二日目(2):悪党、バテる
「ちょっと深入りしすぎたかなあ……」
広い空を見ながら、俺はつぶやいた。
「なんだよ、繊細な奴だな。いいじゃねえか、自分から話してくれたんだからよ」
「そうだけど、なんか余分なことを言わせちゃった気がするんだよ」
シンに対して気軽に踏み込んだ質問をした結果、相手がシンの師匠だということがわかってしまったわけだが。
「相手との関係が関係だから、変に隠し立てしたら仲間内での立場が悪くなるんで、言わざるを得なかったのかもなって。言い方も軽かったけど、意図して重くならないように配慮させちゃった気がする」
「なんだこいつ、真面目か?」
「ほっほ、よいではないですか。少なくとも頭が回って気遣いができるということ。行動を共にする上で、悪いことではありますまい?」
「……ところで、おまえら誰だよ? なんの用だ?」
さっきから話してた相手に言うと、相手はがははと笑った。
「おう! へばってるところ悪いが、クランのじいさんからちびすけを連れてくるように言われてな! それでやってきた!」
「だれがへばってるって……うおえ、気持ち悪い……」
まだ視界がぐらぐらする。
が、なめられたら負けである。俺はさっきまで振っていた剣を杖がわりにして、倒れた状態から無理矢理立ち上がった。
なんでこんなことになっているかと言うと、当然ながら、シンに稽古をつけてもらった結果である。
実を言うと、シンの稽古メニューはとても単純で、『素振り』だけだった。
『長剣は短剣と違って、回転する力が作用する部分が身体から遠くて、その分大きい力が働く。
だからきっちりフォームを身につけないと、振り回したことが原因で怪我することがあるんだ。毎日やって、とりあえず基本の形をきっちり身体にたたき込まないとね』
という、彼の言い分には納得している。俺だって、一日の稽古でいきなりド派手な必殺技を教わると思っていたわけじゃない。
ただ、中途半端に体力に自信があったせいで、シンが提示した『各種の振り方をそれぞれ百回』というのをバッチリ無視して各二百回くらい振った結果、完全にバテていまに至る。
恐ろしかったのは、俺が縦に斬るフォームをようやく二百回終える頃、横で木の棒を振っていたシンが首をかしげて、
『あれ、いまの1261回だっけ、1262回だっけ……まあいいや、一回くらい』
とつぶやいていたことである。
どんだけやってんだよ。あと、どんだけ速いんだよ。
「魔人ってみんなあんなに強いのか……?」
「あ? 人によるだろ。俺やシンは剣使いだから鍛えてるけどな」
「ほっほ。わたくしは道具の整備が仕事ですからねえ。それほど身体は強くありませんよ」
俺の言葉に、口々に答える二人。
剣使いと名乗った方は筋骨隆々の大男で、脳筋という言葉の擬人化みたいな外見だった。防具は簡素な肩当てと膝当てくらいだが、シンと違って人の背丈近くもある大剣をこれみよがしに背負っていて、実に物騒である。もしかすると、ナメられないように意図的に演出しているのかもしれない。
もう片方のじいさんは小柄な体躯で、頭はハゲているがひげはふさふさで、もうちょっと小さければ岩小人と間違えそうな外見である。服装は普通の街のじいさんと変わらない。腰になにか道具入れのようなポーチを用意しているのが唯一の特徴だろうか。さっきの言葉によれば『道具の整備』に特化した魔人、ということなのだろう。
「あー……えっと、名前は?」
「おう! 俺はバグルル。バグルル・アングストンだ! よろしくな、坊主!」
「わたくしはテンと申します。本来の名はこの地方の民としては長いので、どうかドクトル・テンとお呼びください」
「そっか……」
「坊主の名前は?」
「ライナー・クラックフィールドだ。ライで通ってる」
「そっかそっか! いい名前だ、ライ!」
ばあん、と、豪快に背中を叩かれて俺はよろめいた。
「ごふっ……!?」
「さ、じゃあ行こうぜ。クランを待たせるのも悪いしよ」
「わかったわかった! わかったから引っ張るなって! いま全身の肉がぷるぷるしてるんだから!」
「ほっほ。では、後で筋肉の疲労を取る霊薬でも処方してあげましょう。さ、行きますよ」
というわけで、俺は疲れた身体を半分引きずられるようにして、隊商の中心に向かった。




