表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普通の青春をしたいだけなのに、隣の席も幼馴染も全然“普通”じゃない。~つくば市の県立高校に入学した俺は静かに青春するはずだったのに、隣の席の毒舌美少女と世話焼き幼馴染が放っておいてくれない~  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/81

第73話 気づいたやつは、今度は“被害者ぶらない形”で圧をかける

露骨に被害者ぶるやつは、まだ分かりやすい。


 俺は何もしてないのに、とか。

 なんで俺ばっかり、とか。

 そういう言葉を前に出してくれるなら、まだこっちも「いや、そういう話じゃないだろ」と返しやすい。


 厄介なのは、そこをやらないやつだ。


 被害者です、という顔はしない。

 でも、少しだけ困ってるように見せる。

 責めてはいないと言いながら、ちゃんと相手へ視線を向けさせる。

 “自分は普通にしてるだけなんだけど”の形で、周りに圧だけを残す。


 そういうやつは、たぶん本当に面倒くさい。


 そして黒崎蓮司は、やっぱりそっち側だった。


 別の先生の目が少し入った。

 教室の空気は少し固くなった。

 その変化に、黒崎が気づかないはずがない。


 なら、次に何をするか。

 たぶん、わりと嫌な方向へ賢くなる。


 朝の教室は、見た目だけなら穏やかだった。


 木乃実はいつも通り元気だし、佐伯は相変わらず眠そうだし、三田村も最近ではかなり落ち着いている方だ。エヴァは必要な時だけ会話へ入る顔で静かに座っていて、朱音は朝から妙に黒崎の方をよく見ていた。


