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普通の青春をしたいだけなのに、隣の席も幼馴染も全然“普通”じゃない。~つくば市の県立高校に入学した俺は静かに青春するはずだったのに、隣の席の毒舌美少女と世話焼き幼馴染が放っておいてくれない~  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第70話 二度目の相談は、一度目より静かに重い

二度目の相談は、一度目より静かだ。


 慌てていないからかもしれない。

 あるいは、一度目で“何が足りなかったか”を知ってしまったからかもしれない。


 一度目は、違和感をどうにか言葉にしようとしていた。

 二度目は、違和感の形が少しだけ見えている。

 だから声の熱より、順番の方が大事になる。


 それはたぶん、落ち着いたというより、少しだけ重くなったのだろう。


 その日の僕は、朝からずっとその重さを意識していた。


 教室はいつも通りだった。

 誰かが筆箱を落とし、誰かが昨日の宿題を見せろと言い、木乃実は相変わらず朝からよく喋る。佐伯は眠そうな顔を崩さないし、三田村は前よりずっと落ち着いているとはいえ、緊張すると指先をいじる癖がまだ少し残っている。


 そして僕は、放課後にもう一度、遠山先生へ話すと決めていた。


「神代くん」


 木乃実が振り向いた。


「何」

「今日、かなり静か」

「そうか?」

「うん」

 木乃実は頬杖をつく。

「でも、前みたいな“考えすぎて黙ってる”静かさじゃない」

「……」

「何だよそれ」

「“もう順番決めてるから、余計なこと言わない”静かさ」

「……」

「図星」

「最近ほんとに人の顔から説明文読むな」

「神代くんが分かりやすすぎるの」

「その標語、そろそろ禁止したい」

「でも当たってるし」

「かなりな」

「ほら」


 後ろから佐伯が小さく笑う。


「今日の神代、たぶん一回目の時より怖いぞ」

「何だよそれ」

 僕が振り返ると、佐伯は眠そうな目のまま肩をすくめた。

「一回目は、届くかなって感じだった」

「うん」

「今は、届かせる順番持ってる顔」

「……」

「何だよ」

「いや」

 僕は少し苦笑した。

「おまえまでそこ言うんだなって」

「神代の周りいると嫌でも育つ」

「嬉しくない成長だな」


 少し離れた席から、エヴァの声が届く。


「一度目より静かで、一度目より重い。悪くありませんわね」


 朝から妙に核心が早い。


「それ、もう感想っていうより評価だろ」

 僕が言うと、エヴァは平然としていた。


「評価です」

「認めるんだ」

「事実ですもの」

 エヴァは淡々と続ける。

「一回目は、“違和感があります”の相談」

「うん」

「今回は、“ここまで重なっています”の相談」

「……」

「だから当然、重さが違う」

「……」

「何ですの」

「いや」

 僕は息を吐いた。

「最近の君、そこほんと迷いなく切るなって」

「迷う理由がありません」

「強いな」

「必要なので」

「便利な理屈だ」

「あなた方ほどではありません」


 朱音は、その会話のあとで机の横まで来た。


「今日、ちゃんと呼吸してね」

「急に現実的だな」

「大事でしょ」

 朱音は小さく肩をすくめた。

「恒一くん、こういう時たまに息浅くなるし」

「見てるなあ」

「見るよ」

「そこまで分かるのか」

「長いからね」

「またそれか」

「便利だよ」

「ほんと万能だな、その言葉」

 朱音は少し笑ってから、やわらかく言った。

「でも、本当に」

「うん」

「今日は前より届く気がする」

「そうか?」

「うん」

「何で」

「だって、今度は恒一くんだけじゃない」

「……」

「木乃実ちゃんもいる」

「うん」

「三田村くんもいる」

「うん」

「で、見たことが前よりちゃんと重なってる」

「……」

「それ、かなり違うよ」

「……」

「何」

「いや」

 僕は素直に言った。

「今の、わりと救われるなって」

「……」

「何で黙る」

「困るから」

「最近それ認めるな」

「認めないと面倒だから」

「また人のせいにした」

「事実だもん」


 午前中の授業は、正直あまり頭に入らなかった。


 いや、入ってはいた。

 ノートも取ったし、先生の話も追っていた。

 でも、その裏でずっと並べているものがあった。


 教師前の親切。

 前後の一言。

 教室外の空気作り。

 複数人が見た場面。

 そして、最後に必要なら親や学校や先生の立場の話。


 順番を崩すな。

 名前から入るな。

 感情を先に出すな。


 最近の僕は、そういう面倒なことばかり覚えている。


 昼休み。

 後ろの棚の近くで、木乃実と三田村と最後の確認をした。


「じゃあ」

 僕が言う。

「まず最初」

「うん」

 木乃実が頷く。

「資料やメモのずれ」

「そう」

「そこは私が言ってもいい」

「うん」

「“普通に見てて嫌だった”も言う」

「それ、かなり大きいと思う」

「でしょ?」

 木乃実は少し笑う。


 三田村は緊張した顔で、でもちゃんと目を上げていた。


