二日目(16):悪党、宝物を見つける
「まず、こちらは大巨人との戦いの最前線に建てられた砦であります。
こちらの通路をもう少し行くと断崖絶壁に突き当たるのですが、その下まで掘り進めてきた大巨人の軍勢と戦いになりまして。なんとか連絡通路を寸断して事なきを得たのですが、断崖の下は巨人族の自動攻撃機械の巣です」
「なるほど。こちらの戦力は?」
「通路を寸断するときにほぼ使い果たしまして……稼働中の妖精はおいら一体のみで、ほとほと困り果てていたところなのですよ」
「そっか……苦労したんだな、グリート」
自称によれば二千年間。それほど長い間、この砦を孤独に守ってきた妖精に、俺は若干同情した。
「いえいえ! ところがたびたびお客様が来られるのですよ!」
と、グリートは明るい顔で言った。
「お客様?」
「ええ、はい。何者かは存じ上げませんが、大巨人族との戦いで破損した橋をなんらかの神秘で渡り、来訪される方々がいらっしゃるのです。
皆様フレンドリーかつ優しげな方々で、たとえばこの先の広間に盗掘者対策のよく動くお骨を置いておくとよいとご助言いただいたりして、正直戦力壊滅のこの要塞にとってはありがたいことこの上なく――」
「ってそれは魔物だ馬鹿者!」
「わーっ!? ごめんなさいごめんなさい!」
サフィートの怒鳴り声に、グリートは思わずすくみ上がった。
「馬鹿か貴様はそんなうさんくさい連中を信じよって! もう少し頭を使って考えんか!」
「……俺たちが言えたことか?」
「なんとでも言え小僧。そもそもこやつがそんなうかつでなければ我々も魔物に襲われて苦労することもなかったのだぞ!」
「うん。苦労したの俺だけだけどな?」
さっきからサフィートの言葉の立場棚上げっぷりがすごい。鉄面皮かこいつ。
と、グリートはマイマイの手の上でガクガク震えて、
「ま、まさかあのお骨、バルメイス様を襲ったのですか!?」
「あー、うん。だから全部壊しちゃった。ごめんな」
「こここここちらこそ申し訳ありません! あれ、でもあのお骨は話によると、邪に宝を狙う不届き者しか狙わないと……」
「ごほん。とにかく!」
俺は無理やり会話を寸断してごまかし、グリートに向けて言った。
「宝物庫、あるんだろ? そこに案内してくれ、グリート」
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「こちらが宝物庫でございますっ」
と言って、グリートが案内したそこにあったものは。
「おお……これは!」
「すっごーい! お宝の山だよ、ライ兄ちゃん!」
金ぴかにきらめく宝の数々に、歓声が上がる。
「ふ。これでこそ苦労した甲斐があったというもの……これも偉大なる神のお導きというわけだな!」
「やったー、やったー、大もうけだー!」
キメ顔で神への感謝を捧げるサフィートに、その横で無邪気にはしゃぐマイマイ。
それを横目で見つつ、俺はため息をついて、グリートに声をかけた。
「なあ、グリート?」
「はい。なんでございますかバルメイス様?」
「おまえ、これ全部メッキしたの?」
ぎし。サフィートとマイマイの身体が固まった。
「あ、おわかりになられますか、バルメイス様?」
「まあな。メッキ加工は一儲けを考えたことが昔あってな。それでまあ、一応見ただけでわかる程度には」
「多彩な経験を持っていらっしゃいますねえ、バルメイス様」
「元手になった金は、どこから?」
「少し先に出ると河が流れる土地がありまして。そこの砂金を地道に集めていけば、まあ、いろいろ。ここ千年ほどは趣味として精を出していたので、なかなかの出来だと自負しておりますよ」
「そっか。がんばったな」
「えへへへー。そんなにお褒めの言葉をいただいたら照れてしまいますよバルメイス様。あ、おいらの最高の自信作はこの中でもその棚のですねー」
「ってふざけるな馬鹿者ー!」
「うひゃあー!?」
サフィートの怒声にグリートは飛び上がった。
「貴様いい加減にしろよ! こ、この宝物の数々が、き、金メッキ……!」
「あー、落ち着け落ち着けおっさん。声が上ずってるぞ」
俺は冷静に言って、それからグリートに声をかけた。
「で、本物の宝はどこに?」
「そ、それが……バルメイス様たちがご出陣なさられてから数百年後に現れた神の使いを名乗る方々が、戦費の徴用だって言ってすべて持って行かれてしまって……ですから、宝物庫もすっからかんで、寂しかったのでこれを」
「なるほどー……なるほどなー……」
俺はうなずいて、遠い目で言った。
「結局、みんな考えることは同じなんだよなぁ……」
「ええい、なにを落ち着き払っておるのだ貴様! たったいま、我々の無駄骨が確定したのだぞ!」
「まあ、そんなこともあるさ。大悪党はしくじった仕事にこだわらないってのが……」
「家訓か?」
「いや、俺のモットーだ」
「かっこいいね、ライ兄ちゃん!」
「まあなー」
マイマイの言葉に俺がうなずいていると。
そこに、びーっ、びーっ、という、明らかに普通でない音がした。
「これは?」
「しゅ、襲撃警報!? そんな、ここ二千年はなかったのに! あっ、まさか……」
「なにか心当たりがあるのか、グリート?」
「下の大巨人の遺跡にある攻撃機械、バルメイス様の神秘の力を感知して動き出したのかも……?」
「マジかよピンチじゃん!」
「うわあああっ、もうだめだ、おしまいだあっ」
「ええい、パニクるなグリート! いますぐ脱出するぞ!」
「へ? い、いやでも、おいらにはこの遺跡を守るという仕事がありますし……」
「それ、いま重要なことか!?」
俺は思わず突っ込んだが、マイマイが静止した。
「ダメだよ、ライ兄ちゃん」
「ダメって、なにが?」
「グリートくんみたいな妖精は、神話時代からの『仕事』に縛られてるの。遺跡を守れって言われたら遺跡とともに死ぬまでいるのが、妖精の宿命なんだよ。だから、どうにもならないと思う」
「そういうことか……」
マイマイの言葉に俺は少し考え、
「よしグリート、バルメイス神の名においておまえを要塞司令から解任する。新しい仕事はマイマイの護衛!」
「は、はいっ」
「ついては、脱出路に案内するんだ! 急げ!」
「わかりましたっ! バルメイス神のお心のままにっ」
グリートは敬礼して、先導するように空を飛んで移動を開始した。
マイマイがあきれ半分、感心半分といった感じで、
「ライ兄ちゃん、即席なのにうまくやったね」
「このくらいの機転は当たり前だ。
それより全員、さっさと移動するぞ! このままじゃ危な――おっさん?」
俺に声をかけられたサフィートは、ふむう、と棚の上を見上げ、
「ひとつくらい本物があっても、バチは当たらないとは思わんかね? 小僧」
「もういい。おまえはこの遺跡と運命を共にしろ」
「じょっ、冗談だ! ほらさっさと脱出するぞ小僧!」
言いながらも小物ひとつだけさっとポケットに突っ込み、サフィートは走り出した。
「まったく、世話が焼けるおっさんだな……」
「脱出劇、楽しみだね! ライ兄ちゃん!」
「おまえはおまえで底知れないほど脳天気だよなあ、ホント……」
愚痴るようにつぶやきながら、俺はマイマイと共にサフィートの後を追った。




