二日目(15):悪党、妖精と出会う
そして大決戦は俺の勝利に終わった。
元からたいして強くなかったのだろう。俺の剣に斬られた魔物はただの骨と化し、そのへんに散乱した後、ゆっくりと姿を消していった。
そして俺も体力が尽き、洞窟の固い地面に大の字になって転がっていた。
「へへ、燃えた……燃え尽きたぜ……」
「うむ。いい見世物だったぞ小僧」
「途中から手拍子ありがとうなおっさん! いつか思い知らせてやるから見てろよこんちくしょう!」
「いやいや、ホントにかっこよかったってライ兄ちゃん! 魔物相手にしゅぱーって! しゅぱー!」
「そうだな。しゅぱーと空振りした後の、すっころんで地を這いながら魔物から必死で逃げて体勢を整えようとする姿は最高だったぞ小僧」
「やっぱおまえいま泣かす!」
必死でじたばた立とうとする。が、体力不足で断念。
「も、もうだめだこれ……悪い、しばらく休ませて……」
「やむを得ん。小僧、ちょっと見せてみろ」
「あん?」
ハテナ顔の俺に対して、サフィートはその肩に手を当て、
「偉大なる我が祭神ライアス・ツォイアノイの名において、治癒の秘蹟を成し遂げん。
奇跡よ、現れ出でよ! 大治癒!」
言葉とともに、肩からものすごい力が俺の身体に入ってきて……
「……おお!」
「ふん。これでもうしばらく保つだろう」
身体が軽くなった。
いや、あの霊薬が効いていたときの、絶好調な感じはないけれども。ちょっと疲れているがこれなら身体はまだ動く、というくらいには回復した。
「いまのは、治癒の秘儀か?」
「うむ。これでも大秘儀に属する力だ。聖職者しか使えないとっておきなので、全力で私を敬うがよい」
「すげえ! おっさん、そうしてるとまるで本物の神官補みたいだな!」
「はっはっは、褒めてもなにも出んぞ。あと私は本物の神官補だからな?」
顔に青筋を浮かべながら笑うサフィート。器用なものである。
それはそれとして、俺は首をかしげた。
「しかし、さっきは動かなかったくせに、時間差で襲いかかってきたな、このドクロの魔物。なんでだ?」
「あー、それはたぶん、方角だと思うよ?」
「方角?」
俺の言葉にマイマイはうなずいた。
「ゼンマイドクロって、別名は『遺跡の門番』でね。遺跡に入ろうとした人を襲ってくるんだよ」
「なら……」
「最初のときには反応しなくて、谷の方に行って帰ってくるときに反応して襲いかかってきたってことは、谷の向こうが本来の入り口なんだろうね」
「じゃあやっぱ、帰るためにはあの谷を越えなきゃいけないのか……」
俺はげんなりして言った。
「まあ、そう悲観したものではないぞ、小僧」
「また妙に自信満々だな、おっさん。今度はなんだ?」
「なに、お宝があるとすれば遺跡の奥に決まっている。そしてあの橋が崩落したということは、盗掘者がここまで来れなかった可能性も高い」
「おー、なるほど! おっさん、役に立たない割に悪知恵だけは回るんだな!」
「ふふん、もっと讃えるがいい。そして繰り返すが宝は山分けだからな?」
「わかってるって。『生きてる人間で』山分けだろ?」
「そうだな、ふふふ。小僧、背後に気をつけろよ?」
「こっちのセリフだおっさん。なあ?」
「ふっふっふ……」
「はっはっは……」
「ちょ、ちょっと、不穏な話は後でしようよ。ね? ね?」
「そうです。喧嘩はいけないのです。平和が一番です」
「そうそう。この子もそう言って――え?」
マイマイが、足下を見ると。
そこには人形のような小さな人間型の生き物が、腕組みをしてうなずいていた。
「平和が一番。おいらはこの二千年をかけてその結論に至ったのです。平和、尊い。だからバルメイス様、暴力はダメです。どうか暴力だけは」
「……なんだこの生き物?」
「ひいっ、どうかお許しを!」
俺は首をかしげると、相手は青ざめて縮こまった。
マイマイは、ひょいっ、とその生物を持ち上げ、
「妖精だね。うちのチームにいるミーチャの仲間。でもしゃべれる個体は初めて見たよ」
「妖精?」
「うん。神話の時代、神とか大巨人が自分たちに奉仕させるために作った神造種族だよ。普通は群れで暮らしてるものだけど……」
「そうです。このおいら、グリート777こそが、我がシジン要塞を束ねる頭脳にして司令塔。神々の戦いにおいて留守を任された超高性能な妖精なのですよ」