「俺は」

「うん」

「自分が悪い方へ流れやすかったこと、言う」

「うん」

「あと」

 三田村は少しだけ息を吸った。

「今までだと、“俺の気のせいかな”って思ってたけど」

「うん」

「最近は、木乃実さんとか神代くんとか、他の人も同じ場面見てるって分かったこと」

「……」

「そこ、入れていい?」

「入れてほしい」

 僕は即答した。

「そこはかなり強い」

「……」

「何」

「いや」

 三田村は少しだけ苦笑した。

「神代くん、最近そういうとこちゃんと言うなって」

「最近必要だからな」

「うん」

「嬉しくない必要だけど」

「かなりな」


 木乃実がそこで、少しだけ真面目な顔になった。


「ねえ」

「何」

「親の話」

「うん」

「やっぱ最後?」

「最後」

 僕は答える。

「最初に出すと重くなりすぎる」

「うん」

「でも」

「でも?」

「先生が“そこまで続いてるの?”ってなったら」

「そこで出す」

「……」

「なるほど」

 木乃実は頷いた。

「やっぱその順番、きれいだね」

「そうか?」

「うん」

「何だよ」

「いや」

 木乃実は少し笑った。

「神代くん、最近ほんとそういうとこ上手い」

「それ、褒めてる?」

「かなり」

「最近割合なし多いな」

「今日は本気」


 放課後。


 教室から人が減っていく。

 部活、委員会、寄り道、まっすぐ帰るやつ。放課後というのは、みんなそれぞれ違う方向へ散っていく時間だ。


 その中で、僕と木乃実と三田村だけが少し残った。


 空気が静かになる。

 それだけで、これから話すことの輪郭が少しだけ濃くなる。


「行くか」

 僕が言うと、木乃実は「うん」と短く答えた。

 三田村も、小さく頷いた。


 教卓の方へ行くと、遠山先生がこちらを見た。

 たぶん、昨日のうちに僕が声をかけた時点で、ある程度は覚悟していたのだろう。前回と同じ“ちょっと聞こうか”の顔ではなく、最初から少し真面目だった。


「じゃあ」

 先生が椅子を少し引く。

「話そうか」

「はい」

 僕は答えた。


 前回より、教室が広く感じる。

 人が少ないせいか、あるいは僕たちが黙っているせいか。


「最初に」

 僕は言った。

「前回も少しお話ししたんですけど」

「うん」

「今回は、そのあとも続いた場面を含めて、もう一度話したいです」

「……」

「誰かを決めつけたいというより」

「うん」

「教室内外で、同じような流れが続いていることを伝えたくて」

「……」

 先生は黙って頷いた。

 それだけで、一回目よりちゃんと聞く姿勢だと分かる。


「まず」

 僕は続ける。

「先生の前で、誰かを助けるように見える場面がある」

「……」

「でも、その直前か直後に」

「うん」

「小さく誰かを下げるような言い方が混ざることがある」

「……」

「それを、僕だけじゃなく、木乃実と三田村も一緒に見たり聞いたりしています」

「……」


 先生の表情はまだ大きくは変わらない。

 でも、前みたいにすぐ質問を挟まず、まず全部受け取ろうとしている感じがあった。


「木乃実さん」

 先生が言う。

「はい」

「木乃実さんから見ても、そういう場面はあった?」

「ありました」

 木乃実は、今日はあまり迷わなかった。

「資料とかメモのずれの時もそうでしたけど」

「うん」

「最近は、“助けてるように見える”のに、直前か直後にちょっと嫌な言い方が混ざることが何回かありました」

「……」

「それが、一回だけじゃなくて」

「うん」

「何回か重なってるのが、普通に見てて嫌でした」

「……」

「普通に見てて嫌、か」

 先生が小さく繰り返す。

「はい」

 木乃実は頷いた。

「その場で強く止めるほど露骨じゃないんですけど」

「うん」

「だから逆に、後味悪い感じが残るっていうか」

「……」

「なるほど」


 先生はそこで、少しだけ深く息を吸った。

 前より、確実に重く受け取っている。


「三田村くんは?」

 先生が聞く。


 三田村は一瞬だけ指先をいじりそうになって、でも途中でやめた。


「俺は」

「うん」

「その流れの中で、悪い方に行きやすかったと思います」

「……」

「何かが遅れたり」

「うん」

「少しずれたりした時に」

「うん」

「自分でも、“また俺かな”って思いやすかった」

「……」

「で、その時に」

 三田村は少しだけ声を整えて続けた。

「助けてもらったように見えることもあるんですけど」

「……」

「その前とか後で、“またか”とか、“置いてかれてる”とか」

「……」

「そういう小さい言い方があると」

「……」

「自分が悪いって流れに、入りやすかったです」

「……」


 そこまで言って、三田村は一度だけ息を吐いた。


 先生は、今度はすぐに何も言わなかった。

 ただ、視線を外さず聞いている。


 その沈黙が、一回目より重い。

 それだけで分かる。


「あと」

 僕はそこで、ノートを軽く見た。

「前回のあとから、似た場面を少し整理しました」

「整理?」

 先生が聞く。

「はい」

「どういうふうに?」

「三つです」

