儂の手の内にある。その時点で、お主は契約に応じざるを得ん。計画が立てやすくて助かるわい』

「そうか、そうか」


 シンは言って、それからふっと微笑んだ。


「なあ、ところでグラーネルよ」

『うん、なんじゃ?』

「貴様、『混沌懐胎ミスアイデンティフィケーション』の名で知られる奥義を知っているか?」

『なにをいまさら――待て。お主、まさか』


 妖術師の声に、かすかな狼狽が混じる。

 シンはかまわず淡々と、


「いまはまだ、僕は奥義とやらを見せてもらったわけではない。その『可能性』をちらつかされただけだ。取引材料としては足りん――そして」

『いや、待て。くそ、幻術が、幻術が解けん……!』

「収集、してないわけがない(・・・・・・・・・)だろう? さすがに一〇八の奥義(ウパニシャッド)の原典そのままではないが……敵の居場所を決めつけ、虚実をない交ぜにして、強制的に自分の前に引きずり出す奥義の一つや二つ程度ならば、余の手の中にもある」

『木の枝か! 貴様、そこに儂を強制的に封じ――』

「死ね」


 ざくんっ。

 軽やかな音とともに木の枝が一本地面に落ち、そして静寂が訪れた。

 シンはしばらくあたりを確認して、そして舌打ちする。


(駄目だな。当たりが浅い)

「さすがは生き汚さに定評のある『北の妖術師』グラーネル・ミルツァイリンボ。我が夢幻刀儀に耐えうるほどの防御法を、あらかじめ用意していたか」


 手傷くらいは負わせただろうが、それ以上にはならなかっただろう。そう考えて、シンは顔をしかめた。


(いまは、これでよし。だがグラーネルが本当に『奥義』の断片を持っていて、それを取引材料に持ちかけられたら――)

「僕は、どうするんだろうな……?」


 答える声は、そこには存在していなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