二日目(18):悪党、やべーことになる
「うっわー……派手に崩れたなあ」
俺はあきれたように、剣を見て、それから前を見た。
バルメイス神の真名による力、これが実にとんでもなかった。
いや、前に飛べば理想的だったのだろう。とんでもない光でもって、戦闘機械を残らずなぎ払っていたに違いない。
だが、俺はとっさのことで対応できず、結果として光は、上に飛んだ。
そう、天井にである。
結果として遺跡上面は見事に崩落し、土砂が戦闘機械と俺たちをさえぎって、いまに至る。
……単に名乗れば発動するんかい、これ。さすがに予測不能だわ。
「す……すっごーい! ライ兄ちゃん、かぁっこいー!」
「素晴らしいです! バルメイス様、いつの間にご改名をなさられたのですか!?」
「うむ、一時休止に過ぎないが、とりあえず機械どもを遮断することに成功したな! これで少し策を練る時間が取れるぞ!」
「いや。いやいや。おっさん、それにマイマイも、なんか重要なことを忘れてないか?」
俺は冷や汗を垂らしながら、言った。
「? なんのことだ、小僧?」
「なになに、どしたの?」
「いや、俺、いま遺跡の天井を突き破って、上の草原にまで剣の光をぶっ飛ばしたよな?」
「うむ。だから土砂が崩落してきて、通路を塞いだ形であるな。それがなにか?」
「うん。それ、草原の方からでも見えるよな? これだけ派手だと」
「それがどうしたの? ライ兄ちゃん」
「おまえら、弧竜のこと忘れてね?」
ぴたり。二人とも、ひきつった顔で固まった。
俺はため息をついて、
「当然、縄張りで起こったこれだけ派手な現象には弧竜も気づくよな。突っ込んでくるんじゃね? この場合」
「ら……ライ兄ちゃん」
「どうした、マイマイ?」
「耳を澄ませて。なにかが落下してくる音が……」
「ええい、言ってる場合か! また後ろに下がって全員伏せろ!」
俺が指示し、みんながあわてて動くと同時に。
先ほどの光とは比べものにならないほどの揺れが、遺跡全体を揺るがした。
「う、うわあああああああ!?」
伏せていても吹っ飛ばされそうな圧に、悲鳴を上げる。
それが収まったのを見て、俺が恐る恐る顔を上げると……
「うっわ」
弧竜が、そこにいた。
馬鹿でっかい胴体を直接地面にたたきつけたのだろう。結果として、俺の攻撃でもろくなっていた遺跡上層部は完全に崩壊し、空が見えていた。
そして、ばちゅんばちゅん! という戦いの音。弧竜も不快げに前脚を振るい、なにかを打ち倒している。
「なんだ? なにが起こっている?」
サフィートの言葉に、俺ははっと気がついた。
「そうか、戦闘機械ども、この竜を敵と認識して攻撃しだしたんだ! だから竜もそっちに気を取られてる!」
「おおっ、ナイス展開じゃん!」
マイマイは言って、グリートを持ち上げ、
「じゃあすぐに地上に出よう! 竜の身体を足場にすればすぐだよ!」
「ちょ、待っ……」
「ほらほら早く早くー! ライ兄ちゃん!」
止める間もなく、マイマイは竜の身体を足場にして、上の地面に行ってしまった。
「前から思ってたけどあいつ、クソ度胸あるよな……で、どうする? おっさん」
「やむを得まい、続くぞ! 竜があちらに気取られているいまがチャンスだ!」
「お、おう!」
二人ともおっかなびっくり、マイマイの後に続く。
竜は一切反応せず。どうやら、足蹴にした程度ではなにも感じないようだ。
すぐに竜の身体を抜け、土砂崩れをした地面の上に立つ。だが、そこから上に登ろうとしても、ちょっと難しいくらいの断崖になっている。
「どうする!?」
「ふふーん、こういうときこそ魔術の出番! ライ兄ちゃん、おじさん、手をつないで!」
「お、おう。こうか?」
「グリートくんは肩! ちゃんとしがみついててね! 行くよ!」
「がってんですっ!」
グリートの言葉に、マイマイはうなずいて、詠唱を開始した。
「蝋仕掛けの羽根は星の世界を回り、月を背に運命を唱えん。
星界を渡る異邦よりの船――サイクル・バイヤースター!」
言葉と共に俺たちは浮き上がり、そして……
直後、赤熱が爆ぜ、俺たちは軽くなった体重のまま、彼方へと吹っ飛ばされた。
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「っ、とお!」
くるくるくる、すたんっ、と俺は地面に華麗に着地した。
「ぶぎゃっ!?」
「うぎゅっ!?」
次いで、マイマイとサフィートが、どしゃあっ、と地面に顔面から落ちてきた。
「よっと!」
「うひゃっ!?」
最後、他より長く飛んでいたグリートを、地面にたたきつけられる前に手で回収する。
「あ、ど、どうもです、バルメイス様……」
「ライでいいぞ。名前は変わった」
軽く言って、俺は吹っ飛ばされてきた方角を見やる。
草原だった場所は、完全に炎上していた。
「くそっ、弧竜の奴、火炎の吐息をあんな狭い場所で吐いたのか。そりゃ遺跡もダメになるわ」
「冷静に言ってるがな小僧。顔面から落ちた我々へのケアとか、そういうのはないのか!」
「きゅー……」
「空中で体勢を立て直せないにぶちんが悪い」
元気そうに文句を言うサフィートと、目を回しているマイマイを見て、俺は肩をすくめて言った。
これでも元盗賊、敏捷さには自信があるのだ。
と、ごごごごご……と、大きな音が響いてきた。
「今度はなんだ!?」
「も、もしかして……!」
「もったいぶらずに言え、グリート!」
「はい! さっきの衝撃で遺跡が崩落しつつあるのではないかと!」
「あの遺跡ってどこからどこまで!?」
「草原全体の地下は覆ってたと思うので、このままだと大崩落です!」
「クソやべえなおい! おっさん、走れるか!?」
「う、うむ。だがその娘は……」
「俺がかつぐ! 行くぞ!」
俺は疲れた身体を押して、気絶したマイマイの身体をおぶって走り出した。




