二日目(8):悪党、見聞を広める
「さ、そんなことより本題に入ろう。今後の案件だったよな。サリ、トゥトはなんて?」
「うん。有力な抜け道を当たってみたらしいんだけど、そこで岩巨人の集落に突き当たったって」
サリが言うと、みんなが顔を見合わせた。
「岩巨人だあ? はるか北東の帝国じゃあるまいし、ここは人間領のど真ん中だぞ? なんで岩巨人の集落なんてものがある?」
バグルルの言葉に、サリは短く答えた。
「ケセイの岩棚にあった、古い遺跡群に住んでいるみたい。もしかしたら、過去の戦争で出た難民の末裔かも」
「ケセイの岩棚。『くらやみ森』を東西に分ける、巨大な大断崖……ですか」
ハルカは唄うように言った。
コゴネルは腕組みをして、
「なるほど。あそこなら人里から大きく離れてる。それに、たしかに岩巨人族の戦争があったな。百五十年くらい前だったか」
「継承戦争か。このメンツでその当時を知るのはハルカくらいだろうが……その頃の難民が人間領の辺境に住み着いて、周辺から孤立して生活しているというのは、あり得ない話じゃねえな」
バグルルの言葉に、テンはうなずいた。
「ふむ。大陸西部は人間たちが支配しております。小人族も巨人族も、この場では人間たちの法に従い、基本的には友好的なはずですが……
岩巨人族。それも北の帝国からの難民となると、人間と敵対的である可能性もありますな。いやはや、これは難しい」
「トゥトは、どうすると?」
シンの問いに、サリは答えた。
「まずは友好的に交渉を持ちかけるって。それで決裂した場合には、今度は潜入して抜け道を探すつもりみたい」
「べつの迂回路を探すのは?」
「ありだけど、まずは可能性を探ってみるって言ってた。他の迂回路にこれと同等以上のリスクがある可能性だって、ないわけじゃないからって」
「そうか……どのみち、連絡待ちになるのか。いつ頃になるかな?」
「定時報告が間に合うなら、明日の朝。それが無理なら昼以降。夜までかかったら事故を疑ってくれって」
サリはすらすらと答えた。
センエイは舌打ちして、
「結局待ちの一手か。好きじゃないなあ」
「自然災害が原因だから、仕方ないね」
「本当かあ? 案外、トンネル崩落の仕掛け人が妖術師のせいって可能性はないかね。我々と岩巨人をはち合わせして時間をかせぎ、あわよくば共倒れさせようと企んでるとか」
「たとえそうだとしても、僕たちの状況はなにも変わらないよ。『待ちの一手』のままさ」
「ちっ、つまらん」
シンの正論に、センエイは毒づいた。
それから彼女は、名案を思いついたように顔を上げた。
「じゃあ竜退治しようぜ竜退治! あの弧竜って奴、討てばいい金になるぞう!」
「また無茶苦茶なこと言いやがるな、この女……」
「なんだよペイ、びびってんのか? 大丈夫だって。私たちの戦力なら十分勝てるってーの!」
「たしかに」
口を開いたのは、ハルカだった。
「勝てはするでしょうね。いかに相手が竜母と変じる寸前まで成長した古き竜と言えども、この度の戦力ならば勝ちの目は十分にあります」
「お、意外とノリいいじゃんハルカ! じゃあ――」
「ですがセンエイ。忘れていませんか? いまは王命を受けて仕事中です」
ぴしゃり、とハルカは言葉をかぶせた。
「ただでさえ竜が相手となれば、損害なしとは行かない可能性が高い。王によって重要な命を託されていながら、副業気分で気軽に竜退治にチャレンジして戦力を損なったとなれば、信用問題に発展しかねない。さらに、隊商を巻き込む可能性があるのもお忘れなく」
「ちぇっ。真面目ちゃんめ」
センエイは舌を出して、むくれたように座り込んだ。
そのそぶりからすると、たぶん彼女も本気で言っていたわけではないのだろう。
(とはいえ、勝てるのかよこいつら。あの竜に……)
王命を受けた、とも言っていた。どうりで、素人離れした雰囲気の集団なわけだ。
逆に言うと、その彼らが敵対し、警戒する『妖術師』というのがいかにヤバい奴か、ということにもなるのだが……
「さて、そういうわけで、待機という方針にはだいたい皆、賛同が得られたと思う」
