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存在  作者: 紫
3/5

恋人

僕の恋人だった人の話をしよう


彼女は気高い人だった

あまりにもその生き方は真っ直ぐで迷いがなく、

拍手も喝采も、その全てを受け止める事の出来る誇り高き人だった。


安穏と日々を消化する僕にとって、その背中はどれだけ眩しく見えただろう

その強さに憧れ、その道を歩みたいと願う事が出来た。

あの時彼女に出会わなければ、僕は今でも道を見失っていただろう


彼女を守ろうと僕は頑張った

でも彼女はそれを拒んだ。

僕だけが頑張る事を許してくれなかった

二人は二人で歩ける分だけ前へ進むようになった。


その歩みの中でいろんな人に出会う事が出来た。

その中で、彼女は多くの人を救った。

感謝も喝采も、全て受け止めて二人で歩いた。


いつからだろう、彼女の誇りが眩しくて、そうありたいと願うようになったのは

いつからだろう、彼女の優しさが羨ましくて、そうありたいと願うようになったのは


まるで子供向けの絵本のように幸せな結末を見せつけられた。

そこには虚言も戯言もなく、純粋に幸せに満ち溢れた世界があった。


僕は世界の在り方をこう思う。


出発の朝はいつもどしゃ降りの雨だ。

その雨を浴びて、綺麗になる人

その雨を拒み、傘をさして守る人

その雨を貯めて、生きる糧にする人

いろんな人がいろんな形で旅に出るんだ


こんな取留めの無い事を呟いた時、彼女はこう言った。


『晴れの日を出発の日にすれば良い。

悲しい事や辛い事を経験すれば人は強くなれるという幻想が私は嫌いだ。

それは悲しい事や辛い事を経験した事が無い人が吐いた妄言。

始まりから終わりまで幸せなら、それに勝る幸せなんてないよ』


あぁ なるほど・・・


知らない事は罪だ。でもその罪すらも分からなければ、そこには幸せしか残らない


声が出ない、息が出来ない、目眩がした。


彼女は幸せにしたいと思う人を助けた。

彼女は幸せに出来る人だけを助けた。

その姿勢に一片の曇りもなく、間違いもなかった。

彼女の歩みには日溜まりしかなかった。


僕は幸せにならなければいけないと思う人を助けた。

僕には不幸を背負った人が目に付いた。

その姿勢は決して間違いではなかったと言える。


ただ、僕と彼女は似ているようで、本質がまるで正反対


この物語の終幕をはじめよう


彼女は気高い人だった

あまりにもその生き方は真っ直ぐで迷いがなく、

彼女は日溜まりだけを歩み続けた。

たくさんの幸せのために、一人を犠牲にする事になろうとも。


ただ一度だけ、その一人を助ける事になってしまった。

そして、その一人が僕だっただけの話だ。

その結果を彼女がどう受け止めたのかを僕は今でも知らない。


過去は精算できない。忘れる事もやり直す事も出来ない。

だがそれでも望んでしまう事がある。


あの時彼女に出会わなければ、僕は今でも道を見失っていただろう

あの時僕に出会わなければ、彼女はただ一度の失敗を犯す事も無かっただろう。


だから・・・


あの時差し出された手を、繋いだまま歩み続けた日々を

これで終わりにしよう。


それが彼女の望む幸せの形とは違うとしても、

それが自己満足の幸せだとしても



それが二人の終着駅。



これはそんな二人の話。


さて、君達は話を聞いてどう思うだろうか?



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