 そして黒崎は、今日も感じがよかった。


 感じがいい、のだが。

 今朝はそこへ、ほんの少しだけ別の匂いが混ざっていた。


「神代くん」


 木乃実が振り向く。


「何」

「今日、黒崎くんちょっと違う」

「……」

「何が」

「何か」

 木乃実は頬杖をついたまま首をひねる。

「普通にしてるんだけど、“俺べつに何もしてないけど?”がちょっと濃い」

「……」

「図星っていうか」

 僕は苦笑した。

「それ、たぶん僕も思ってた」

「でしょ?」

「うん」

「最近の神代くん、ほんと顔に出る」

「その標語まだ生きてるのか」

「かなり元気」

「しぶといな」


 後ろから佐伯も入る。


「俺も思った」

「何が」

 僕が聞くと、佐伯は肩をすくめた。

「黒崎、朝からちょっと“気を使ってる側”っぽい」

「……」

「気を使ってる側?」

 木乃実が聞くと、佐伯は眠そうな顔のまま言う。

「何か最近、周りの空気が固いの、自分も感じてますよ、って顔」

「……」

「うわ」

 木乃実が顔をしかめた。

「それ、一番だるいやつ」

「かなりな」

 僕が答える。

「しかも被害者です、とは言わない」

「うん」

「でも“俺もやりづらい”は薄く置く」

「……」

「それ」

 佐伯が言う。

「今の黒崎、やりそうだろ」

「やりそうだな」


 少し離れた席から、エヴァの声が届く。


「予想通りですわね」


「何が」

 僕が聞くと、エヴァは平然としている。


「“普通にしているだけなのに、なぜか変に見られている側”の空気です」

「……」

「朝から言い切るな」

「言い切れます」

 エヴァは淡々と続けた。

「別の先生の目が入りました」

「うん」

「教室の空気も少し固くなった」

「うん」

「なら次は、自分が加害の顔をしないまま、やりづらさだけ周囲へ置く」

「……」

「何ですの」

「いや」

 僕は息を吐いた。

「やっぱり君、そこを本当に迷わず切るなって」

「迷う理由がありません」

「強いな」

「必要なので」

「便利な理屈だ」

「あなた方ほどではありません」


 朱音は、その会話を聞いて露骨に嫌そうな顔をした。


「それ、ほんと嫌い」

「何が」

 僕が聞くと、朱音は腕を組む。

「被害者ぶらない被害者ムーブ」

「言い方が強いな」

「でもそうじゃん」

 朱音は黒崎の方を見たまま言う。

「“俺は普通にしてるだけ”って顔で」

「うん」

「周りに、“なんか最近こっちもやりづらい”って思わせるやつ」

「……」

「そこが嫌」

「かなりな」

 僕が答えると、朱音は小さく頷いた。

「でしょ」


 一時間目のあと、その“やりそう”は思ったより早く来た。


 休み時間。

 教室の前の方で、黒崎が男子二人と話している。

 大きな声じゃない。けれど、近くにいると十分聞こえるくらいの音量だ。


「いや、別にさ」

 黒崎が笑う。

「俺は普通にしてるだけなんだけど」

「うん」

「最近ちょっと、気使うんだよな」

「何に?」

「いや、何か」

 黒崎は肩をすくめる。

「いろいろ見られてる感じあるじゃん」

「……」

「え、そうなん?」

「いや、分かんないけど」

 黒崎は笑っている。

「でも、最近クラスちょっと固くね?」

「あー」

「それはちょっと分かるかも」

「……」


 言い方が、うまい。


 誰かの名前を出していない。

 責めてもいない。

 でも、“自分もやりづらい”“クラスが固い”だけは置く。


 それでいて、全部を冗談みたいな顔で流せる。


「うわ」

 木乃実が小さく言った。

「来た」

「来たな」

 僕も答える。

「しかも思ったよりきれいな形で」

「きれいって言い方やだ」

「分かる」

 僕は苦笑する。

「でも構造としては、かなりきれい」

「最悪寄りの褒め方だな」

「かなりな」


 三田村も少し青い顔で言った。


「これ」

「うん」

「言い返しづらいね」

「うん」

「“誰が”って言ってないもん」

「そう」

 僕は頷く。

「そこがたぶん狙い」

「……」

「何だよ」

「いや」

 三田村は小さく息を吐いた。

「黒崎くん、こういうの本当にうまいなって」

「嬉しくないうまさだな」

「かなりな」


 そのあと、似たような場面がもう一度あった。


 今度は廊下。

 黒崎が別の女子と話している。


「いや、俺は別にいいんだけど」

「うん」

「最近ちょっと、何か言うと気にする人いるじゃん」

「えー」

「めんどくない?」

「そこまで?」

「いや、分かんないけど」

 黒崎は笑っていた。

「こっちも普通にしてるだけなんだけどなって」


 これだ、と思う。


 被害者ぶらない。

 でも、ちゃんと“こっちも困ってる”を置く。

 しかも“分かんないけど”で逃げ道まで用意する。


 そこまで含めて、本当に面倒だった。


 昼休み。

 後ろの棚の近くで、僕たちは自然とその話になった。


「これさ」

 木乃実が言う。

「黒崎くん、今度は“自分は普通なのに、周りが変に気にしてる”に寄せ始めたよね」

「うん」

 僕は頷く。

「かなり明確に」

「で」

 木乃実は顔をしかめる。

「そこがまた嫌」

「何で」

 僕が聞くと、木乃実はすぐ答えた。

「だって、あれ聞いた人からしたら」

「うん」

「“黒崎くんもやりづらいのかも”って思いやすい」

「……」

「しかも、本人は責めてる感じ出してない」

「うん」

「だから余計にだるい」

「かなりな」

 僕が答えると、佐伯も頷いた。

「向こう、今の空気を逆利用し始めたな」

「逆利用」

「うん」

 佐伯は言う。

「先生が増えて空気固くなった」

「うん」

「そしたら今度は、その固さを“自分も気を使ってる側”に変える」

「……」

「それ、だいぶ面倒」

「かなりな」


 三田村は少しだけ迷ってから言った。


「これって」

「うん?」

「俺たちの方が、神経質みたいに見えたりする?」

「……」

 その問いは、重かった。


 でも正直に言うしかない。


「見えるかもしれない」

 僕は答えた。

「……」

「うわ」

 木乃実が顔をしかめる。

「そこ、正直すぎる」

「ごまかしても意味ないだろ」

「それはそうだけど」

 木乃実はため息をついた。

「でも嫌だなあ」

「かなりな」

 僕が答えると、三田村も小さく頷いた。

「やっぱりそうか」

「うん」

「ただ」

 僕は続ける。

「だからって、向こうのやり方が消えるわけじゃない」

「……」

「今のは今ので、ちゃんと見とくべき」

「……」

「何だよ」

「いや」

 三田村は少しだけ顔を上げた。

「神代くん、最近そういう言い方するよね」

「どういう」

「怖いことは怖いって置いたまま」

「うん」

「でも、見るのはやめない」

「……」

「そこ、前より強い」

「……」

「それ、褒めてる?」

「かなり」

「最近そこ割合なし多いな」

「今日は本気」


 少し離れたところから、エヴァが静かに言った。


「今の黒崎蓮司は、“無実っぽさ”を厚くしていますわね」


「無実っぽさ、か」

 僕が聞くと、エヴァは頷く。

「ええ」

「何か言い方いやだな」

「嫌だからこそ正確です」

 エヴァは続ける。

「被害者です、とは言わない」

「うん」

「でも、“普通にしてるだけなのに見られている”は置く」

「うん」

「それによって、一部の人間には“神代たちが敏感すぎるのでは”と思わせる」

「……」

「何ですの」

「いや」

 僕は小さく息を吐いた。

「今の、かなり本質だなって」

「そうでしょうね」

「そこは迷わないな」

「迷う理由がありません」


 朱音は、その会話のあとで少しだけむっとした顔をした。


「じゃあやっぱり」

「何」

「今の空気、一回戻りかける」

「……」

「戻りかける?」

「うん」

 朱音は僕を見る。

「“黒崎くん別にそこまでじゃないかも”って」

「……」

「それ、出る」

「……」

「何その顔」

「いや」

 僕は素直に答える。

「そこまで読むの、ほんと嫌なくらい鋭いなって」

「長いからね」

「またそれか」

「便利だよ」

「その便利、ほんとに無敵だな」


 被害者ぶらない形の圧。

 それは露骨じゃないぶん、前より止めにくい。

 でも同時に、向こうが焦ってやり方を変えてきている証拠でもある。


 そこをどう見るかで、たぶん次の動きも変わるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