二日目(17):悪党、逃走中
「っ、らああああ!」
ばきっ、ばきききき……!
俺の全体重を乗せた斬撃で、人間の形を模したその機械は機械的な悲鳴を上げ、そして動かなくなった。
「これで七体! くそ、一体一体ならなんとかなるけど、徒党を組まれたらどうにもならねえぞ!」
「グリート、出入り口まではあとどのくらいだ!?」
「もうちょっとです! 走って!」
「ライ兄ちゃん、早く!」
マイマイの言葉になんとか気持ちを奮い立たせて走る。
正直、先ほどちょっとサフィートに回復してもらったものの、本調子にはほど遠い。その上、機械との戦闘で頼りになるのはやっぱり俺だけだった。サフィートは有効な術を持たず、機械に幻覚は効きにくいと来た。
「ぜえ、はあ……くそ、グリート、どうなってる?」
「そこの角を曲がればすぐです! そこに出入り口が……え?」
「は?」
「うん?」
先に角を曲がった三人が絶句したのを確認して、俺は渋面になった。
あー……これダメなパターンだな。
果たして、角を曲がってみると、それが目に飛び込んできた。
かつて脱出路であったとおぼしき上り階段――が、土砂でぐっしゃぐしゃに埋まっている光景を。
「なるほど……こういうオチか」
「落ち着いている場合か小僧! ええいグリート、どうなっている!」
「そんな……! そんなはずがありません! ここには昔から神聖文字によって風化避けの強化がびっしり書き込まれているんです! こんな自然に崩れるはずが……」
「風化避けって……この、階段の横に書かれてる文字?」
「そうですマイマイ様! その文字の力でこの要塞は二千年経ってもその偉容をですね」
「でもこの文字、地底アリさんたちが巣を作ってるよ?」
「え?」
言われて俺も見る。
あ、ホントだ。完全にアリの巣になってる。
「まあ、二千年の間メンテしてない要塞じゃ、こういうこともあるよな……」
「ええい落ち着いている場合か小僧! グリート、他の出口は!?」
「そ、それが、こちらは非常口で、他は全部あの谷の向こう側なんです。でも谷には大巨人の戦闘機械の群れが……」
「……くそっ。なんとか突破するしかないか」
「いや待ておっさん無茶言うな。俺、いくらなんでもこれ以上戦えねえぞ」
「うーん……」
マイマイが難しい顔で、
「ここでライ兄ちゃんの新たな力発動、土砂を吹っ飛ばして地上に帰還とかが一番かっこいい展開かなあ」
「おまえも無茶を言ってくれるなあ! どこにそんな力があるんだよ!」
「い、いえ、そうです! よく考えたらバルメイス様のお力で土砂をどばーんとやってしまえばよろしいのです! 以前やったように!」
「いや、そんなことを言われてもな……」
困った俺は、アイコンタクトでサフィートにヘルプサインを送る。
サフィートはうなずき、
「グリート、先ほども言ったようにバルメイス神は大巨人の奸計により記憶が混乱しておられる。そのため、力を使う方法がわからぬのだ」
「な、なんですと!?」
「なにかヒントになることはないか? 以前にバルメイス神が言っていたことでもなんでもいいから!」
「そ、そうですね……」
グリートは考え、
「たしか……その剣は『真名』に反応して力を上げる効果を持つと言っていたように思います」
「真名?」
「はい。具体的には、神威の発動時に名を叫ぶことでパワーアップするとか」
「なんでそんな機能つけてるんだ……?」
「鍛冶神に、かっこいいからそうしてくれって頼んだそうですよ」
「意外とおちゃめだなバルメイス!」
言いながらも、俺は考える。
「神威ってのは、神の必殺技ってことでいいんだよな? おっさん、なにか知ってるか?」
「うむ。まあ必殺技に限らず、神が己の司る『力』を振るうときに神威と呼ばれるのだが……バルメイス神は知っていても、その神威まではさすがに、私も知らんぞ」
「くそ、振り出しに戻るか」
「いえ、大丈夫です! おそらく、バルメイス神自身のお名前でもその機能は有効なはず! どーんとやっちゃってください!」
「おお! なるほど!」
グリートの言葉に、サフィートは顔を輝かせた。
「おい小僧! いま聞いた通りだ! バルメイス神の御名において必殺技をぶっ放せ!」
「よし、じゃあみんな下がってろ!」
俺は階段の前に一人躍り出て、剣を振りかぶりつつ叫んだ。
「バルメイス神の名において――てやっ!」
かつーん。
土砂が、剣をはじき返した。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「なんかかっこ悪いね、ライ兄ちゃん」
「俺のせいじゃないだろいまのは!」
「小僧、遊びはそこまでだ! 戦闘機械が追いついてきたぞ!」
「えいくそ、休む暇もありゃしない!」
言って俺は、角を曲がってきた戦闘機械に向き直り、剣を構えて走りながら、
「かかってこい、機械ども! この強きをくじき弱きを助ける世紀の大悪党、ライナー・クラックフィールド、様、が……!?」
びっかー! と、剣が輝きだした。
「な、なんだ!?」
「バルメイス様、それです! やっちゃってください!」
「お、おう……いや、待て! これちょっとやばい!」
どんどん膨れ上がっていく光と、そこに集積される力の感触に恐怖しながら、俺は叫んだ。
「全員、下がって伏せろ!」
同時に。
光の奔流が吹き荒れ、大爆発と共に遺跡が大きく揺れ動いて、そして――




