「たとえ、現場に駆けつけることができなくても、今ここでできることはある!」
警察署の外からは、荒れ狂う風の音だ。それがひっきりなしに聞こえてきている。この町は今なお、台風の暴風域だ。
「ふと思ったんだが」
ベイカーが口を開く。
「殺された人物は、大富豪以外の気がする」
「どうして、そう思うんだ?」
「執事の様子だ。主人が亡くなっているなら、たとえ電話ごしでも、それが何か感じ取れそうなものだが」
たしかに、とアーノルドは思った。
あの電話に出たのは、アーノルド自身。もしも大富豪が亡くなっているなら、執事の様子はいくらか違ったものになっているはず。
しかし、それは別の可能性も示唆していた。
「大富豪が『被害者』で、執事が『犯人』とかな」
他の三人が沈黙した。
考えられる限りだと、最悪のパターンかもしれない。
あの執事が『犯人』だとすると、これは「計画的な犯行」の可能性がある。
はたして、単発の殺人で終わるだろうか。
そうじゃない場合、丘の上の館は今頃・・・・・・。
チャーリーが沈黙を破る。
「スペシャルバッドエンドの推理小説が、一本書けそうだな」
と同時に、窓の外で大きな雷が鳴る。
「やめてよ。せめてメイド二人は、生還させて欲しいね」
「そうだ。三男の取り調べで、メイドの名前がわかったぞ」
アーノルドはさっき、その情報については省略したが、
「ガーベラとハミーだ」
すると、デデーオーがさらに聞いてくる。
「金髪なのは、どっち?」
「そいつはチャーリーだ。丸眼鏡をかけている。とっても素敵な人物だ」
「・・・・・・僕が知りたいのは、それじゃない。いいよ、あとでベイカーに聞く」
そして、再び沈黙だ。それぞれが頭の中で、「執事が犯人という可能性」を掘り下げる。
またもや、窓の外で大きな雷が鳴った。
「リーダー、どうする? このまま『推理』を続けるか?」
今回の沈黙を破ったのは、ベイカーだった。
もしも執事が『犯人』なら、最初の電話や、そのあとの不通についても、疑わなければならない。
執事が警察を混乱させようとしている。その可能性を拭いきれないのだ。
たしかに、前もって『推理』しておけば、『初動捜査』に活かせる。『初動捜査』は事件解決の糸口だ。警察官が入り口で転べば、犯人は笑顔で裏口から出ていく。『初動捜査』の失敗は、事件を『迷宮入り』へと誘うのだ。それほど重要。
そう考える一方で、アーノルドは限界を感じていた。
(丘の上の館で起きた殺人事件について、必要な情報が不足している)
やはり、土砂崩れの復旧作業が終わり、現場に駆けつけるまでは、これ以上の進展は期待できないのか。
ここまでの『推理』を、アーノルドはふり返ってみる。
さまざまな可能性を検討した。
そのどれかが、正解かもしれない。一方で、すべて不正解という可能性もある。
ただ、これだけは言える。
(「ひまつぶし」にはなったな)
外は暴風域だ。まだ朝は遠い。
そこで突然、チャーリーの携帯電話が鳴った。
画面を見るなり、
「庭師からだ! 奴さん、生きていたぞ!」
チャーリーが叫ぶ。
そして、かかってきた電話の内容は――
新たな事件の発生だ。
庭師の参加した結婚式が、数時間前から大変なことになっていたらしい。名づけて、『時限爆弾結婚式ゲーム、五人の花嫁デスマッチ事件』。
犯人によって「特殊なルール」が設定されており、現地の警察官には通報できないという。
そんな中、庭師は危険を冒して、助けを求めてきた。
アーノルドたちは、この警察署きっての実力派チームだ。これまでに数々の難事件を解決してきた。
『不良紳士』、アーノルド。
『北欧の処刑人』、ベイカー。
『金色混沌』、チャーリー。
『電脳不眠者』、デデーオー。
たとえ、現場に駆けつけることができなくても、今警察署内でできることはあるのだ。
リーダーのアーノルドは、頼もしい三人の仲間たちに告げる。
「よし、事件の『推理』をするぞ!」
ご愛読ありがとうございました。
∠( ̄◇ ̄)∠( ̄◇ ̄)∠( ̄◇ ̄)∠( ̄◇ ̄) 敬礼!




