二日目(12):悪党、遺跡へ着く
ごろごろごろ……ずしん!
「ぐええっ!」
「あ、ライ兄ちゃん! 大丈夫だった!?」
「おう」
マイマイの言葉に、うまく着地した俺はうなずいた。
縦穴がまっすぐだったらやばかったくらいの距離だったが、途中で曲がっていたのは不幸中の幸い。うまく転がり落ちるようにして、怪我もなく足から着地することができたようだった。
着地地点にサフィートのおっさんがいたので、クッション性もばっちり。
「ぬ、ぬぐぐ、重い……こら小僧! さっさとどかんか!」
「んー、なんか弧竜の攻撃のせいか耳が遠いなあ。ぜんぜん聞こえん」
「大変だ、ライ兄ちゃん! じゃあ治るまでそこを動かないのがいいと思うよ!」
「いいかげんにせんかあっ!」
「うわっ!」
俺をはねのけて、下にいたサフィートはどなった。
「なんだよ。腰がどうとか言ってたけど、全然動けるじゃん」
「あれだけ足蹴にされれば怒りで腰も治るわ!」
「都合のいい身体だなあ。弧竜に対しても、そのくらい動いてくれればよかったのに」
「……意外と余裕だな小僧。さっき死にかけたというのに」
「まあな。年長者だし、ガキの前で情けない醜態はさらせないだろ」
「その言葉は嫌味か! というか、まず貴様らはより年長者である私を敬う心を持て!」
「あいにくだが、年齢で人を差別してはならないってのがクラックフィールド家の家訓でな」
「また家訓か。おまえの家の家訓はいくつあるんだ?」
「俺が家長だからな。俺が作れば無限にあるだろ」
「やはり思いつきか貴様!」
「そんなことより状況を整理しようぜ。ここ、どこだ?」
ぷんすかしているサフィートを手で制して、俺はきょろきょろとまわりを見回しながら言った。
宝石虫の作った縦穴は、どうやら、まったく別の穴につながっていたようだった。
あたりはほんのりと薄明るく、壁には古代の文字とおぼしきものでなにかが掘られている。明らかに人工のスペースだった。
「不幸中の幸いで、目指していた洞窟に入れたのかな」
「きっとそうだよっ。やった、やった! 洞窟探検だ!」
はしゃいでぴょんぴょんするマイマイ。
一方、それよりは抜け目ないのがサフィートである。
「壁の文字は……神聖文字か。やはりな」
「知ってるのか、おっさん?」
「知識だけはな。神話の時代に使われていた文字で、意味を理解して描くだけで神秘的な力が発動するのだとか」
「へー、すごいな」
「だがその意味ももうとうの昔に失われた。それに、その力は魔人たちに伝えられていてな。我々、神殿からは魔術と分類されて、現在の使用は禁止されている」
「そうだね。それに、神聖文字は書くために生命力みたいな力を消費するから、下手に子供とかが使ったらそれだけで命の危険があるんだよ。だから魔人たちも、普通は使わないんだ」
マイマイが、サフィートの解説にそう付け足した。
「それが大量に掘られているこの洞窟は、つまり……」
「間違いなく神話時代、二千年以上前の遺跡だね! やったー、大当たりだ!」
マイマイは大はしゃぎしている。
俺は小声で、
「これ、どう思う? おっさん」
「……そうだな」
サフィートはあごひげをしごきながら、
「まあ、神秘の残る遺跡ではあるのだろうよ」
「じゃあ、お宝は?」
「そうだな……まあ、まだわからんが」
サフィートは腕を組み、
「こんな簡単に入れる遺跡なら、どうせ我々より前に誰かが入ってるのではないかな?」
「あー……」
いかにもありそうな話である。
というか、シンが言っていた。魔人たちは、この草原を隠密魔法を使って突破し、北へのショートカットとすることがあると。
なら、当然その途中にあるこの洞窟にも、たどり着いているだろう。
「無論、探索が完全に済んだ洞窟かどうかまではわからんがな。期待はしすぎず、さりとて諦めずというところではないかな」
「ま、そんなもんだよな……それに、探索済み洞窟なら危険も少ないだろうし」
「油断するなよ。魔物はどこにでも湧いて出る。特にこういった、人がほとんど立ち入らぬところにはな」
「わかってるよ、おっさん。とりあえず、このバンダナと枝は取ろう。もうお役御免だろうし」
「おお、そうだった」
いそいそとバンダナを外す二人。
「よし、じゃあマイマイ、返すぞ……って、マイマイ?」
いない。
「すっごおおおおおい! ねえ、みんな早く来てよ! すごいのがあるよ!」
遠くから、そんな声が聞こえてくる。
俺とサフィートは、顔を見合わせて、
「おい。あいつ実は、なにも考えてないのか?」
「わからんか小僧。あの娘、宝なんてのは口実で、ただ単に探検遊びがしたいだけだぞ? 我々のように損得で動いてないから、考える必要を感じておらんのだろうよ」
「……だろうね」
二人で同時に、ため息をついたのだった。
【簡単な追記】
マイマイは「神聖文字を書くには生命力『みたいな力』を消費する」という発言をしていますが、この『みたいな力』の正体は、生命体の魂が持つ運命力です。
魂が身体になじみきっていない子供が使うとそのまま魂ごと持って行かれて死ぬ危険がありますし、大人でも何文字も書いたら生命の危機に直面しますが、基本的には一時的に運が悪くなる程度の反作用しかありません。
が、この事実を正確に知っているのは魔人でもかなり特殊な人々に限られます。実は神殿側から魔人たちに箝口令が敷かれていて、そのためあまり広まっていないのです。だからマイマイも、詳しいことは知らなかったわけですね。




