二日目(22):決戦! 草原の弧竜-3
「サリっ! この馬鹿!」
俺は落ちてくるサリに駆け寄り、ギリギリでキャッチした。
あっぶね……いま、もう少しで頭から落ちるところだったぞ。
いくらサリが超常の魔女だと言っても、この高さから頭から落ちたら無事では済まないだろう。ましてや、竜の火炎を背中に直撃されたのである。
服はボロボロ、その下の身体もかなりのやけどを負っている。それに、あれだけ跳ね飛ばされたのだ。ひどい打撲だろうし、骨が折れてるかもしれない。
「あ……ライ? 生きて……?」
「いま生きてるかどうかを心配されるのはおまえだ、馬鹿!」
「だめ……まだ光景が消えてない……なんで結界から出てきちゃったの……!」
「結界ってのが俺を閉じ込めてたアレなら、おまえが吹っ飛ばされた瞬間に消えたよ!」
ずずん! と、地響きがした。
振り返ると、弧竜が大地に足をつけて、すさまじい目でこちらをにらんでいた。
その胸のあたりはさっきの大魔術でえぐれていたが、なぜかそこに透明な管のようなものがいくつも生えていて、血液らしき赤い液体を運んでいるのが、目で見て取れた。
「どうなってんだよ、あれ」
「たぶん……魔力で無理やり、欠損した心臓を補ってる……」
「ちっ、どっちにしろやべーな。また炎吐かれたら終わりだ!」
「待って。だめ、ライ……」
「待ってたら死ぬだろ!」
叫んで俺は、全力で弧竜に向けて駆け出した。
「ライナー・クラックフィールドの名において――うりゃあっ!」
剣がびかびかと光り、力が集積し、光の矢となって弧竜を襲う。
そして、さくっ、という軽い音と共に、ちょっとだけ傷をつけた。
痛みと怒りで、弧竜が咆吼する。
「あ、やば……!」
次の瞬間。
中途半端に前に出ていた俺の身体を竜の尻尾が――なぎ払おうとしたその寸前に、その尻尾に曲がった大剣がたたきつけられ、弧竜はまた悲鳴を上げた。
「わりいちびすけ! ビビって出遅れた!」
バグルルはそう言って、にかっと笑って剣を構えた。
「……あんたにちびって言われても、なぜかあんまりムカつかねえな」
「わはは、そりゃそーだ俺はでけえからな!
それより、いまのはファインプレーだぜ坊主。シン!」
「もう動いてる!」
こちらはシンの声。どこにいるかはわからないが、
「弧竜の頭部付近に幻術結界を張った! これでしばらく吐息は封じられる!」
「よし坊主、全力で時間を稼ぐぞ! 防御は俺が担当するから翼を狙え! 逃がすな!」
「お、おう……でもなんで?」
俺の言葉に、バグルルは答えた。
「これが最後のチャンスだ。ここで空に逃して踏み潰されたら終わる。
だが相手も弱ってる! 魔力防御も衰えてるし、おまえのさっきの技も効いてるぞ! たたみかければ勝てる!」
「わかった! うおおお、食らえこのやろー!」
叫んで俺は弧竜の身体によじ登り、翼の付け根あたりにがっつんがっつん剣をたたきつけた。さっき解放した力がまだ残っているのだろう。血が飛び散り、弧竜は苦悶の声を上げる。
弧竜も尻尾や前脚で俺を振り払おうとするが、バグルルがうまく大剣でさばいて近づかせない。
「だめ、それじゃ、だめ、なの……!」
サリの声が聞こえる。
「なにがだめだって!?」
「封じられてない。まだ、その竜には、奥の手、が……!」
サリが言うと同時に。
竜の腹から、にょきっ、と半透明の竜の首が生えた。
「は?」
その首は、大きく口を開けて、俺の腕にかじりつこうとし、
「さんかく~☆」
「うげはっ!」
ミーチャの不思議力で俺の身体が吹っ飛ばされ、首は空振りした。
続いてコゴネルが駆けつけてきて、
「大丈夫か、ライ!」
「あ、ああ……でもなんだあいつ、首が……」
「臓器を魔力で編める竜だ。首も作ったんだろう。
急造のブツだが火炎も吐けるはずだ! いま食らったらやばい、いったん離れろ!」
「だ、だけど……弧竜が……!」
俺が指さす先を見たコゴネルが、舌打ちした。
吹っ飛ばされて、俺が身体から引き剥がされたのを好機と見たのだろう。翼をはばたかせて、空に逃げようとしている。
「あいつ……」
「大丈夫さ」
俺はうなったが、バグルルは不敵に笑った。
「なんでだよ。さっきは、空に逃がしたら負けだって!」
「まあな。でも、時間稼ぎは十分できた。それに――」
バグルルは肩をすくめて、言った。
「こういうおいしいタイミングで毎回ちゃっかり活躍する馬鹿野郎が、まだひとりいるからな」