「へえ……そうなんだ」
俺は素直に感心した。
サフィートは俺とは違って、少し考えて言葉を選ぶように、
「それより、先ほど気になる言葉を発していたな。バルメイス……と?」
「? ええ。そりゃあもう。バルメイス様の気配を察して、飛び出してきたんですよ。また要塞を破損されたら今度は本当においら、処刑されちゃいますからね」
「バルメイス神か……」
「おい、なんだそれ?」
「うむ、しばし待て。……グリート777、いまから我々は内緒話をする。なにがあろうと聞くな。万が一、一言でもおまえの耳に入っていたら、その耳のついた不遜な首を切り飛ばす」
「は、はいいっ!」
グリートは青ざめ、その場で耳をふさいでうずくまった。
「なにも聞いてないなにも聞いてないなにも……」
「なあ、おっさん。なにがあった? なんか言ってることが物騒だぞ」
「いいから来い」
言われて俺は、おっさんに引っ張られて壁際までやってきた。
そしてささやき声で、
「バルメイスと言ってただろう。あの妖精」
「それがどうかしたのか?」
「その固有名詞には心当たりがある。神話の時代、神と大巨人の戦争において武功を上げた十三闘神の中でも、最も勇猛であったと伝えられる一柱――戦神バルメイス。それが、あの妖精が言っていた名だ」
「へー。……え、でもなんでグリートはその名前を?」
「だから」
サフィートは俺の剣を指して、言った。
「おそらくその剣だ。元の持ち主がバルメイス神だったのだろうよ。だからあの妖精はバルメイス神とおまえを混同している。この要塞はバルメイス神となにか縁があるもので、だから妖精は慌てて出迎えに来たのだろう」
「なるほど……」
俺は、気がついたら自然に腰に収まっている剣を見て、首をかしげた。
「んん? でも、そんな神様の剣が誰にも抜けなかった、でも俺には抜けたってのは……なんで?」
「知るか。まあ、本来はバルメイス神にしか抜けなかったのが、なにかの偶然で抜けたのだろう。
そこの詳しいメカニズムはこの際どうでもいい。いま重要なのは、あの妖精が貴様をバルメイス神だと思っているということだ」
「つまり……なりすませと?」
「うむ。バルメイス神はあの妖精の主人筋のなにかであろう。であれば、バルメイス神が『財宝を出せ』と命じれば、おそらくは拒むまい」
「そんなにうまく行くかなあ……まあ、いいや。とりあえずやってみるか」
言って、俺たちはマイマイに抱えられたグリートの元へ戻った。
「なにも聞いてないなにも聞いてないなにも……」
「おい、もういいぞ」
「ひいっ! な、なにも聞いてないですよ! バルメイス神になりすましとかそんな単語は!」
「…………」
「…………」
「…………?」
「聞いてたのか?」
「聞いてないです! あ、でもおいらの耳って超高性能なんで、この要塞で立てられる物音である限り聞こえちゃうみたいな」
「おいおっさん、どうする?」
「ふむ。……グリートよ、貴様はこの男をどう見る?」
「へ? ですからバルメイス神でしょう?」
「…………。
さっき聞いた言葉は?」
「さっき聞いた言葉がなにか?」
「いや、だからなりすましという……」
「やだなあ、なりすましでその剣が抜けるわけないじゃありませんか。鍛冶神ナスピエッサ様がバルメイス様のために鍛え上げた、専用の神剣ですよ?」
グリートはきょとんとしたまま、さも当然という風に言った。
「……どうする? おっさん」
「まあ、それでこやつがいいと言うならいいのだろうよ。で、グリートよ」
「は、はい」
「見ての通り、バルメイス神は大巨人どもの奸計にかかって記憶が混乱していてな。このシジン要塞とやらの情報を話してもらおう」
「なるほど! わかりましたっ」
グリートはしゅたっ、と姿勢を正して言った。
『大治癒』(メジャー・ヒーリング)
種別:秘儀 習得難易度:27 知名度:A 普及度:C+
大秘儀の中でもトップクラスに普及しているもの。疲労の回復や怪我の治療を行う。
習得難易度が高めなことからわかるように、普及はしているがちゃんとした難しい秘儀であり、これを使えるサフィートはたしかにきちんと修行を積んだ神官補なのだということがわかる。




