二日目(6):悪党、また死にかける
さて、魔人たちの馬車は彼らの言うとおり、隊商の最後尾にあった。
誰かに聞けばすぐわかると言っていたが、誰に聞かずともわかる外観だった。
なにしろ。
「……。か、海藻……?」
よくわからないぬめぬめとした葉っぱのようなものが大量に垂れ下がった馬車に、俺は圧倒された。
なんだこれ。なんだこれ……
とりあえず、混乱する頭を整理する。
(昼休み終わったらなるべく早く来いよ、と言われたけれど……)
少し時間を食ってしまった。スタージンやリッサと話した時間が長すぎたのだ。さすがに、そろそろ行かないといけない。
いけない……のだが。
(この馬車にお邪魔するのはなんか、微妙に度胸がいるなあ……)
とりあえず、おそるおそる葉っぱのひとつをつついてみる。
と、ぴくっ、と葉っぱが反応した。
「……うん?」
つんつん、ともうちょっとつついてみる。
ぴくぴく、と葉っぱが反応して動いた。
こしょこしょ、とやるとぴくぴくぴくぴくぴくーっ、と大きく動いた。
おお、なんか面白いぞこれ。
「でもたぶん地雷案件だよなこれ。おとなしく入るか……」
「らーいーくんっ」
「のわあっ」
がばあっ、と後ろから抱きつかれた俺は悲鳴を上げた。
「なんだよなんだよ度胸ねえなーおい! さっさともっといたずらしてひどい目に遭えばいいのに!」
「誰がやるかボケ! あとしれっとナイフ突きつけてんじゃねえ殺人占い師!」
案の定、この奇天烈行動を行っていたのは、昨日俺を殺そうとした魔女だった。
「ていうかなんで俺の名前知ってんの? 怖いんだけど!」
「いや、そりゃあ昨日あれだけ暴れれば私の耳にも入るっつーの。私だって不本意だよ」
「ひでえ言い草だな! なら関わってくるなよ!」
「そっちがそうでもこっちはそうとはいかないんだよ。わかったら適当に悪さをして、この相手の敵意に反応して攻撃する召喚獣『ワカメラーケン』の実験台になって死ね」
「どうせそんなこったろうと思ったよ畜生!」
つまり、さっきぴくぴくしてたのはあれか。刺激が敵意かどうかを判別できずに迷ってただけか。
「ていうかこーろーさーれーるー! 助けて!」
「いやいや馬鹿を言うなよ。今回は私もさすがに殺す気はないって」
「だったらその物騒な刃をしまえよ!」
「やだなあ、これはただの挨拶だろ。あ、ひげ剃る? いまならほっぺの生皮剥がしのおまけ付きだけど」
「全力で断るわ! つーか、俺はまだほとんどひげ生えてねえよ!」
「ぶっちゃけ、どの程度傷つけたらサリの予知能力が反応するかに興味があるんだよねえ。だからやっぱライくん、うちの召喚獣の餌になってみてくれない?」
「嫌だっつってんだろ!」
「ちぇっ」
ぶーたれながら、魔女はようやく俺から離れてくれた。
俺は距離を取って警戒しつつ、
「ていうか、いまさらっと妙なことを言ったな。予知能力?」
「ああ」
「たしかおまえ、センエイっつったか。おまえの占いならともかく、サリがそんなもの持ってるのか?」
「持ってるんだよ。だから私はおまえを殺せないんだ。だって本気で殺す気を出そうものなら、サリが予知できて、結果として阻止されてしまうからな」
「へえ……」
「まあこの世に完璧な予知能力なんてあるわけもなし、サリにも予知できないことがあるみたいなんだけど。なのでためしに殺してみるかあ!」
「やめろナイフ持って朗らかに近寄ってくるな! サリー! 助けて、サリー!」
「呼んだ?」
「うわっ!?」「ふひゃあああ!?」
突如として横から声をかけてきたサリに、俺とセンエイはそろって声を上げた。
ていうか、いま、明らかになにもないところから出現したように見えたぞ……?
「い……いつからそこに……?」
「その召喚獣でライが遊んでいたあたりから」
「最初からかよ! なら助けてくれればよかったのに!」
「殺されそうにないから、特になにもしなくてもいいかなって」
サリはあっさり言って、そして馬車へと入っていった。
後に残されたセンエイはふるふると打ち震えながら、
「気づけなかった……この私が……あの距離で……なんて精度の隠形……」
「まあ……たしかに、ちょっと怖かったな」
「素晴らしい! さすがはサリ!」
「……おい?」
「抱かれたい。いやむしろ抱きたい! あの素晴らしいミニマムで高性能な身体を思うがままに堪能して堪能されたい! ああサリ、愛してるよ!」
「おまえそっち側か!」
「そんでなんかサリに好印象持たれてるっぽいライくんはやっぱりムカつく。いつか殺す」
「そんな理由で殺されたくねーよ!」
こうして。
俺はこのレズビアン魔女、センエイから命を狙われることになったのであった。
……理不尽極まりないので誰かなんとかしてほしい。