 僕は答える。

「一つ目が、先生の前での親切に見える場面」

「……」

「二つ目が、その前後に混ざる小さい一言」

「……」

「三つ目が、教室の外で“クラスがだるい”とか、“細かいやつがいると空気が止まる”みたいな空気を作ること」

「……」

「それが」

「うん」

「別々じゃなくて、重なって続いている感じがあります」

「……」


 先生はそこで初めて、少しだけ眉を寄せた。


「教室の外でも?」

「はい」

 僕は頷く。

「直接名前を出すわけではないんですけど」

「……」

「最近は、“あのへんがだるい”みたいな広い言い方で混ぜることもありました」

「……」


 それだけでも、先生の中で一つ段階が変わった感じがした。


 一回目は、教室の中の違和感。

 今回は違う。

 今回は、教室内外にまたがって、同じような流れが重なっている話になっている。


「……分かった」

 やがて先生が言った。

「前回より、かなり整理されてるね」

「……」

「ありがとうございます」

 僕はそう返した。


「それで」

 先生は続ける。

「今の話を聞く限り」

「はい」

「これは、私が教室で“なんとなく見ていればいい”だけでは足りないかもしれない」

「……」

 その一言は、思っていたより重かった。


 木乃実も少しだけ顔を上げる。

 三田村も、はっきり驚いた顔をした。


「どういう意味ですか」

 僕が聞くと、先生は少し慎重に言葉を選んだ。


「まだ誰かを決めつける段階じゃない」

「はい」

「でも」

「……」

「少なくとも、“神代くんたちが敏感なだけかもしれない”では、もう処理しきれないと思ってる」

「……」

「だから」

「……」

「少し、私一人だけでは見きれないかもしれない」

「……」


 そこまで来るのか、と少しだけ思う。


 一回目より、ずっと先だ。

 まだ何も解決していない。けれど、先生の中で話の重さが変わったのは分かる。


「必要なら」

 先生は続ける。

「学年の先生にも、少し相談するかもしれない」

「……」

「ただし」

「はい」

「誰かを悪く言うためじゃなくて」

「……」

「今の空気を、別の目でも見てもらうために」

「……」

「分かりました」

 僕が答えると、木乃実も三田村も小さく頷いた。


 話が終わったあと、僕たちは教卓から少し離れた。

 歩きながら、木乃実が小声で言う。


「今の」

「うん」

「かなり大きくない?」

「大きい」

 僕は答えた。

「一回目より、だいぶ」

「“私一人だけでは見きれないかもしれない”って」

「うん」

「そこまで行くと思ってなかった」

「僕も」

「……」

「何だよ」

「いや」

 木乃実は少しだけ笑う。

「今日の神代くん、珍しく素直だなって」

「今日はたぶん、そこまで否定する余裕がない」

「それ、いい意味?」

「たぶん」


 三田村は、少し遅れて口を開いた。


「俺」

「うん?」

「今の、ちょっと怖かった」

「……」

「何が」

「話が、教室の外に行く感じ」

「……」

「でも」

「でも?」

「ちょっと安心もした」

「……」

「何だよ」

 僕が聞くと、三田村は小さく答えた。

「ちゃんと、話として届いた感じがしたから」

「……」

「うん」

 僕は頷いた。

「それは、たぶん僕も同じだ」


 少し離れたところで待っていたエヴァと朱音が、こっちへ来た。


「どうでしたの」


 エヴァが聞く。


「前回より、かなり届いた」

 僕が答えると、エヴァはほんの少しだけ表情を和らげた。

「そう」

「うん」

「それで?」

「先生が」

 僕は少しだけ息を吐いた。

「“私一人だけでは見きれないかもしれない”って」

「……」

「なるほど」

 エヴァは静かに頷く。

「ようやく、そこまで行きましたのね」

「そこまで、か」

「ええ」

 彼女は続ける。

「つまりこれは、初めて担任個人の違和感ではなく」

「うん」

「学校の中で共有されるかもしれない話になった」

「……」

「何ですの」

「いや」

 僕は苦笑した。

「やっぱり君、そこを言葉にするのうまいなって」

「当然です」

「強いな」

「必要なので」


 朱音は、僕の顔を見て少しだけ笑った。


「届いたね」

「少しだけな」

「ううん」

 朱音は首を振る。

「今回は、“少しだけ”でもだいぶ違う」

「……」

「何で」

「だって」

 朱音はやわらかく言った。

「今度は先生の中で、“教室の中の違和感”じゃなくて、“自分一人では見きれないかもしれない話”になった」

「……」

「それ、かなり大きいよ」

「……」

「何だよ」

「いや」

 僕は素直に言った。

「今の、かなり救われるなって」

「……」

「何で黙る」

「困るから」

「最近ほんとそれ認めるな」

「認めないと面倒だから」

「また人のせいにした」

「事実だもん」


 二度目の相談は、一度目より静かに重い。

 そして今日は、その重さがちゃんと向こうへ渡った気がした。

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