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女騎士団長が、蛮族にくっ…殺せ!と言う話  作者: 三ツ星行雲


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第2話女騎士団長、荒野の嫁生活を満喫中!

乾いた熱風が赤茶けた大地を撫で、巻き上がった砂ぼこりがじりじりと照りつける太陽の光を霞ませる。かつてセリアが守護していた、整然と石畳が敷かれた都市とは対極にある、過酷で、しかし命の熱気に満ちた荒野。ここが、バルドを長とする部族の拠点であった。


セリアは、太い丸太と獣の毛皮で組まれた天幕の下で、静かに目を閉じていた。今の彼女が纏っているのは、都市の高度な技術で作られた洗練された絹や白銀の甲冑ではない。なめした丈夫な革と、通気性の良い麻布を組み合わせた、荒野を生き抜くための実用的な衣服だ。日に焼けた肌には薄く砂埃が付き、かつての優雅で冷徹な騎士団長の面影はすっかり鳴りを潜めている。しかし、その表情は過去のいかなる時よりも穏やかで、内側から湧き出るような生命力に満ちていた。


そっと、彼女は自身の腹部に手を当てる。そこには確かな命の鼓動が宿っていた。

「……きっと、あなたに似た逞しい子が生まれるわね」

誰にともなく呟くと、天幕の奥から巨大な影がゆっくりと近づいてきた。バルドだ。彼は無骨で分厚い手で、セリアの肩を優しく抱き寄せた。

「俺の子だ。岩山のように頑丈な男に育つに決まってる。……だが、お前のように賢く美しい娘でもいいさ」

バルドの低く地鳴りのような声が耳元を震わせる。出会った当初は恐怖と絶望の象徴でしかなかったその圧倒的な体躯は、今やセリアにとって、世界で最も安心できる揺り籠となっていた。


集落へ目を向ければ、かつての部下たちの姿があちこちに見える。百名いた女騎士たちは誰一人欠けることなく、この荒野の生活を逞しく受け入れていた。水汲みを手伝う者、狩りの獲物を慣れた手つきで解体する者、そして、部族の男たちと肩を並べて大声で笑い合う者。彼女たちもまた、祖国に貢ぎ物として切り捨てられた絶望を乗り越え、この力強く裏表のない男たちの中に新たな居場所を見出していた。すでに多くの者が互いを認め合い伴侶を得ており、集落は以前にも増して活気に溢れている。


陰謀と裏切りに満ち、常に誰かの顔色を窺いながら生きていた都市での暮らしに比べれば、この荒野での日々はどれほど魂が満たされていることか。

バルドの厚い胸板に身を預けながら、セリアは静かな幸福を噛み締めていた。

しかし、その完全な安らぎの底に、時折、微かなさざ波が立つことがあった。


『お姉様……どうか、ご無事で帰ってきて』

討伐への出立の朝、涙をこらえて自分の手をきつく握りしめた、うら若き少女の顔が脳裏に浮かぶ。

都市の王族の血を引く、美しき姫君。彼女はセリアを実の姉のように慕い、いつも城の中で後をくっついて歩いていた愛らしい少女だった。セリアが死地へと送り出された背後にある醜い権力闘争など、箱入り娘である彼女は何も知らなかったはずだ。今頃、一向に帰らぬセリアを想って、冷たい石の城の奥深くで泣き崩れているのではないだろうか。自分が生きていること、そしてこんなにも幸せに暮らしていることを伝えられないのが、セリアの胸をチクリと痛めつけた。


そしてもう一つ、厳格だった両親のことだ。代々都市の防衛を担う騎士を輩出してきた誇り高い家柄。もし、自慢の娘であったはずの自分が、こうして敵であった蛮族の長に嫁ぎ、毛皮を纏って野宿同然の生活を心底楽しんでいる姿を見たら、彼らは一体どんな顔をするだろうか。

「……きっと、言葉も出ずに卒倒してしまうわね」

思わず自嘲気味な苦笑いが漏れる。不甲斐ない娘、一族の恥晒しだと罵られるかもしれない。それでも、セリアは今の自分の選択を後悔することは絶対にないと言い切れた。


「どうした? 腹が痛むのか」

バルドが怪訝そうに覗き込んでくる。

「ううん、何でもないわ。ただ……少しだけ、昔を思い出しただけよ」

セリアが微笑んで首を振った、まさにその時だった。


「バルド様! 大変だ!」

見張りの塔に立っていた部族の若者が、血相を変えて転がり込んできた。その切羽詰まった声に、平穏だった集落の空気が一瞬にして張り詰める。

「どうした、騒々しいぞ」

「東の砂丘の向こうから、軍勢が……! 鉄の鎧を着た奴らが、真っ直ぐこっちに向かってきてます!」


その言葉に、セリアの心臓が大きく跳ねた。

バルドが立ち上がり、天幕の外へ出て東の空を睨みつける。セリアも彼に続いて外に出た。

遠く、陽炎が揺らめく地平線の彼方。そこからもうもうと巨大な土煙が上がり、太陽の光を反射してギラギラと不気味に光る無数の点が見えた。セリアに見間違えるはずもない。規則正しく重厚な隊列を組んで進軍してくるあの陣形は、間違いなく都市の正規軍だった。


「……あれだけの数、ただの偵察や嫌がらせじゃねえな。本気でこの地を根絶やしにする気か」

バルドの目が、愛妻に向ける優しいものから、獰猛な戦士のそれへと一変する。

和睦の使者などではない。それは明白だった。大臣たちは、献上したはずの女騎士団が一向に戻らないこと、あるいは部族が彼女たちを取り込みさらに強大化したことを危惧し、今度こそ大軍を動かして圧倒的な暴力で全てを焼き払う腹積もりに違いない。


「野郎ども、武器を取れ! 歓迎してやるぞ!」

バルドの咆哮が荒野に響き渡る。その声に呼応するように、部族の戦士たちが地を揺らすほどの雄叫びを上げ、武器を手に集まってきた。かつての女騎士たちも、すかさず剣や弓を手に取り、自分たちの伴侶と並び立つ。もはや彼女たちは都市に縛られた従順な騎士ではなく、この荒野に生きる部族の女戦士だった。


セリアは、遠く迫り来るかつての祖国の軍勢を見つめた。

あそこに、彼女を慕った姫の姿はないだろう。厳格だった両親もいないはずだ。そこにいるのは、自分たちを都合のいい捨て駒としか見ていなかった欲深い権力者たちの手先だけだ。


「セリア、お前は天幕の奥に下がっていろ。俺の子に障る」

バルドが戦の前に、一度だけ愛おしげに彼女の頬を撫で、前へ出ようとする。しかし、セリアはその大きな手を両手で包み込み、力強く首を振った。


「いいえ。私も戦います。私はもう、あの腐敗した都市の騎士団長ではありません。あなたと共に生き、あなたの子を産む、この部族の女です。私たちの居場所を脅かす者は……誰であろうと容赦はしません」


かつて彼女を守っていた白銀の鎧はもうない。手にあるのは、バルドが彼女のために用意してくれた、飾りのない無骨で重い剣だけだ。しかし、それに込められた覚悟は、騎士であった頃の何倍も重く、鋭く研ぎ澄まされていた。

土煙が徐々に形を成し近づいてくる。地鳴りのような行軍の足音が、風に乗って微かに響き始めた。

セリアは愛する男の隣で、一切の迷いのない眼差しで地平線を睨み据えた。腹に宿る新たな命と、愛する夫を背に、彼女は真に守るべきもののために再び剣を握りしめた。

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