「まだ賛同してないもーん」
「センエイは黙って。とりあえず、待っている間にできることをやっておきたい。なにがある?」
シンの言葉に、みんなは顔を見合わせた。
「はいはいはーい! あたしは探検したいです!」
「うん。マイマイ、そういう遊びはもうちょっと安全圏に行ってからね?」
「なによー。楽しくないなあ」
「ほっほ。まあ、鍛錬でも準備でも、各々が各々の仕事に励めばよろしいのではないですかな」
「ちぇっ、のんきな奴らめ。そんじゃまあ、もう一つかき回す案を出してやるか。いわゆるブレインストーミングという奴だな」
「? センエイ、それはどういう意味?」
「さっきの竜退治もそうだが、全員どうも発想が硬直しているように見えるんでね。この際、言いたいことは言っておこうって話だ。
――なあ、バグルル?」
「あ?」
バグルルは眉をひそめた。……その表情からすると、話を振られるとはかけらも思っていなかったようだ。
「なんだ、何の話だ?」
「いや、ほら。隊商はとりあえずいったん置いておくとして、ライくんも怪しくはないとして。それでも、それらとは別にちょっと変な勢力が混じってるだろう?」
「……つまり、ライを連れてきた、あの聖職者たちか?」
コゴネルの言葉に、センエイはにやりと笑ってうなずいた。
「そういうこと。いや、かわいらしい神官ちゃんは疑ってないんだけどね?」
「おまえ、リッサにまで目をつけてたのかよ……」
「失敬だな! 私はサリ一筋だっての! それはそれとしてかわいい子に目が行くのは普通だろ!」
あきれた俺の言葉にむきになって反論するセンエイ。
それをスルーして、コゴネルは考えた。
「たしかに、ライの挙動に怪しい点がなくとも、ライをこの隊商に届けた聖職者たちまで怪しくないわけではないが……なにか懸念材料があるのか?」
「あー、なんとなくわかった。センエイ、おまえ『黒騎士団』の話をしてるんだな?」
バグルルの言葉にコゴネルはぎょっとして振り向き、センエイは笑った。
「おう。おまえも一時期あそこにいたんだろ? バグルル」
「まあ、いたっちゃいたけど。しかし、どこまで知ってるんだ? あんな厄ネタ、掘り返すのは相当な物好きだけだと思ってたんだがな」
「私だって多くは知らないよ。神殿の秘匿レベルが高すぎてな。とはいえ、主要な参加者だけは押さえてる」
センエイは、少しだけ真面目な顔でそう言って、それから続けた。
「スタージン。『石弓』のパゼット・スタージン。黒騎士団の元エース格様が、なにが楽しくてこんな辺境を散歩してるんだ? しかも、よくわからん供を二人連れてだ」
「俺だってわからねえよ。パズの奴とは、ここしばらくまったく連絡取ってねえんだし」
バグルルは憮然として言った。
「が、『妖術師』の味方をしているという線は、まずないだろうさ。俺の主観だけどな」
「主観で結構。だが一応聞いておこう。根拠は?」
「あいつは皮肉屋で冷笑的だが、それにもかかわらず本質的には信仰篤くてクソ真面目なんだよ。一番出世できないタイプだって、団の中でもよくからかわれてた」
「なるほどな……」
「僕からも追加情報、いいかな」
手を上げたのは、シンだった。
「なにかな、シン?」
「僕も、そのスタージンという人物が妖術師と接点がある可能性はないと見ている」
「なぜだ?」
「だってそうだろう。妖術師からすれば、かの人物はある意味で致命的だ。絶対に関わって欲しくないタイプだろうさ」
シンはそう言って、肩をすくめた。
「僕には感知できる。彼は未だに、現役の聖騎士としての資格を保っている。その点だけを取れば、彼は妖術師にとって誰よりも恐ろしい敵なんじゃないかな」
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このシンの発言以降、センエイは沈黙し、後は無難に夜の歩哨の当番だけを決めて、会議は解散となった。
俺にとってはわからないことだらけだったが、あまり深入りするつもりもない。
ただ、この隊商にとんでもない戦力が集結していること、それだけは確かなようだった。




